第310話 三人の島見学

 第一関門は桟橋の警備。安く泊まれる宿屋と、桟橋周辺の警備の詰所はくっついている。あまりにも臭う人はまずこの宿屋で丸洗いコース。変な病気持ち込まれても困るし。


「おさかな! きれい〜」

桟橋を歩きながら上がる歓声。アリーナは舟に乗っている時から海の色と透明さに喜んでいる。


 ナルアディードは船が行き来する時に海底の砂を巻き上げたりなんだりで、汚いわけではないけど透明度が低い。単純に深いし。ナルアディード以外の海を見たことがある大人二人は無反応。


 次に見えてくるのは、前からあった家屋を修繕したり壊したりした場所。海のそばで海とともに生活したいと申し出た数軒と、桟橋を含む海辺で生活している人たちの家。


 ここを抜けるとちょっとの間、石畳と海の見える風景だけ。


 俺はひらけた場所から見る海に、ちょっとうきうきするんだけれど、この風景は三人の気をひかない。海を見馴れている三人組……っ!!!


 歩きながら島の注意事項をあげる俺、本来は桟橋の徴税官の仕事だ。


 一つ、水路を汚さないこと。

 一つ、許可がない場所に入らないこと。

 一つ、石や植物、購入した物以外のものを持ち帰らないこと。


 わざわざ告げるのはこれくらいで、他は一般的な街の過ごし方と一緒。


「本当に水路がありますね。ここまで豊かな水が突然湧き出すというのは……」

ぶつぶつとまたなにか考えているオルランド。


 途中一箇所、短い階段で水路に降りられるようになっている場所では三人とも降りた。昼ごはんが遠のく。


「冷たい! 飲めるの?」

「飲める。海沿いの家が使う水だから汚さないようにな」

アウロ的第一チェックポイントで、警備に見られてるから。


「塩辛くないとは……」

「この水がタダなんですか!?」

お爺さんとオルランドが驚いている。


 実際、航海のための水を買いたいという話が来たらしい。小舟で往復する手間と、その往復で把握できないやつらが増えるのをアウロとキールが嫌がったせいで流れたけど。


 再び短い道中を再開。


「オレンジか」

足を止めてお爺さんが言う。まだ小さいけど、斜面に植えたオレンジの木が実を少しつけている。


「もう少しで収穫できるかな」

斜面に植えたオレンジは俺の果樹園で交配させたやつと、こっちにもともとあったオレンジ。後でオレンジジュースを搾って飲むのを楽しみにしている。


 道沿いの木もまだ頼りないどころか手で折れそうなくらいだけど、そのうち木陰を作ってくれるようになるはず。


「木になっているの、初めて見た!」

ナルアディードにも販売用にオレンジは流れているけれど、なにせナルアディードは石畳で完璧武装の島、気候はほぼ同じだけど果樹はない。


 そして寒いところから移動してきた二人にも、ちょっと珍しかったらしく、また昼が遠のいた。まだ町に入ってないんだが……。


「帰りにも見られるし、昼を食ってからゆっくり観光したらどうだ?」

ちょっと急かす俺に、納得したのか歩き始める三人。


 青い旗の垂らされた門を潜って町に――


「おお、石畳の道もすばらしいが、この門や壁も! とても急ごしらえとは思えません」

「あれが噂の染物か。警備体制も整っておるようだな」

「きれい!」

――入れなかった。


 確かに急ピッチで作った町だけれど、職人は手を抜いていない。整地とかは俺がコソコソ頑張った場所もあるし、そもそもまだ出来上がっていない場所もある。


「はい、はい。進む、進む」

再び急かして町に入る。


「桟橋にいた方もここの警備の方も、変わった格好をされていますね。軽やかな布地で美しい」

「涼しくて好評らしいぞ。太れないけど」

島の子供達には、警備に憧れて身を正して欲しいところ。


「建物が美しいし、狂いがない」

お爺さんが周囲を見回す。


 けっこう壁がかしいでいたり、土地に合わせて家自体がもともと歪んで建てられた家というのが、ナルアディードに限らず多い。家同士が壁を共有して支え合ってたりしてる。


 地震の多い日本に住んでいた身としては怖くてだな……っ! そういうわけで、この町の建物は隣の建物がなくても自立する。アーケード付きの店舗が並ぶ建物は壁を共有しているけどちゃんとまっすぐだし。


「レモンか?」

「水路が建物の下に?」

「あの上にも通路があるの?」

「住人も花を育てているのか」

「水量が素晴らしい……っ」


 あちこち覗きたがる三人を連れて、広場に面した宿屋にようやく到着。昼飯の時間がすぎまくっている!

 

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