第334話 おしゃべり会開催

 ふんふんしながら昼の準備。


 今日の参加者はアッシュ、執事、ハウロン、シヴァという執事を除いて乙女なので、いつもより彩りよく色々なものをちょっとづつ。


 【収納】のいいところは、作りたてで全部出せるところ。


 俺の家に続く路地の鉄格子を閉める。アッシュの家とディーンたちのいる貸家の間にあったヤツを新しくした。格子と目隠し半分の模様入り。これで俺の家に続く路地には他人は入ってこられない。


 路地の入り口付近には真っ白いシーツを何枚か無駄に干す、これで中は通りから覗いても見えない。もともと決まった時間以外は人通りないけどな、店がある通りからは離れてるし。


 カヌム周辺では冬でも急に暖かくなることが偶にある。陽の精霊が来たとか、風の精霊が火の精霊を連れて通ったとか言われる。


 南に山脈があるからフェーン現象かなとも思うのだが、実際そういう日は陽光の精霊がそこかしこで遊んでいる。乾きの精霊とかもね。自然現象が先か、精霊が先か迷うところ。


 で、今日がそういう日。荷馬車用の扉を大きく開けて、外と中の境を無くす。昨日まで暖炉に張り付いていたのに、今日は上着を脱いで腕まくりをしてもいい陽気。お湯を沸かしたりで暖炉に火を入れたせいで部屋が暑い。


 大きめのテーブルを家の前に出して真っ白いテーブルクロスをかける。テーブルライナーは何色がいいかな? 食器、五人分の椅子、周囲に大きめの鉢植えを配置して準備完了。


「ジーン、お招きありがとう。外だというのに素晴らしいな、これはジーンの出すお茶に及ばんかもしれんが飲んでくれ」

一番乗りはアッシュ。出迎えた俺に、執事が陶器の入れ物に入ったお茶を見せる。


 こっちでは安いお茶は入れ物持参で量り売り、乾いた大きな葉で包まれているものは安い。次に紙袋、缶、最高級は執事の持って来た封のされた陶器入り。


「ありがとう、食事の後で出そう」

そう言うとアッシュは席に着き、執事は家の中に入って棚に茶の器を置く。


「ジーン、来たわよ。今日はありがとう」

「シヴァ、いらっしゃい」

普通は贈り物の受け渡しは使用人同士でやって、主人は見るだけなんだろうなあと思いつつ、シヴァを迎える。シヴァはジャムをくれた。


「ほれ、椅子が5つ。諦めろ」

「アタシが立ってるわよ!」

振り向いたら借家の裏口からレッツェとハウロンが出て来たところ。


 なんかハウロンがレッツェの肩を掴んで押し出してるんだが……? レッツェの後ろで、頭一つ分高いハウロンがなんか必死な顔をしている。


「アナタがいないと絶対浮上できない目にあうのよ! 依頼料は出すから、慣れるまで付き合ってちょうだい!」

「呼ばれてもいないのに昼時に迷惑だろうが……」

なんか女子中学生みたいなこと言ってるハウロン、爺い、髭、デカイ。


「ほう、レッツェは大魔導師殿にも頼られているのだな」

「うん、さすが」

アッシュに同意する俺。何が原因の信頼かわからんけど、レッツェがいると色々安定する。自分の立ち位置がブレないし、バランス感覚がいいのかな? 見習いたいところ。


「そうでございますな……」

同意しつつも視線をそらす執事。


「椅子も食事も大丈夫だぞ」

椅子を一脚追加して、机の上の食器も追加。執事がバランス良く整えてくれる。


「あー。すまん、土産は後でこの大魔導師からもらってくれ」

レッツェがそう言って腰をかける。


「この際、持ってるものなら何でも出すわよ」

ハウロンもそう言いながら、ホッとしたように席に着く。


 花の香りのする食前酒。半分形を残して潰した海老に麻竹を合わせて練った具を、開いた車海老にのせて、薄い米粉の皮で包み、揚げたもの。牛ヒレ肉と真鯛のカルパッチョ二種、生ハムサラダ。サラダは焼き溶かしたカマンベールにベリーのソース。


「む、海老か。オレンジが透けて――ジーンが作ると綺麗だな」

「ありがとう、マヨネーズどうぞ」

アッシュに小さな皿に入れたマヨネーズを渡し、他のそれぞれの皿の近くに配置する。


「パリッとしてぷりっとして美味しいわ」

一口食べたシヴァが言う。


「待って。すでに待って?」

「――料理の時の【収納】使用は最近でございます」

「家の中と食事は早々に諦めた方が楽だぞ。家具とか調理道具とか……。うん、美味い」

そう言って海老をサクッとぷちっと噛み切るレッツェ。


「まあでも、家の外だからアウトな。隠せばいいって思ってると、そのうち外に出た時でも簡単に使うようになるぞ」

釘を刺してくるレッツェ。


 すみません。ナルアディードでの買い物とか、つい使っています。カヌムでは、カヌムでは使わなくなりましたんで、見逃して。


「普通の食事に【収納】を使うってどうなの? そんな軽いものなの? アタシが表に出てた時代は人狩りが起こるレベルだったんだけど」

執事を見て、俺を見て、レッツェを見て、美味しそうに食べるアッシュとシヴァを見る。


「熱いものを熱いまま、冷たいものを冷たいまま出すには必須。暖炉のそばで作りながらならこの人数でもいけるけど、暑いぞ」

快適さは譲れぬ事項。


 次はそば粉で作った香ばしいガレット。こっちもクレープみたいな皮を薄くパリッとさせて、中にハムとチーズ。半熟目玉焼きを入れたいところだが、今回は控えた。


「何で? 順応できないのアタシだけなの!? シヴァまで普通に受け入れてるの? アタシ、頭固いの?」

「突っ込みたくなる気持ちはよくわかる。よくわかるが、ジーンはこれで隠そうとしてるし、実際隠してるんだ」

レッツェが落ち着かないハウロンに語りかける。


「どこが!?」

「目の前で赤裸々に能力を使うのは、信頼の証でございます」

執事のフォロー。


「誓文入れたからでしょ!?」

「ハウロン導師、食事は静かに」

シヴァの氷の微笑み! 一瞬固まった後、大人しく食べ始めるハウロン。


「シヴァはツンとしてたけど、二、三度訪ねて来た時は慇懃だったのに……」

結婚して子供ができると強くなるのかしら? などと呟いているハウロン。


 リンゴのコンポートとシナモンキャラメルソース、アイス添え。アッシュからの差し入れのお茶。


 昼はこれで終わりだが、今日はこのままハウロンの話を聞く。なので、マカロンやマシュマロなどのつまめるお菓子に、酒飲み用にフライドポテト、オニオンリング、罠な感じにイカリング、チーズ盛り合わせ。


「ささ、アッシュのお祖母さんの話とか、執事との出会いとか、当たり障りがなければぜひ」

当たり障りがあっても聞きたいです。

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