第304話 カヌムの家
カヌムへの帰路は途中雪がちらついたくらいで平和。出る時に、群れでの優劣をつけたらしいルタのドヤ顔を撫で、笑顔で背中に汗をかきながら貸し馬屋の亭主に弁償金を払ったのはノーカンで。
城塞都市の街中では気を使ってか、離れていた座布団が外で合流して尻にあったおかげで快適な旅だった。
仮の家ではあるけれど、居心地よく整えたカヌムの家につくと、「帰ってきた!」という感慨がある。
「俺は明日顔を出すから今日は水入らずで」
俺の家を通り抜けて家に帰るディノッソに声をかけて、裏口から送り出す。
扉を閉める前に、賑やかな嬉しそうな声が聞こえてきた。お父さん大好きだもんな。
閉め切って留守にしていたためか、微妙に湿気っぽい。空気の入れ換えのために窓を開けながら三階のゲーム部屋の奥に進む。ベッドの上や棚を見回すと、箱の中に大福発見! 朝帰っているのでリシュとは会っているけれど、カヌムの大福とは久しぶり。
「ただいま」
ちょっとこねさせてください。箱に丸まって入っていると、餅つき機に入ってる餅みたいだ。
ずぼっと突っ込んだ手を追って、座布団がずぼっと箱に入る。座布団イン箱、大福イン箱、大福オン座布団。……乗せるのは精霊でもいいの? そういえばハラルファ乗せてたな。
いやでも箱に詰まりすぎじゃないか? いいの? 狭い方がいい?
撫でたりむにむにさせてもらったりした後は、大福用の水を用意する。大福の好物ってなんだろうな? 後で餡子とか出してみようか。
大福が水を飲む間、座布団は窓際に着地して燦々と陽を浴びている。光の精霊ってそういう……?
どうやら家に来る気は大福も座布団も薄いようだ。家の中はともかく、外は精霊たちでかなり騒がしいし、人のそばのほうが好きな精霊もいる。
一階の机に投げ出していた荷物を解く。洗い物は洗濯袋につっこみ、食器や焚き火台は井戸端で洗う。食べきれなかった食材は手を全くつけていないものは【収納】へ、そうでないものはスープ壺に突っ込んで今日にでも食べてしまおう。
シヴァやティナたちへのお土産は袋が壊れていないかチェック。明日持ってゆくので棚に一時置き。
暖炉に火を入れて、家の簡単な掃除。そういえばそろそろ灰がいっぱいだ。薪が置いてあるそばの床を上げて、取っ手の金輪を柵に引っ掛ける。
ライトの魔法を使って明るく照らし、地下に降りる。地下は食料庫だけれど、ここに部屋の暖炉から灰が落ちてくる掻き出し口がある。暖炉の端に穴が空いていて、そこから落とすとここに落ちて集まってくる仕組みだ。
普通は麻袋に掻き出して入れるだけで灰だらけになって大変なんだけど、そこはそれ【収納】で。一握りも残さず綺麗に。補修すべきところがないかチェックして終了。灰は後で畑に撒く予定。
置いてある豆や、粉類が悪くなっていないかついでにチェック。人が来た時に誤魔化すためにおいたものだが、別に酒類だけでもいいかな。ディーンとクリス方式で。
そう思ってこちらも【収納】へ。これらはカヌムで買ったやつなんで、使う予定がない。後で売り払おうかな? いや、またクリスの弟が来たりするかもだし、一応偽装用に取っておくか。
だいぶ反則気味な掃除を終えて、お茶の準備をしていると裏口を叩く音。
「ジーン、おかえり!」
開けるとティナが飛び込んできてハグ。
「ジーンおかえり!」
「おかえりジーン!」
バクとエンも左右から。
「お母さんがね、みんなに持っていけって」
ティナが言う通り、子供達は籠を一つずつ下げていて布がかけられている。
「キドニーパイ! それにりんご」
「ミートパイ! それにチーズ」
どうやら温めるだけで済むものを差し入れてくれた様子。俺はともかく他は、出かける時に悪くなるものは調整して残らないようにしているはず。
「ありがとう」
「届けてくるね! 帰りにまた通らせて」
ティナから籠を受け取ると、お使いを済ませるために元気よく出てゆく。扉を開けて見送る俺。
さて。パイは蓋つきの深い皿に、りんごは自前の籠に、チーズは皿に移す。空になった籠には、城塞都市からのお土産を代わりに詰める。
紙に包んだ内臓を処理した魔物化野鳥が二羽。野ブタの方はディノッソが担いでたので、俺は鳥にした。ディノッソ家ではしばらく肉が続くことだろう。
戻ってきた子供達は、それぞれにお土産の小物をもらったらしくニコニコしながら戻ってきた。そうか、カヌムより城塞都市のほうが髪飾りとかベルトとか、垢抜けたものが売ってるのか! 完全に食い物に振り切れてた。
「これはティナに、こっちはエンとバクに。これは籠に入れておくからシヴァに渡して」
俺はそういうわけで、メイプルシロップやクルミのシロップ、ナッツのメイプルシロップ漬けとかだ。
「ありがとう、ジーン。でも無事に帰ってきてくれたのが一番嬉しい!」
「ジーンありがとう! 寂しかった!」
「ありがとうジーン! 会いたかった!」
再びのハグ。
なんというか、ちょっとこそばゆくて嬉しい。
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