第309話 島へ

「アリーナの枝ではないと思いますよ。というか、枝は忘れてください」

ちょっと固まってるうちに、苦労性のオルランドが説得にかかった! 


 オルランド君、普通の意見ができるのが素晴らしい。


「枝は人より素晴らしいのよ? はくあい? だし」

「人も素晴らしいです。ヘインズ様がおられるでしょう」

言い切るオルランド君。


 ……普通でいてね? お爺さん押しだったとかじゃないよね? いやでもお爺さん過剰押しでも他が普通なら大丈夫か。ソレイユの精神安定剤としてはセーフだ。たぶん。


 でもその原理で言ったらアスモミイもセーフになってしまうからアウトで頼む。アリーナもアウトな気配がそこはかとなく……。


 エクス棒の枝って、ゴーイングマイウェイな気がするから、たとえアスモミイくらいアクが強くてもスルーしそうではあるが。周りが苦労……オルランド君が今してるな。


「子供に付き合わせてすまない」

お爺さんがそっと言う。そんなお爺さんの腰というか、股間には座布団が貫通している。バレリーナの着るチュチュっぽいんでやめろ。

 

 座布団がなにかジャスチャー、そこでジェスチャーするのやめろ。――対象は俺でもなくお爺さんにでもなく、アリーナ。


『ごめんね、後で説明するから。でも今は眠い……』

アリーナのポケットから声が。


 真っ白いイタチが顔を出したがすぐに引っ込み、弱々しく尻尾を振ってきた。それもすぐにポケットの中に隠れる。精霊憑きか!


 どうやら座布団が合図を送った相手はイタチだったらしい。説明ってことは何かある? さっぱりわからないのでとりあえず棚上げしよう。


「今更ですが、早めに出てはきたけれど、島で昼食とって戻るまでは結構かかります。アリーナは遅くなっても大丈夫?」

「ああ。もともとアリーナの両親は忙しくてな、『精霊の枝』に迎えが来るのはいつも夕食どきだ」

お爺さんが言う。


 アリーナの両親は結構大きな商会を切り盛りしており、時々叔母のいる『精霊の枝』にアリーナを預けるのだそうだ。枝の部屋の料金はともかく、安くはない入場料を払って、だ。毎年の祭りの時期のお布施も欠かさないらしい。


 両親含めて一番長く一緒にいる親族がアスモミイらしい。そしてそのアスモミイは、動き回る範囲がほぼ神殿内に限定されるとはいえ当然ながら結構忙しく――。


「いいですか、お勉強がない日は同じ年頃の子供と交流したり遊ぶものなのです!」

なんかオルランド君に世話係が回ってきた様子。頑張れ、苦労性!


「おおよかった。こんにちは、島まで頼む。今日は四人だけど大丈夫?」

舟屋に船頭の爺さんがいたのでちょっとホッとする。


 舟を漕いだことはあるけど、先生役の船頭の爺さんしか乗せたことがない。実はちょっとドキドキしていた。


「おう。ちっとバランスが悪いが任しとけ」

返事を聞きながら小舟に乗り込む俺。


「邪魔をする」

続くお爺さん。


「船で近づいたとして、桟橋にあげてもらえませんよ? 大金を積んでも同じです」

困惑気味なオルランドがそれでもアリーナの手を引いて乗り込む。


「ははは。こっちの兄さんはあんたを知らんのか」

「金持ちなのは知ってます」

真顔で告げるオルランドに愉快そうに笑う老船頭。


 海は相変わらず綺麗で、風もない。ナルアディードに発着する大きな船が起こす波で少し揺れたが、あとは何事もなく。島の周辺は見えない岩礁のせいで海流が複雑なはずなんだけど、さすがとしか言いようがない。


「おかえりなさいませ」

桟橋に着くと、ごつい警備兵と徴税官が頭を下げてくる。


 税金という名の桟橋の使用料。船頭の爺さんはこの徴税官とチェスというより将棋みたいなやつを指しながら、待っていてくれる。島に入れる人数を制限しているため、警備さんは忙しいけど徴税官は暇気味なのだ。


「ただいま。一応、三人を記録につけといてくれ」

「はい」

出入りのチェックもここの徴税官のお仕事だ。ぽかんとしているオルランド君と感心したようなお爺さん。


 ちなみにここの徴税官は画家崩れで、似顔絵が得意。あんまり変な顔をしていると描かれてしまうぞ。


「こちらも念の為お渡ししておきますね」

美しい小さなプレートがついたストラップ。プレートの花の透かし彫りは見事なんだけど、実は単なる番号札なんだよね……。


 島を出る時に返してもらうんだけど、一種の身分証のようなもの。通常は身元確認の書類を受け取って、プレートの番号を受付番号として記録してから渡す。


「じゃ、これで昼でもとってくれ。後これ配る用な」

船頭の爺さんに、二人分の飲み代くらいの心づけと飴を渡して桟橋を後にする。


 俺が爺さんに飴を渡したのがバレたのか、数人の子供が笑顔で俺に手を振りながら、船頭の爺さんのそばをウロウロし始める。出前というわけではないけど、その辺の子供を捕まえて買い物を頼むのがパターンと化している。


「待て。おかしい」

「おかしくないぞ」

ふらふらとついてきたオルランド君が、急にしゃっきりして不審を訴える。ふらふらしてるのに、しっかりアリーナの手は引いているんだから偉い。


「あなたがここの住人らしいことはわかりましたが、私どもの入島税は!? 身元の確認は!?」

「あれで済んでるから気にするな」

ひらひらと手を振る俺。


「どうやらニイ殿は住んでいるだけではなく、徴収する側のようだな」

お爺さんが言う。


「えええ!? いやでも、島の出入りを管理する者があの態度ということはあり得る……のか? ――もしかして、ここでかなり地位が高い方……? いやでも、漏れ聞こえてくる序列が絶対的なソレイユ様以外は曖昧で」


 オルランドがぶつぶつ言い始めた!

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