第315話 説明が悪いのではない
「設置した賽銭箱の金高からして、島民はこまめに通っているようだ。だから風呂か水浴び、掃除の啓蒙活動よろしくお願いします」
法令でも定めているけれど、自分から習慣化して欲しい。
「我が君、ミニチュアはまだご用意できませんが、そろそろ楽器が届きます」
アウロがそっと告げてくる。
「ああ、そうだった。楽器の希望があったんで設置するから、楽器職人も出入りすることになる」
「楽器の希望……? それはどちらから?」
お爺さんが怪訝そうに聞いてくる。
「多分、真ん中の枝。もしくは集まってる精霊から」
「……」
黙り込むお爺さん。
「葉っぱの手紙で要求がくるかもしれないけど、エレキギターとかベースとか我儘言ってきたらちょっと締めていいから」
「エレキ……?」
「枝も枝の扱いもおかしい!」
オルランド君が叫ぶ。
「ええもう本当に……」
ソレイユが目尻を拭きながら同意。
「型にはまらぬのは理解しましたが……。ですが、枝を賜った国の意向は尊重せねばなりますまい。国名を聞いても良いか?」
お爺さん、柔軟だな。俺だってあのハニワにまだ慣れないのに。
「国ではないから平気。黒と白の枝は独立して二足歩行している王の枝に貰ったものだし、真ん中のは俺の相棒の枝だ」
「……」
眉間に指を当てて黙り込むお爺さん。
「この領主の言ってることが理解できないのは、私の学が不足してるのでしょうか?」
オルランド君はソレイユを振り返って、不安そうに聞いた。
「大丈夫よ、私も何を言っているのかさっぱりわからないわ。この人、よく説明を省くのもあるけれど、説明されても理解はできないことが多いの」
ソレイユが困ったような顔で言う。
「わかり易くするならこれだ」
背に手を回してエクス棒を抜き取る。
棒は手の中で伸びて、先端を包んでいた枝と葉がぽこんっと音を立てて開く。
「よう! オレはコンコン棒EX! 気軽にエクス棒って呼んでくれ!」
満面の笑顔で自己紹介。
「これこのように、王の枝的な機能はないんで。精霊の枝も諦めろ」
「えー! 魅惑の四センチボディだし、なんか快適っていうすごい効能あるじゃん!」
「うん、快適なのはいいことだよな」
「だろ、だろ!」
ぷくっと膨れたエクス棒だったが、肯定すると途端に上機嫌。
「まさか」
「まさかそれ、王の……」
「え、え?」
オルランド君が、言葉を途中で詰まらせ、エクス棒を見て固まったお爺さんとソレイユを交互に見る。
ソレイユの後ろで目を見開いているファラミア。
「さすがは我が君……」
「マジかよ」
アウロとキール。
アウロ、言ってはなんだがエクス棒を見てその反応おかしい。
「そういえばエクス棒、貰ったあの枝も直径四センチにしておけば条件達成なの?」
「おうよ! ただオレみたいに長く伸びたりでかくなったりはできないから、誰かが彫刻したくなって削ったりしなけりゃ平気だろ」
「なるほど」
一応確認したが、どうやら大丈夫のようだ。
「何を言ってるんですか! 精霊の枝を彫ろうなんて人がいるわけないでしょう!!」
「オルランド、王の枝の前だ」
お爺さんが諌めるんだけど、エクス棒も俺も気にしないぞ。あと諌めたおじいさんの目の焦点が合ってない気がする。
「……王の枝って喋るの? ……というか、王の枝なの?」
ソレイユが一点を見つめてブツブツ言い始めた。
オルランド君の慰めが効かない!
「そういうことなんで、あとの細かい詰めはよろしく。あ、アウロ今週分のおやつね」
「なんでアウロに渡す! 俺に渡せ!」
おやつの入った袋をアウロに渡そうとすると、キールが食いついてきた。
「渡すわけないだろうが」
さっきまでちょっと呆然としてたくせに、おやつの存在が全てを忘れさせたらしい。
「でもニイは言ってることはおかしいけれど嘘は言わない。え、じゃあ二足歩行する王の枝も世の中にいるの!?」
ソレイユが軽くパニック気味。
「ソレイユを落ち着かせてやらんと、オルランド君とシンクロしてるぞ」
二人ともぶつぶつ言いながら頭を抱えて下を向いている。
「ああ、くそっ! 俺の分、食うなよ!?」
「甘いものには興味がない」
どうやらキールはお菓子よりソレイユの方が大事らしくて、ちょっと安心。
「だが、しょっぱいものなら話は別です」
キールがソレイユの隣でこちらに背を向けて慰めている間に、つまみ食いをするアウロ。
本日のおやつは、キャラメルでコーティングされたアーモンドが香ばしいフロランタン。そしてレンコンチップス。
よくしょっぱい方が分かったな? というかよく何の迷いもなく口に運んだな?
やっぱり味がしないまま過ごしてきたチェンジリングにとって、この世界の普通の料理も、日本食も区別がないか。よし、よし、こっちの世界の料理に慣れる前に、寿司とかうどんとか食わせよう。
「じゃ、あとはよろしく」
笑顔で部屋を後にする俺を、アウロだけが見送ってくれた。
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