第327話 依頼前の確認

「二つ、でございますか?」

執事がわかるかわからないかくらいに首をかしげる。


「いえ、誓文の時から数えると三つ、四つ……」

はっとして言い直すハウロン。


「増やすのやめてください」

「アタシのセリフよ!!!!」

苦情を返された。


「落ち着け。あんまり興奮すると体に良かねぇし、保たねぇぞ」

ディノッソがハウロンに声をかける。


「そう、そうね。それにアタシ個人にとっての最優先事項があるわ……。アナタは王の枝を持っている・・・・・のね?」

「うん」


「ノート、お嬢の絵本譲ってあげる。引っかからないなら、ちょっと手伝って」

少しだけ目を見開くと、肯定の意味なのか執事が会釈する。


 お嬢とか引っかからないとか何だ?


「バルモア、シヴァはアタシに借りがあるわね? 旦那のアンタが返しなさいよ」

執事の反応を確かめて、今度はディノッソに向かって言う。


「何だ、突然。やるけどよ」

突然の依頼に驚きつつも受けるディノッソ。


 そして何故か俺に向かって跪くハウロン。


「アタシと一緒に来て欲しい。三日、いえ二日でいいわ。代わりにアタシの持つ魔道書、溜め込んだ財宝、秘技、全てアナタに譲る。安全については今確保した。――どうかお願いします」

そのまま深くこうべを垂れる。困るんですけど。


「いや、要らないけども」

思わず否定。


 でも深く頭を下げて、微動だにしないハウロン。


 ディノッソを見る。手を広げて上にあげて、わからないのジェスチャー。


 執事を見る。こちらもゆっくり首を振る。


「お嬢って誰?」

執事に聞く俺。


「アッシュ様のお祖母様でございます」

微笑む執事。


 あ、これ執事が絶対欲しいやつだ。アッシュも見たいかもしれない。


「ジーンに何をさせるつもりだ?」

ハウロンに聞いた、レッツェの声がちょっと低い。


「滅びた王国の、王の枝を壊して欲しい。そして王の枝に囚われた一人っきりの王を解放してあげて」

顔を伏せたまま、悲痛な声を出すハウロン。


「……やべえ、オチが見えた」

答えを聞いたレッツェが額を覆って声を絞り出す。


「俺も何となく」

決まり悪そうに視線を流すディノッソ。


「私めも……。ハウロン殿、絵本の代わりにいいことをお教えしましょう。昨夜泊まった借家の――この時間でしたら居間の暖炉の前を確認してから、もう一度お話しをしましょう」

執事がにこやかに言う。そっと絵本を確保しているあたりが執事らしい。


「呼んだ方が早いけど、感動の再会なら人がいない方がいいだろうな」

俺もオチが見えた。頼みごと以前の問題だこれ。


「ちょっと、いきなりなによ? なんで慈しみの目で見られてるの!?」


 納得のいっていないハウロンを立たせて外に押し出す。待つ間、俺たちは暖かい暖炉の前でお茶。


「受けてたら砂漠か。寒いから二日くらいなら行っても良かったかな」

ディノッソがニヤニヤしながら言う。


「当たってたら、今頃カーンと顔を合わせてハウロンはパニックだろ。枝に囚われた王なんかそうそういねぇだろうから違うってことはないだろうけど。大抵は枝が崩れて終わってるからな」

レッツェがそう言って、遠くを見る。


「ハウロン殿が王の枝にこだわっていた理由がようやくわかりました。そして最後の試練の旅に同行しなかった理由も。今思うと、試練の内容を知っていたせいでついて来たくとも来られなかったのでしょうな。一体いつから王の枝を求めていたのでしょう」


「そういえば俺にも盛んに勧めてたな。ところで、朝っぱらから酒を飲みたくなるなこれ」

ディノッソが言う。


 手元には俺の出した、チリソースを塗った餃子の皮でソーセージを巻いたやつ。上にチーズを散らして焼いたので、外側にはカリカリのチーズがくっついている。あとは一口大のカニクリームコロッケ。


「あんまり飲ませるとシヴァに怒られる」

まだ朝の範囲だし、ダメ。


「それにしても水煙草といい、エスっぽい趣味だなとは思っていたけど、カーンの知り合いだったんだな、ハウロン」

「そのようですな」

執事がどこから持ち出したのかナイフでカニクリームコロッケをさらに半分にしてる。どこからって、きっと袖口からだろうけど。


「パーティー仲間でも、そんな話は出なかったんだ?」

「お互いあまり深入りはしませんでしたので。それにパーティーを組んでいたのはごく短い期間です」

「そうなのか? なんか大冒険の長い旅に出てたのかと思ってた。伝説のパーティーだって聞くけど」


ちまたじゃ『伝説のパーティー』って持ち上げられてるが、ハウロンとはともかく、そもそも俺はノートと組んだことがねぇし。否定が面倒なんで言わせとくけど」

ディノッソが面倒そうに言う。そういえば年齢が合わない。


「微妙に活動時期が被ってるのと、交流があるせいで一緒くたにされてる――というか、だったらいいなとか、見てみたいって言う類だな。ちょうど役割的にも合う、捏造された冒険譚も多いぞ。ディーンも一緒に冒険してたエピソードは話さないだろ?」

レッツェが説明してくれる。


「あー」

憧れの王狼と女性二人の話してんのかと思ってたが、どうやら違う。一応、作られた話は排除して聞かせてくれていたらしい。


「噂話は話半分で聞いとけよ? 権威ある人の話だって調べた記録の方が間違ってることもある。親しいやつの話だって悪気なく間違ってる可能性がある」

「はい」

そういえば、ルフの末裔も入れ替わってたな。気をつけよう。


「レッツェ、シナモンの集め方って知ってる?」

崖の上の鳥の巣から奪うと言う、この疑わしい情報の否定を是非!


「ああ、特別な鳥の巣を集めるとか、エス川の湧く始まりの場所で網で掬うとか言うやつか?」


 増えた!?

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