第305話 枝の形

 カヌムの家の整理をして、山の家に帰る。


「リシュ、ただいま〜」

かけて来たリシュをわしわし撫でる。


 外を見たら、窓にいっぱい張り付いてるモノあり。


 張り付いているのは、ハラルファとミシュトが城塞都市からツアー組んで連れて来た精霊のようだ。メモ帳ノートが笑顔で会釈してくる。


 神々が引率してきたから、自動連番なずけをせずに待っていたっぽい。だがしかし、自動じゃないだけで連番だ。ただ、【解放】の効果を考えると俺が直接名付けるほうがいいのだろう。


 リシュをもうひと撫でして、テラスに向いた机にコーヒーを用意。全開口窓を開くと精霊たちがゆっくり距離を詰めてくる。メモ帳くんが手際よく列の整理をしてくれる。


「ハラルファツアー1号」

名前を読み上げると、精霊がくるっと一回転して列の先頭からはける。


「ミシュトツアー1号」

神殿から移ってきた精霊は座布団ほどではないものの、けっこう大きなのもいていつもより魔力が多めに持っていかれるのがわかる。


 ついでに神殿からのツアー客以外にも名付ける。こちらはメモ帳にどんどん書かれていくのを眺めながら、コーヒーを飲んでいるだけだが。


 メモ帳くん、優秀。また新しいメモ帳もインクも買い足しておかないと、なくなりそうだ。


 家の掃除もしようかと思っていたが、今日はやめておこう。魔力切れになる前に切り上げて、風呂。


 夕食は、でかい海老を焼いた。この辺りの海老はロブスター系、なめらかな口当たりと旨味は伊勢海老に軍配があがるが、弾力は断然こっち。尻尾をぐりっとちぎって剥いて、蟹味噌ならぬ海老味噌をつけたらマヨネーズをかけてがぶっと。


 手が込んだ料理より簡単な方が美味しいことってあるよね。ワインを飲みながら行儀悪く食べる。野菜はニンニクを入れたピクルス液につけたキャベツ。


 食事の後はリシュと遊んで過ごし、留守にしていた埋め合わせをする。綱引きをしたり、とってこいをしたり。


 久しぶりでスプリングのきいたベッドで寝た。しばらくは真面目に家や畑の手入れ。


 まず、窓を全部開けて掃除。普段あまり入らない地下室に降りて、暖炉の灰掻き。この家の灰も地下に集まる。


 家は斜面に建っているので、片側が少し高く、ちょっとだけ顔をだしている地下室の壁に横長の窓が付いている。


 ここの家は多分、俺のイメージとこの世界にある技術とのせめぎ合いの結果、他の家よりちょっと近代的。でも大部分はこちらの世界の邸宅基準。地下室は実は使用人の部屋とパン焼き室がある。倉庫とかもあるけど、使う予定がないので滅多に入らない。


 まったく掃除をしていなかったので埃がですね……。灰の前に埃の【収納】をする羽目に。


 サボっていた畑と果樹園の手入れ。毎朝様子を見ていたものの、やはり手入れが足りていない。各種粉挽きもするつもりが、それは明日にずれこみそうだ。


 集めた灰も畑に鋤き込み、支柱を直し――働いているばかりでもなく、お昼は久しぶりにシヴァの料理をおよばれ。その後はディノッソも混じって子供達とカードゲーム。


 カーンの防寒着にフード付きケープマントを作成。ついで島の湯屋用の魔法陣プレートをがりがり。なんか俺、石にがりがりしてることの方が多い気がするな? 一応魔法陣用の処理された羊皮紙もあるんだけど。


 カーン用のマントは肩甲骨のあたりに大きな魔法陣が一つ、膝のあたりに5つの小さな魔法陣。魔石から魔力を流すためのラインを大きな魔法陣へ、そこから小さなものへ放射状に魔力の流れるライン。


 大と小を結ぶラインはただの線ではなく、二本の呪文の羅列。片方は魔力を流し、片方は電熱線みたいに温まる。なかなかいい出来だと思う。


 早速カーンに渡しにゆく。


「む、かなり暖かいな」

「頑張ってみた」

目に見えて大喜びするタイプじゃないけど、早速羽織ってくれたのがちょっと嬉しい。


 低温火傷に気をつけるよう注意して、「俺をなんだと思っている?」と聞き返される。そういえば人間より精霊寄りだった。


「ジーン、ノートが明日顔を出して欲しいそうだよ!」

帰り際、クリスに声をかけられる。


 もしかしてうわさの魔法使いと連絡がついたのかと、ちょっとうきうき。気もそぞろで仕事をする気が起きないので、今日は休暇とする!


 ナルアディードをそぞろ歩こう。見て歩くだけでも楽しいし、何よりあっちは暖かい! 寒い日に家に閉じこもってごそごそするのも好きだけど、続くとやっぱり青空が見たくなる。


 ナルアディードは契約と商品見本の島だ。ここで現物売買されることもあるが、大抵ここで契約してあとは産地から直接販売する場所に送られる。


 大勢の人が出入りするので、ちゃんと個人用の小売店もあるけど、それは本業じゃないかんじ。俺が用事があるのはそっちだけどね。


 以前来た時は赤いグラスと銀器、布類なんかを買った。今、布類は島で大量に買ってるので便乗している。革はオオトカゲが便利すぎて――いや、ベルトとか装飾用にちょっと見てみようかな。


 その前にここの『精霊の枝』を見ていないな、と思って足を向ける。ナルアディードの『精霊の枝』は本物のはず。


 入館料高い!!!!!!!!


 本物だから!? それとも商売の島だから!? ちょっと鼻水でそうな金額を払って、中に入るとなかなかの成金趣味。


 金ピカです。中庭もなんか小川に砂金が沈んでいるそうで、監視人が何人か笑顔を浮かべている。咲いている花は黄色中心、石はさすがに地味だと思ったら、金鉱の岩のようだ。


 結構綺麗だけど落ち着かない! 


 『精霊の枝』を見るためにさらに金を払って部屋に入る。黄金の枝ですかそうですか、まあ予想通りです。


 ちょっと予想と違うのが、小麦の形をしていること。枝とは一体……。

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