第321話 真面目に講義を受ける
「坊やのこだわるところが分からないわ〜」
ぽかんとした後、ハウロンが言う。
「だってリンリンの方が絶対響が可愛……もがっ」
「話が進まないから止めろ」
ディノッソに物理的に話を止められた。
「ジーン様、なぜ人格が入れ替わるのかなど、もう少し聞くべきところが……」
執事がそっと提案してくる。
いやもう、骨を目印に【転移】なファンタジーなら人格が入れ替わるくらいは有りかなって。リンリン老師の性格とオネェとの落差はちょっとびっくりしたけど。
「何で?」
ハウロンを見て聞いてみる。
「このやっつけ感! ――面倒な世渡りは作り出したリンに任せて、アタシは意識の宮殿で魔法の研究三昧してるのよ。今回この二人に引っ張り出されちゃったけどね」
「作り出した人格なのか、器用だな。それも魔法?」
リンリン老師の人格が真面目なのは、仕事をサボらないようにか?
「そうね。祝福の歌や呪術を組み合わせた応用よ」
「色々できるんだな」
性格改造はやろうとは思わないけど。ああでも、戦闘時にちょっと勇敢になりたいとかも、一時的な性格改造になるのかな?
「そう言う坊やは? この二人から魔法の手順を教えてやってくれって頼まれたんだけど。力の強い精霊が憑いている状態で、できないとしたら精霊に与える魔力の調整かしら? 制御かしら?」
ハウロンが笑って手をひらひらとさせる。
「基礎をお願いします。普通は何を用意して、どんな手順を踏むのか。とりあえず【転移】は、呪物を用意して魔法陣と呼応させといて、発動は呪文?」
二人の頼んだ通り、手順が知りたい。
「そうよ〜。今回、呪物はアタシの血族の骨に呪文を刻んだものね。他にも何箇所かあるけれど、それぞれ魔法陣と呼応するようになっているの。魔法陣の発動は、呪文で精霊の気を引いてお願いする、同時に骨に刻んだ呪文も精霊を呼んで道を繋げるの」
「呪文は一言じゃダメ?」
「精霊の気をひく音で、発動させたい魔法陣の意味に沿ったものね。魔法陣も組み合わせたものを順に発動させないといけないものもあるから、文節が長くなるものもあるわ。さっきみたいに人数とか変化するものは、呪文で指定したほうが便利だしね」
肩をすくめてみせるハウロン。
「韻を踏んだり、美しい音だと精霊が力を貸してくれやすいわよ?」
「そうなのか?」
ウィンク一つもらったが、厨二っぽいので喜ぶのは俺たち人間側な気がしないでもなく。
俺が視線をやると、ディノッソと執事は黙って真面目な顔をして俺を見返してきた。ディノッソのツンデレドラゴンは嫌そうに明後日の方を向いている。
意見を求めて座布団を見る俺。少し間があったかと思うと、端を振りつつ頷いてくる。えーと、それは「いいえ」「うん」? どっちでもない?
もう少し見えるように調整したら、ハウロンに四匹の精霊が憑いている。
華やかな花弁みたいな髪を持つ精霊、赤い帽子に土色の肌を持つ小人の精霊、薄い青い衣の精霊、あと何故か華やかな精霊に踏まれている一反木綿みたいな精霊。それぞれ座布団並みに大きい。三匹が頷き、一反木綿が首を振る。
どうやら精霊の好みによるようです。
「魔力を制御するのに杖を使うこともあるわ――精霊の木に精霊が生まれ集うのを模して、木で作るのが一般的。精霊が好みそうな呪文や模様を刻んだり、魔石を
そう言ってハウロンが手を振ると長い杖が現れる。【収納】持ち? あるいは何か別の魔法?
ディノッソたちは金ランクの冒険者、迷宮の深い層にも足跡を残している。冷静に考えて【収納】持ちか、それに類する能力の持ち主がパーティーにいて不思議ではない。執事がそうかと思ったら、服に隠せるサイズ専門というか、【暗器】だったしな……。
ハウロンが手にした杖には赤い魔石、いや雫石がついている。雫石は精霊が自分の力の一部を凝らせて与えた魔石より力の強い石だ。属性だけでなく、当然与えた精霊との結びつきも強い。
「相性の良さそうな枝でも持って、集中してごらんなさい。きっといつもより魔力の扱いが簡単なはずよ?」
「よし」
「止めろ」
張り切ってエクス棒を腰のホルスターから引き抜いたら、出し切る前にディノッソが止めてきた。
「ジーン様、エクス棒様はお仕舞いください。周囲が破壊で大惨事にならないまでも、私の精神が大惨事でございます」
執事に頷くディノッソ。
大惨事。まあ、エクス棒が張り切って、効果を倍増ししてきそうな気はする。二人の言うことを容れて、エクス棒を腰に戻す。
「しばらく会わないウチに、随分愉快な言い回しをするようになったわねぇ。貴方の動揺なんか見たことがないわよ?」
「……色々あるのでございます」
ちょっと遠い目の執事。昔の王の枝を探す旅を思い出しているのだろうか……。カニをつついたことは内緒にしておいた方がいいだろうか。
「――とりあえず、アタシが火球を出してみせるから、坊やは坊やの方法で同じものを出してみなさいな。見てから何が足りないか判断させてもらうわ」
「はい」
「行くわよ。『火の花の髪、美しき乙女ファンドール、目指すは杖指す先、捧げる魔力は100分の一、火球!』」
一反木綿を踏んでいた華やかな精霊が杖に手を添えて力を貸す。
杖の先からまっすぐに飛び出た火球が、的にされた石柱に当たって岩をえぐる。
「さ、やってごらんなさい」
「はい」
「『同じようにお願いします』。……あ」
ハウロンの杖から火球が飛んだ!
「ちょ、ちょっ! 何で私の杖、ファンドール……っ、私の魔力が使われ……っ!」
パニック気味なハウロンを尻目に、ファンドールが手を振ってくる。
「まあ、同じものを出してみろって課題だから問題ないな」
そういうことにしよう。ファンドールに手を振り返しながら結論付ける。
俺ってやろうと思えば他人の魔力も使えたんだな――って、そういえば迷宮でローブ男とか眼鏡の魔力使いまくったっけ。
「おかしい、おかしいでしょう!? ちょっと! バルモア!」
ディノッソに詰め寄るハウロン。
「明後日の方向にずれてるって伝えたろうが。これくらいで動揺するな」
「これくらいって……っ! 頭おかしいわよ!!! 影狼!! どういうこと!?」
ディノッソの胸ぐらを掴む勢いで迫りながら、今度はばっと執事を見る。
「――魔法は範囲外でございます」
いい笑顔で会釈を返す執事。
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