第338話 塔の家具設置
北の大地から家具ともども地の民を【転移】。
今日は予定通り、仮納品。塔の形に合わせた家具とかもあるし、階段とか扉よりでかい家具があるので、中で組み立てて仕上げをする。
なにより、玄関ホールの階段と上をぐるりと囲む廊下の手摺りとか、ここでの作業だし。
「ではよろしく」
「任せろ! 我ら地の民の威信にかけて!」
「威信にかけて!」
ガムリの声に全員が唱和した後、すぐに自分の持ち場に散ってゆく。俺が設置した手摺や精霊灯の台座が取り外され解体されてゆく。
しばらく眺めていたが、塔の中は狭いし階段はもっと狭いので、邪魔にならないように俺は下の倉庫に退避することにする。もともと外敵警戒用の塔だし、大きくないのだ。一階一部屋で、一人暮らしにしては広いけどね。
確認があれば声がかかるはずなので、俺も塔から動けない。玄関を出て、外階段に出ると、城の中庭はだいぶ様変わりしている。
俺の塔の周辺だけでも、飾りを兼ねた目隠し壁や、木が植えられ塔の入り口を隠す。リクエストして目隠し壁と塔の階段の間に日よけの棚を作ってもらい、下は石のタイル。日除けの棚は蔓バラになったようだ。
涼みながらダラダラできるよう、後でここにアイアンテーブルを設置予定。冷え冷えプレートのおかげで、実は中の方が涼しいんだけどね。
玄関は外階段を上がって二階、倉庫は荷物の搬入用か、一階にある。まあ、家畜小屋になってることもあるし、一階というのは少し前まで居住スペースとは考えていなかったっぽい。
この倉庫は階段は壁の中で、上にも下にも行けず独立している。で、俺がソレイユに売って欲しいものを入れておく場所になっている。俺が島に来るのは気まぐれだし、ソレイユは忙しいから。
「青トカゲ君、うるさくてごめん」
ちょろりと顔を出したこの塔の精霊に詫びを言う。一応、作業は伝えてたけど、地の民は何かと騒がしいから。
「だいじょうぶ、あの声は心地いい。せっかく作ったのに壊しちゃうの?」
「ああ、俺は家具とか本職じゃないから。腕のいい人たちに会ったから、頼んだんだ」
「そうなの? 僕、今まであった家具も好きだよ? なんだか落ち着くかんじで」
「ありがとう」
青トカゲ君は色が綺麗になって、尻尾が伸びた。体は小さいけれど、壁の中に消えている尻尾が塔をぐるりと巻くほど長い。この塔で一番強い精霊、たぶん島の中でも一番強いんじゃないかな? 攻撃力はないけど、防御は任せてって言ってたので、強いの定義が難しいけど。
「作業、見てきていい?」
「もちろん」
嬉しそうに壁の中に消えてゆく青トカゲ君。
さて、せっかくだから倉庫に何か入れておこうか。
壁沿いに置かれた棚の箱に魔石を少々、精霊銀少々、真ん中にドーンと置かれたテーブルに毛皮を少々――毛皮は前回適当に丸めたのを出したら叱られたので、せっせと広げる。あとは砂漠で手に入れたのを適当に……。
「島のソレイユ!!」
突然扉をばーんと開けて、駆け込んでくるガムリ。
「なんだ?」
「魔道具の移動を頼む! 我らでは扱いがわからん!」
精霊灯は普通に回収してた気がするけど、なんだろう? ついて行ったら冷え冷えプレートのことでした。
壁や床に取り付けたものを回収。部屋には腰板っぽいものを抱えて待機している地の民が三人、梯子を抱えて待機している地の民が二人。各部屋で三人から六人くらいが作業をしているようだ。
ガムリについてもらって、邪魔にならないよう作業の進捗を見て回る。作業する音をリズムに、歌うような掛け声が響き、それに合わせて精霊がチラチラと姿を見せている。時々壁から青トカゲ君の尻尾がうねって見える。
加工済みの板を天井に貼り、腰板をめぐらし、ベッドフレームを組み立て――難しいだろう作業を簡単そうに行う地の民。
そして床に張り付いている半裸の地の民が数名。
「硫黄谷のモリク、何をやっている! 地の民ともあろう者が作業を滞らせるなど! 誇りはどうした!」
ガムリが怒鳴る。
そっち!?
「黒鉄の竪穴のガムリ、誤解だ。我らは女神の巨木、この見事な床面の感触を覚えておるところだ! 我らが用意した棚、机共にこのような滑らかさは持たん! だが近づける! 近づけるならば、学ばねばならんのだ!!」
「この全身全霊をかけて!」
「この全身で!」
床に伏せたまま、モクリの言葉に続ける地の民二人。そういえば塔の作業階の床は、俺が輪切りにした巨木を敷いたんだった。
「むう。確かにこの床は見事! 我らをもってしても女神の巨木をここまで美しく平にするのは難しい。硫黄谷のモリクよ、学べ! 存分に学べ! そしてこの美しい床を超えて見せよ!」
「おう! もとより我らそのつもり!」
すみません、これ『斬全剣』でスパッとやっただけなんです。真っ直ぐ切る分には美的感覚もセンスもいらないので……。あと、床に頬ずりしたまま言われるのも微妙。
塔で褒められたのは、この床、虫除けレースと窓の精霊鉄の細工。床は木目頼りだし、後の二つは精霊の作品だ。
配置作業に入ったので、声をかけて俺はちょっと『精霊の枝』はどうなったのか覗きにいくことにする。
「我が君、パウロル様、オルランドの両名は無事『精霊の枝』に入られました」
城門を出たら当たり前のように笑顔のアウロが。
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