第313話 城内
「次は城の見学へ」
「城は一般の立ち入りは制限されているのでは……」
「特別公開中だ」
オルランド君の言葉に被せるように言い切る俺。
「ただ公開時間がもう直ぐ終わるので急いでほしい」
通常立ち入り禁止なところ、今から30分以内見学可能、入場料無料! オペレーターを増やしてお待ちしています。――考える時間を与えないのが通販番組の常套手段だな。
実際にソレイユにあけておいてくれと頼んだ時間が終わりそうなのもあるけど。本当は市場とか建設中の半円形劇場とか回って時間を調整するつもりだったのだが、「え? そこで引っかかるの?」みたいなところで足を止めまくった結果、ギリギリに。
「おお」
「きれい!」
「あの中はどうなってるのでしょうか?」
城門を見上げて息を飲む三人。
「人を阻む鉄格子さえ美しい……」
お爺さんが言い、三人ともうっとりと見惚れる。
「はいはい、立ち止まらないでください、立ち止まらないでください」
石工が頑張った建物もきれいだが、金細工師のアウスタニスがこき使わ……頑張って装飾を施した、黒鉄の一部に金化粧をした鉄格子が美しい。
鉄格子は昼間は開かれており、衛兵が立っている。これは俺もソレイユに伝言を持っていく時に初めて見て、閉じたところを見せてもらったり裏から見たりとしたので気持ちは分かる。建物も出来上がりを初めて見た時はうきうき眺めまくったし。
最初の広場はお抱えの職人が行き来したり、まだ建築途中の建物にかかっている外部の職人も出入りしているので静かとはいかない。
広場以外にも城壁の中には籠城用に畑もあるし、家畜もいるのでそれもちょっと騒がしい。城へ向かう通りも兼ねた広場からは、飾りの壁や木々で視界を遮り、家畜小屋や仕事部屋は見えないようにする方向。
木々は小舟でどうやって運んだんだろうかという、結構大きなものがすでに植えてある。さすがに思うように枝を伸ばしていないので丸見えだけどな。
殺風景だった広場に緑が増えた。チャールズの下に何人か採用してつけたっていってたけど、納得の働き者。
水路の水音、微かな動物の鳴き声、どこからか鉄を打つ音、人の怒声。
「違うと言っているでしょう! 何故わからないのですか!」
「わからんのはお前だ。お前の施す金化粧は尖ったものより丸みを帯びたこれの方が引き立つ」
声の主は金細工師のアウスタニスと鍛治を任せている地の民のワシク。
「……確かにそうかもしれませんが、すでにあるあの建物に合わせるにはこちらなのです!」
あ、アウスタニスがちょっと照れた臭い。
「建物の方を変えさせるがいい」
あの煌びやかなかんじのアウスタニスと無骨なワシクとは意外なコンビ。いや、職業的には当然なのか。でも石工が泣くから建物の変更はやめてさしあげろ。
城壁内の広場を抜けて、水路のついた橋を渡る。ラス・ラハス教会から尖った上の部分をとって白くしたような二番目の城門と水の流れる石の橋脚。
「美し……」
「はいはい、立ち止まらない、立ち止まらない」
ここは広場側の城壁に登って斜めから見るのがきれいだぞと思いつつ、時間が押しているのである。
「せっかくなのでゆっくり見たいのですが、
オルランド君が残念そうに言う。
そのうちほぼ毎日見ることになるから今は諦めろ。あちこちで足を止めたがる三人を急かして、ソレイユのいる階に到着。
城門の先には目を引く本館の美しい正面、水の溢れる塔と、複雑に通された水路。上には建物を繋ぐ飛梁のような装飾を加えた細い水路。
もともと位置的にも冬でも暖かく、日によってはドラゴンの住まう大陸から熱風が吹き寄せ、海を渡る間に少し冷まされるものの、ナルアディード周辺の気温は滅多に下がらない。
この島は張り巡らせた水が石畳や建物を冷やし、ナルアディードよりはるかに過ごしやすい。そして湧き出る元に近いこの場所は水が冷たくさらに気温が下がっている。城に勤める者は上着を着ていても大丈夫なくらい。
それでも夏は動いたら暑いし、水路から離れたら普通に暑いけどな。水路から離れた、屋根に近い部屋はたぶん暑くて入れないんじゃないだろうか。瓦、青っぽい黒にしちゃったし、太陽光を蓄えてそう。
「ようこそいらっしゃいました」
にこやかにアウロ登場。待ち構えていた気配がする……。
「お疲れになったでしょう。お嬢様にはあちらの部屋に飲み物とお菓子をご用意しましたので、足をお休めください」
アウロが言うと、控えていたメイドさん――多分人間――が流れるようにアリーナを捕獲して機嫌をとりながら連れてゆく。
アリーナを追って動き出そうとしたオルランドをお爺さんが止め、黙って首をふる。どうやらお爺さんはなんとなく察していた様子。
普通おかしいと思うよな。アリーナは小さいからともかくオルランド君、大丈夫? あ、おかしいとは思ってたか。ただ、「何故」というところには思い至らなかった感じだな。
「お二人はソレイユ様の執務室へ」
にこやかな表情を崩さないままアウロが言う。
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