第303話 行動理由の推測

 朝ごはんは厚切りの食パン、粗挽きソーセージ、目玉焼き、焼きトマトにシーザーサラダ、オレンジ。カッテージチーズにベリーのジャム。


 半熟たまごに慣れて欲しい俺がいるけど、美味しく食べられるのが一番なので、抵抗があるものは無理には勧めない。代わりに島で出そう、島で。


 サルモネラ菌は、17℃や43℃というどう考えても室温の範囲でかなり速く増殖する。条件がいいとそれこそ一日で食べると発症する数まで増殖する。逆を言えば、たとえ付着していても産みたてなら発症する数まで増えてないから平気。


 俺の半熟目玉焼きを微妙な目で見ている面々をスルー。バターを塗ったパンに乗せ、醤油をちょっと垂らしてがぶっと。


「ジーンが食ってるのを見ると美味そうなんだが、なんか抵抗あるんだよな」

「長年の習慣や忌避は払拭が難かしゅうございますな」

ディノッソと執事が言い合う。


 む、もうひと押し?


 食後は執事が淹れてくれたお茶を飲んでから、冒険者ギルドに向かう。ちょっと俺は時差でギルドに入る。連れ立って歩いていても、周りの記憶に俺は残らないからいいけど、一緒に入るのはさすがにね。


 案内された一室には当然ながらディノッソたち、あとディーンとクリスも。今回揃ったのは、メガネの依頼で下に向かった面子なので全員身内。


 ギルド側はイスカルと白蛇ネフェル、あと助手なのかお尻の大きなお姉さん。助手の存在はディーンに効果覿面!


 ネフェルが「えへっ」みたいな顔をしてメガネの肩から覗いてくる。その眼鏡の魔力、おいしいの? なんだかんだいって懐いてるようで何より。


「いやあ、神殿で色々ありましてギルドも忙しくて。今回の事件でいくつか神殿の今までの虚偽まで明るみにでましてね。皺寄せが来ているのですよ」

眼鏡が言って、報酬の最後の交渉が始まる。


 神殿の虚偽ってなんだろ、ローブの神子はどうしたかな? まあどうでもいいけど。 


 交渉はあらかた終わってるので、今まで顔を出さなかった俺の意思確認くらい。特に条件をつける気のない俺は金をもらって終了。


 ディーンとクリスは金ランク昇格のためのミッション終了証明書と推薦状みたいなやつ。城塞都市でも昇格はできるけど、カヌムで手続きしたいんだって。


 他もそれぞれ個別に交渉には来たらしく、書状や金袋とは別の袋を受けとてったり。


「勇者は精霊の道で帰ったのか?」

報酬を受け取りながらディノッソが聞く。予告通りどストレート。


「来た道を戻られたようですね」

頷く眼鏡。


「で? アメデオたちは?」

「アメデオ様たちは精霊剣を奪われたようです。しばらく彼らには城塞都市に逗留して、ギルドを助けて頂かねば」

なぜかにこやかに言う眼鏡。


「ごっそり光の精霊がいなくなったと噂だが、ここに来た勇者はチェンジリングで確定か?」

「――はい、ギルド及びご領主様もそう認識を」

今まで疑惑にとどめておいたことが、正式に。たぶんこれで敵対確定とかだな。


「今回、こちら側の入り口を壊したのは、後を追われないためだと思われます。勇者のチェンジリングは残念ながら精霊をくらい、狂ってゆくことがわかっております。力をつける前か、狂う前に倒したいと考える者たちにとっても、あの道は有効ですから」


 たぶんそれ、姉を連れての移動方法を考えろとかそんな話になる前に潰しただけな気がする。目的の精霊剣も手に入れたし、精霊の道は城塞都市側で潰したとか報告してる気がとてもします。


 神殿の様子とかいくつか聞いて終了、ギルドを出る。


「妖精の道に入ったってのは、シュルムの間者かな。副ギルド長の様子だと、ローザたちは不問にする代わりにギルドに色々巻き上げられたか、タダ働きさせられるかだな」

ギルドから離れたところで、歩きながらディノッソが言う。


「娼館でもアメデオの羽振りが悪くなったとか言ってたな。あと、パーティーメンバーの誰かへの罵詈雑言」

ディーンが裏付けるような情報を口にする。


「冒険者パーティーに紛れ込んでたとなると、城塞都市ここじゃ領主がうるせぇだろうし、ギルドの面子もある。入り込まれていた方も、自分たちで気づいたならともかく、そうでなきゃ間抜けの烙印だ。お互い表沙汰にしたかねぇんだろうな」

面倒くさそうなディノッソ。


「そんな話なのか?」

「シュルムの間者の話は城塞都市だけじゃなく、ぽつぽつとだがあちこちで聞く。それにあの副ギルド長の様子と街の噂を繋ぎ合わせると、多分何かしてやられてるな」

ディノッソがそう言うけど、まだピンとこない。


「城塞都市で手に入るなにかの情報か物を盗み出すために冒険者のフリをして、目的達成した後の逃走を偽勇者が助けたって考えた方がしっくりくるだろ」

レッツェが説明してくれる。


「おそらくローザ様方はいいように利用されたのでございましょうな」

「行動があまりにも考えなしというか、何のために行動してるのかちょっと分からなかったが、いいように誘導されてただけっぽいな」

執事の言葉に肩をすくめるレッツェ。


 あー。それでギルドで労働か! 知らなかったんだろうけど、間者の隠れ蓑に使われてて引き入れちゃったから。


「迷宮で会ったメイケルに一応、噂を集めといてくれって頼んであるから次来た時にはもうちょっとはっきりするかもな。まあ、こっちに関わってこなければそれでいいんだが」

レッツェが言う。


 メイケルってお守りさんか。あの人もレッツェほどじゃないけど、目端が利きそうだもんな。執事に眠らされてたけど。


「偽勇者とやらはしばらくの間だけ・・・・・・・・妖精の道を使えなくしたつもりだろう」

カーンがぼそりと言う。


「ああ、潰すつもりなら精霊をもっと食ってなきゃおかしいもんな。――ジーンが駄目押ししたの知らないんだろうな……」

ディノッソ、なんでそこで同情したような遠い目!

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