第317話 働く理由

 ズボンをまくって、袖まくり。


『あ〜っダメダメ、カニじゃない!』

エクス棒と岩の隙間をつついてカニ獲り。でも今回食いついてきたのはウツボっぽい長い魚。


 ラセオとかいう蟹がいて、結構美味しいらしい。手長海老とか小魚とかと一緒に、島の子供達がよく獲っている。


 深いところの方が大きいのがいるので、エクス棒に伸びてもらって海の中の岩場をつついている。


 エクス棒を振るって、先に噛み付いているウツボっぽいのを払う。今のところカニの戦果は三匹。アッシュと執事、ディノッソ、レッツェ、ディーン、クリス、半身づつ使うとして、俺の分がないので後一匹欲しい。


 イソギンチャクをつついたり、天気のいい海でゆるくカニ探し。直射日光がちょっと暑い。水路の水が流れ込む場所は、海の水の温度も下がって涼しいため、午後の一番暑い時間は子供達はそっち。でも獲れるものが微妙に違うんだよね。


『やったぜ、でかい! オレ、天才!』

『おおお!!』

大きなカニを釣り上げた! 正しくはエクス棒の先に結びつけた輪っかに引っ掛けた。


「うわあああああああああああっ!!」

カニから悲鳴!?


 いや違う、後ろから?


「王の枝、王の枝……っ!」

「一体何を……」

卒倒しそうなソレイユと呆然と立ち尽くすオルランド君――とアウロ。


「話し合いは終わったのか? ちょっと待って」

浅瀬に置いておいた他のカニと一緒に、紐で縛ってぶら下げる。


「大まかな話は。さらに細かい話はまた後日。今日はもうナルアディードに戻られるのでそれを伝えに来たの」

仕事関係の話には、どんなに錯乱していてもきっちり答えてくれるソレイユ。


「何よりだ」

「あまり条件の話はできなかったのよ! 色々! 色々……っ!! マールゥが……っ 王の枝が……っ カニが……っ!」

だが、仕事の話を終えた途端元に戻る。マールゥがエクス棒と打ち合いをしたのがバレたようだ。


「エクス棒の扱いについてはこれで正しいので気にするな」

「わはははは! 今日はいい仕事したぜ!」

爽やかに笑って、かいてもいない汗を拭う仕草をするエクス棒。


「気にする……っ!」

「気にしますっ!」

ソレイユとオルランド君、ハモルな危険。


「ナルアディードにパウロル様が滞在なさっていると聞いて、調べてはおりましたが、どちらで出会われたのですか?」

アウロが手拭きで俺の足を拭きながらにこやかに聞いてくる。


 アウロから手拭きを奪って自分で拭き始める俺。おっと、エクス棒を先に拭いておこう。


「くすぐってぇ!」

そう言ってケタケタ笑うエクス棒。


「そうよ、なんでいきなりパウロル様!? 駄目モトで探りを入れてる程度だったのに、いきなり大物登場……っ!」

「ナルアディードの『精霊の枝』の観光に行ってたまたまだ。話す機会がちょっとあって、本人がこの島の枝の管理者に興味があるっぽかったんで釣れて……じゃない連れて来た」

意思確認後に精霊たちに身上調査はしたんで安全ですよ。


「いつの間にそのような確認を……」

「オルランド君が島の渡航許可が取れたのを伝えに来た直後くらい?」

そういえばオルランド君はいなかったな……。


「段取りが早すぎるわ」

「全くです! ヘインズ様は素晴らしいですが、私の方はもう少し人品じんぴんを見て決めてください! 主人が素晴らしいからといって、従者もまともだとは限らないんですよ!?」

え、本人がそれを言うのか?


「俺にとっても、お爺さんにとっても渡りに舟っぽかったし。多分、三人採用・・・・にしたら来なかったと思うけど」

「さすがに能力があっても経験のない幼女は雇わないわよ?」

ソレイユがすかさずいい添える。だが違う。


「弟のトマス君は置いてくるんだろう?」

「……それもヘインズ様に?」

オルランド君がびっくりしたように聞いてくる。


「トマス君はアスモミイに傾倒してるだろ」

職員Aことトマス君は傾倒というかあれなかんじだったが、アスモミイの世話を焼いてるのはあの短い遭遇でもわかった。


 なんとなくだけど、お爺さんがうちの島に興味を持って、今回就職を決めたのはトマス君に理由を与えて解放するためなのだと思う。なにせ城塞都市からついて来たような関係、トマス君としてもほいほい仕える人を変えたりはできない感じなのだろう。


 うちの島なら会おうと思えば会える距離だし、ちょうどよかったんだと思う。


「確かにトマスは主従の誓いを解き、ナルアディードに置く予定です。ですが、それだけではない。ヘインズ様はこの島を訪れることを楽しみにされておられましたし、『精霊の枝』で風もないのに薄布が動いた時、感動してらしたんですよ。あまり喜怒哀楽を出さない方ですが……」


 え、あの枝との遭遇が決定打だったの!? 大丈夫なのお爺さん?


「えぇっ!? あの枝・・・に!?」

「ソレイユ様、この島の枝です」

俺が心で留めたことをソレイユが叫び、アウロに笑顔でたしなめられる。


 俺が出したもの無条件で受け入れるのもどうかと思うぞ……。なにせ置いた俺がまだ納得できない感じなんだし。


「口になさいませんが、ヘインズ様は精霊が見えず、影響を受けにくいことが心にひっかかってらっしゃるんです」

ちょっと目を伏せて言うオルランド君。


「なるほど、あそこなら精霊関係の不思議体験はたくさんできそうだな……」

夜な夜な踊り出しそうだし。


 喜んでたのか……。

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