第316話 仲間意識?
『エクス棒どうする? 話し合いが終わるまで時間かかりそうだけど、海岸の岩場でカニでもつついとく?』
『つつく、つつく!』
エクス棒に問いかけると、元気な返事。
アリーナどうしようかな? けっこういい服着てたし、さすがに二人がいない状態で磯遊びはダメだろう。かといって市場見学はエクス棒が退屈する。
これでエクス棒は普段は引きこもりなのだ。フレンドリーだけど、基本は木の精霊なのであまり動かない。
座布団が扉をすり抜けて背中に張り付く。
『置いてかない、置いてかないから。船着場で最終的に集合になるから、お爺ちゃんにまだついてていいんだぞ?』
あと座布団は海で湿気りそうで心配。
なだめたが背中から離れないので好きにさせる。一言声をかけるべきだったか。
歩いている廊下は天井が高い、ソレイユの執務室の天井を高くしたからそれに合わせて。そして執務室の天井を高くした理由は、扉を開けた正面、机に座ったソレイユの後ろの窓を大きくするため。
自動的に会議室や応接室も天井が高くなっており、執務室ほどではないが、訪れた者が内装に驚くようだ。
応接室はベタなシャンデリアが下がってて、そのうち落ちてくる事件が起きそうだと眺める俺がいる。透明度の高いガラスを集めて作った最新型の高級品らしいので、たぶん口にしたら泣かれるから言わないけど。
「あ、ご主人様! なんか幼女誘拐してきたんだって?」
「ちゃんと保護者同伴だし、捕獲目的は保護者のほうだ」
エクス棒が羽箒を気にしている。キジの尾羽がもふっとついている、猫が猛り狂いそうな物体だが、箒の中ではお高いっぽい。
掃除中のメイドは客の目には触れないのが基本だが、急な移動や予定変更で目に入ってしまった時のために、客が入るエリアは羽箒使用だそうだ。夢の国を演出したいならいっそ踊ればいいものを。
「あー。あのお爺ちゃん、ソレイユたちも情報集めてて、『精霊の枝』の管理者の有望株だったんだよね、前倒ししたんだ?」
マールゥがちょいちょいと羽箒を動かしてエクス棒に軽く打ち付ける。
ケラケラ笑って自由に動かせる上半身に反動をつけ、棒を傾けるエクス棒。自ら打ち合いに行くエクス棒に、俺は自由に動けるように力を入れず軽く持っているだけ。
「ああ、そうなのか。ソレイユと一緒に叫ぶ要員としてどうかと思って連れてきたんだけど」
「ああ、あのお姉さん胃薬飲んでるもんね。背景調べないで連れてきたのって危なくない?」
マールゥの視線はエクス棒との打ち合いに向けたまま。大変わかりにくいけど、どうやら心配して話しに来たっぽい。
「ファラミアを見ても普通だったし、平気だろ」
「なるほど。あっちも就職先候補は調べてるだろうから、それで顔色変わらないなら確かに有望だわよね」
ファラミアは誤解だけれど、黒精霊混じりのチェンジリングとしてナルアディードでは結構知られている。
もともとナルアディードに住んでいて、ソレイユとは旧知の仲。あんまり詳しく聞いてないけど、ソレイユにこの島に呼ばれるまでは、差別とか疑いとかのせいでナルアディードから出て、あちこちで後ろ暗い仕事もしていたっぽい。
ソレイユも信頼していない相手の前にはファラミアを出さない。
「む、む。やるわね。コイツ、何者?」
二人の打ち合いは、細かくそれでいてぶれるほど早いものに発展していた。マールゥはともかく、エクス棒は器用だな。
「わはははは。オレはコンコン棒EX! エクス棒って呼んでくれ!」
「エッちゃんね」
「ノン、ノン、棒はオレのアイデンティティ!」
「じゃあ棒ちゃんで」
なんだその坊ちゃんみたいな名前は。
「ああ、執務室に行ってオルランド君を呼び出して、アリーナを任せてくれないか? さすがに一人で待たせすぎだしな」
おまけだったとはいえ、放置は反省反省。
たぶん調度品に目を輝かしているか、窓から水の流れる水路を眺めているか、退屈はしていないと思うけれど。おやつ付きだろうし。
「小難しい話し合いの部屋なんか近づきたくないわ。あたしは楽しい掃除に戻る!」
鼻歌混じりに半回転しながら離れてゆくマールゥ。掃除が好きな気持ちがわからない俺がいる。
「アウロに菓子袋を預けてきた」
「行きます! 行きます!」
すごい勢いで戻ってきて、そして駆け出してゆく。
でも足音しないんだよね。
ここで働いている人、個性豊かだけどお爺さんとオルランド君は慣れてくれるだろうか。まあ、頑張ってもらおう。
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