第320話 属性過多
「呪文は精霊の興味を引くもの。言葉遊びのようなもので、重要なのは魔法陣。規模の大きなものともなると、他にも念入りな準備がいる」
え。困るんですけど! いやでも興味はある。
「見よ! 特に目視できぬ場所まで居を移す【転移】は、我が血族の集大成」
石柱――でかいので近くに寄ると柱には見えないけど――の苔を手で払うリンリン老師。
石に刻まれた魔法陣が現れる。そのまま地面に幾何学模様と呪文の線が苔に覆われた地面に続く。
「この下には我が血族が眠る」
「えええっ」
お墓!?
「魔法において使われる
いきなりふわふわしたファンタジーから暗黒魔法方面に舵を切ったぞ。
「もう少し軽いのでお願いします」
「これは生贄ではないから安心せい。儂もいつか、血族のためにどこかの地に眠ることになるだろう」
「真似ができないので、もう少し軽いのでお願いします」
大切なことなので2度言いました。
「ふん、気軽に簡単に使えると夢想しておった口か」
鼻を鳴らして冷めた目で俺を見るリンリン老師。
「そもそも、俺に血族は――……」
いるな、特に埋めても困らないのが。俺はそもそも【転移】はできるわけだが。ああ、でも。
「おい。不穏なことを考えてないか?」
ディノッソが腕組みを解いて、俺に話しかける。
「某所にいる某勇者が、今頃力のある魔法使いを
「怖いこと言い出すな!」
ディノッソが叫ぶ。
「……」
執事は考えている!
「ちょ……まさか、心当たりあんじゃねぇよな?」
ディノッソはどんびいている!
「確か、シュルムが足がかりにした国の先には、二年ほど前に大規模な魔法を使った小国が。少々情報を集めてみましょう」
執事が言う。
そういえばオオトカゲ狩りに行って、黒精霊と強い魔物がいたのって
「勇者? それがなんだというのだ。いくら力を持とうとも【
二人にまで冷たい視線を投げかけるリンリン老師。【転移】は一族の秘術的な何かか?
「勇者その一は【全魔法】持ちで、効果はこの世に書き留めてある魔法は全部使えるという反則技」
魔法に精霊を消費することを考えると、書かれている条件は整えなくてはならないんだろうけど。俺の【転移】がどこかに書き留められていたら、姉も使えるんだろうなこれ。そもそも俺の持っている【転移】が魔法扱いなのか謎だけど。
「魔法陣と呪文とは別に分けている。片方を盗んでも発動せぬ」
ちょっと怯んだけれど、まだ自信満々なリンリン老師。
「見たり読んだりしなくても発動するのに、分けることに意味はあるのか?」
思わず止めを刺す俺。
「……っ、我が血族の秘法が!」
へたり込んだ!
「俺がそう思っただけで、まだ【転移】に興味がいってない可能性もある」
俺が最初に望んだように、多分この移動が不便な世界じゃすぐ思い至ってしまいそうな気はするけれど。
「お前、根が深いな」
一つため息をついてディノッソが言う。
「何が?」
「リジルが血族の話を持ち出して、埋まってるって言った時は血の気が引いてたのに、勇者関係だと平気だろ?」
「……そういえばそうだな」
姉と一緒に関わる者は敵も味方も全部丸っとスルーしてるな。特に生死も気にならないのはダメかもしれない……。なんか薄皮一枚別な世界というか、臨場感がないというか。
考えていたら、ディノッソのデカい手でぼふぼふと頭頂部を軽く叩かれる。
「ストレスの原因と向き合うことが良いこともありますが、原因から離れることも大切です。ジーン様は最初にお会いした時より、表情豊かになっておられます」
執事が柔らかい笑みを浮かべて言う。
「なんだか知らないけど、愛情と憎しみはベクトルが違うだけで同じだけ相手に縛られるのよぅ、気をつけなさい。後、こっちも慰めなさいよ!」
リンリン老師がだるそうに髪をかき上げながら立ち上がる。何か雰囲気が違うんだが?
「おう。ようやく出てきたか、ハウロン」
ディノッソが笑って言う。
「ハウロン?」
そういえば聞いていた魔法使いの名前は違った気がする。というか、リンリンランランだったら記憶に残っているはず。
「美形の坊や、よろしくね。アタシはハウロン・リジルムーンよ」
さっきまでリンリン老師だったイカツイ老人が、バチコンとウィンクしてくる。
「コイツは人格を使い分けてんだよ。で、コイツが本来の人格な」
ディノッソがイタズラ成功みたいな顔で告げてくる。
イカツイし、杖で殴りそうだし、魔法使いだし、老人だし、中身が変わってオネェだし! 属性盛りすぎじゃないか!? とりあえずあれだ。
「どうしてこっちがハウロン?」
こっちがリンリンだろう、常識的に考えて!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます