第328話 落ち着いた会話は
「……」
ハウロンがカーンを連れて戻って来た。いや、正しくはカーンがハウロンを連れて来た。
ハウロンは何か凄く納得いかなそうな、疲れたような、怒ったような複雑な表情をしている。何かよろよろしてて、無言で崩れるように椅子に座ると机に突っ伏した。
「お疲れ」
ディノッソが声をかける。
「……泣いていいかしら?」
突っ伏したまま弱弱しい声を上げるハウロン。
「感動の再会で……もがっ」
「追い打ちはやめてやれ」
レッツェに口を塞がれる俺。
何故!?
「どうぞ」
執事がハウロンの前に新しいお茶を置く。
「ありがとう。情報も感情も色んな意味でキャパオーバーだわ」
頭痛をこらえているような、眉間に深いシワ。片手で額を押さえながらもう片手でカップを包む。
「どのような出会いかお伺いしても?」
椅子にかけた執事がハウロンに聞く。
「ティルドナイ王にお会いしたのは幼い頃父に連れられた一回、父の後を継いだ時に一回。――あの人の住めない砂の中の国に、転移の秘法を求めた高祖がたどり着き、その頃はもう壊れていたけれど『王の枝』を持つ者を見つける約束をして、転移の陣を調べさせてもらったの」
座り直してハウロンが話し始める。
ちなみにカーンは暖炉の前に椅子を持って行って陣取った。ついでに肉を焼くので回してください。
「……」
今は口を利いてはいけないらしいので、無言で串に刺した丸鳥を設置する俺。暖炉のそばはカーンの席で、ハンドル付きの串に刺された肉を設置すると回してくれるのだ。
二段三羽ずつにした。俺と執事、レッツェは半身くらいで満足するのでカーンは二羽いける。実験的に寝かせている間は精霊に突きまくってもらったので、多分半精霊と化したカーンにも味がすると思う。
おそらく、多分。ダメだったらカーンには酒を渡して、肉は後でディーンに食べてもらおう。ハウロンの話が終わる頃にはきっとこんがり焼きあがる。
「……『王の枝』は一度国に据えられて、精霊が集まりだしてしまっては動かすことはできない。代々『王の枝』を求める者の手助けをしてきたわ」
ここでため息をついて、場所を移動。鳥の刺さっている金串を回し始めるハウロン。
大魔導士が鳥を焼いている、シュール。あ、ちょっとレッツェ、ほっぺたにも人権というものが! 着席させられる俺。
「一度めの『王の枝』を求める試練に失敗した後、父に試練について調べることを禁じられていたのに調べてしまってね。私は自分で『王の枝』を手にいれることができなくなってしまった。――知識を求めるのは血筋のようだから、多分父も同じ失敗をしたのね」
肩をすくめるハウロン。
「それでも気まぐれで三年ほど手元に置いた、エミイが『王の枝』を求める旅に出るなんて思っていなかったわ」
今度は執事の方に向かって。
エミイって誰だ? 執事の方を見たってことはアッシュのお祖母さん?
「持ち帰ることもできましたのに、残念でございました」
執事が目を伏せる。
「あら? 王家の――いえ、公爵家の制約は解けたの? 公爵から口止めされてたはずよね? せっかく手に入れた『王の枝』をお家騒動で失ったなんて、醜聞以外の何ものでもないもの」
「お陰様で」
にっこり笑う執事。
「とうとう公爵家を根絶やしにしたのね。エミイの血筋は残すのかと思っていたけれど。まあ、あの息子は公爵の姿にそっくりだったものねぇ。馬鹿だし」
頬に手を当てて言うハウロン。
不穏、不穏な会話が!
「代替わりいたしまして、その息子が現公爵でございます。現公爵も、エミール様の孫、レオラ様もご無事でございますよ」
執事が言う。何故かちょっと表情が悪い顔。
エミイとエミールはイコールでいいのか?
「あら、てっきり自分で手を下せない代わりに、誰かけしかけて潰したのかと思ったわ!」
「ほっほっ」
態とらしく言うハウロンに、態とらしく笑う執事。
火花、火花が散ってる気がする。仲良しなわけじゃないのかこの二人!
「うわー。公爵家の乗っ取り、リリス嬢の暗躍なのかと思ったら下地はノートっぽいな……。制約が何なのか知らねぇが、誓文みたいなので縛られてんのか? 公爵への直接の手出しを封じられてたってことか」
レッツェが隣で呟く。
執事は公爵家から何らかの制約を受けてて、それに不満を持ってたってことでいいのかな? まあ、同意無し、納得いかずだったら他人に制約受けるのは俺もやだ。
現公爵の子じゃなくって、エミールの孫って言ってる辺り、アッシュのことは不快に思っていないというか、好いているんだろうけど。
貴族のドロドロ怖い! いや、貴族のなのか? 謎だけど。
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