第307話 島の呼び名
きらびやかな回廊を通り、出口に向かう。一人で歩き回って、後で何かなくなっていたとか言われたら困るので助かった。
「あの女性はなかなか変わった方ですね」
黙って歩くのもなんなので話題をふる俺。
「幼い頃に目の前で動いた麦の枝に心奪われ、十年という短い期間で『精霊の枝』の管理者にまでなった傑物なのだがな……。飾りの枝ならばともかく、本物の枝の管理者として認められるのは運や財力がなくば難しい、だがそれだけでは及ばぬ」
客分老人が真面目な顔で教えてくれる。
変態なことを除けば有能なのか、アスモミイ。変態なことが完全スルーできるほど有能なのか、この老人がスルー特性強いのかどっちだろう? アスモミイがずっと責任者してるなら前者なんだろう、たぶん。
「精霊の枝の形は麦の穂なのに、ここに麦に良さそうな土がないのは何故ですか?」
「ふむ。ここは黄金の都市、枝に黄金が捧げられることは昔からで、都市は繁栄している。結果的に正しいことが証明されているのに、不確定なものをわざわざ捧げる必要性を感じぬのだろう。そもそもこの都市の人間が地を耕すとは思えぬ」
そう言われると納得。
「アスモミイ殿のおかげで近年さらに黄金が増えたそうだが……。私が訪れたのは五十年も前、変わっていて当然か」
老人がふと立ち止まって、回廊から中庭を眺める。
「五十年の間どちらに?」
「テオラール、アノマの城塞都市で光の精霊ナミナに仕えていた。――どうした?」
思わず距離をとった俺。
「アノマはここからずいぶん遠いようですが?」
誤魔化すためににっこり笑って聞く。
「確かに船と陸路で金を使っても一年半かかったな」
普通に旅をしても金がかかるが、さらに金を上乗せして急いだってことかな?
「何故またそんな移動を?」
この世界での長旅は、金だけじゃなく時間もかかるし命さえかかる。
「その少し前に何故精霊ナミナに仕えているのか迷いが生じた。最初は迷いを振り切るために、勇者召喚が行われたシュルムに向かったのだ。召喚に関わった精霊ナミナが、そのまま勇者の側にいると聞いたのでな」
え、迷いを晴らすために大陸横断状態? 真面目な人が思い詰めるとすごいな。
「精霊ナミナに会いに行った?」
「そうだ。精霊の見えない私でも、神と呼ばれる強き精霊は目にすることができる――結果はここにいることで察してもらいたい」
よし、よし。悔い改めたなら何よりだ。
「けっこう偉い人だったのではないですか?」
声と外見的に。そしてここに客分としているなら。
「以前は、な。精霊の見えぬ職務を投げ出した老人についてくる物好きは、先ほどのトマスと、そこにいるトマスの兄くらいしかおらん。トマスが新しい主人を見つけたようなので安堵しているところだ」
トマスって職員Aか? いや、それ苦労が目に見えてる。
そう思いながら老人が視線をやる先を見ると、職員Aを五歳老けさせました、みたいな善良そうな男がいた。
「老師、ただいま戻りました。――こちらは?」
「精霊の枝を拝観された方を出口に案内していたところだ」
「それはお若いのにすごいですね」
何がすごいのかと一瞬思ったが、お布施か、お布施の額か!
「たまたまここで商売がうまくいきまして、少し還元を」
嘘はついてないぞ。
「それはおめでとうございます。老師、青の精霊島への渡航は一ヶ月後に許可が取れました。詳しい話は後ほど」
俺に笑顔を向けて、老人に頭を下げて離れてゆく。
「青の精霊島?」
名前からしてちょっと普通じゃないぞ? 何だ、何だ?
「知らぬか? 近くの島が急に豊かな水を溢れさせ、そこに青い布が染められる美しい町が造られている。島に渡るにも人数が制限され、住まうにはさらに審査が厳しい。チェンジリングが多いということで少々不穏な噂もあるが――どうした?」
「いえ、名前に聞き覚えがなかっただけでよく知ってる島だったもので」
途中まで観に行く気満々だったのにうちだよ!
「観光ですか?」
「ああ。その島にも本物の精霊の枝が置かれ、管理する者を求めているらしい。選ばれるとは思ってはおらんが、麦の枝とは別な本物の枝を目にする機会なのでな」
「なるほど」
『ヘイ、カモンそこの精霊くん!』
『僕のこと? なに〜?』
黄色い花の中心でゆらゆら揺れていた精霊が寄ってくる。
『俺っちのことかな?』
砂金に小さな腕を突っ込んで渦を書いていた精霊が寄ってくる。
『このお爺さんどういう人?』
リサーチ、リサーチ。
『見えない人! でも気配はわかるのかな? 僕たちに気を使ってくれるよ〜』
『俺っちたちの影響をいいのもわるいのも受けにくい人! 真面目! 上にクソがつく!』
精霊がそれぞれ教えてくれる。
『さっきここにいた兄ちゃんは?』
『普通! でもたくさん働くよ!』
『苦労性! 爺さんの世話は手際いいのに、自分のことに対してはポンコツ!』
「よし、採用」
「どうした?」
真面目と苦労性はきっとソレイユが喜ぶ!
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