第301話 対処前に終わってた

「お疲れ」

座ったレッツェにワインのカップを渡す。


「食事は?」

「食うには食ったが、半端になったから少しつまませてくれ」

なるほど、たくさんは食べられないってことだな。


「じゃあレッツェはでかいパン無理だったらこっちで」

「棒か」

「パンです、パン」

グリッシーニだっけ? 棒みたいなカリカリしたパンだ。棒じゃない。


「そのままでもいいけど生ハムを巻いたり、オリーブオイルをつけてどうぞ」


 焼いたのと生のパプリカ、ジャガイモをバターで焼いたやつ、ゆで卵とアボカドのサラダを少量ずつ。鴨を切り分けると執事が配膳する。熱いミネストローネをカップで。


「鴨か。うまいな」

「ワインによく合う」

レッツェとアッシュが最初に手をつけた鴨の暖炉焼きはじっくり焼いた赤身の肉。すぐに肉汁が溢れ出すってわけではないが、噛むほどに味わい深い。


「この棒みたいなのも酒に合うわ」

「マジか。俺にもちょっとくれ」

ディノッソが酒に合うと聞いて興味を持った。パンの美味しさというより酒に合うか合わないかだな? 


「いいけど。カーンも食う?」

「もらおう」

好評といえば好評。


「デザートは小さめのタルト。アッシュには大きい方」

アッシュ以外は美味しいとは言うものの、甘いものより酒のつまみのほうが喜ぶけど。


「……これ桃か?」

不審そうなレッツェ。桃です、勢いで食えばいいものを。


「尻のあれか!」

レッツェの一言で、ディノッソまで思い出してしまったようだ。


「ダンジョンで疲れたかなって。お肌にいいですよ」

「丁寧語になるんじゃねぇよ!」

「うむ。美味しい」

アッシュはすでに食べている。


「ジーン様……?」

微笑みながら名前を呼んでくる執事。


「巻き込むならせめて、こっちの分は尻の効果外せよ」

ちらりとアッシュを見て言うレッツェ。え、違う、違うぞ!


「ん? なんだ違うのか?」

自分の考えが外れたことが意外なのか、少し考える顔。


「あー。レッツェの顔色が悪ぃからか。しょうがねぇ付き合ってやるよ。シヴァには好評だし」

そう言ってタルトをかじるディノッソ。カヌムに帰るまで美尻持つか?


「ふむ……」

カーンは一口。小さめとはいえ、普通は二口だと思う。


 尻を見せる相手のいる二人……っ!!!


「……せっかくだし食うか。でも、お前も食うんだよな?」

「え」

笑顔のレッツェが圧をかけてくる……っ!


 結局みんなで美尻になりました。確かめてないけど。


「妖精の道だが、結論から言うと使えなくなったようだ」

飯を食い終え、落ち着いたところで妖精の道の話。


「それはまた……。気まぐれに出来て消えることもあると聞きはしますが、偽勇者が目的を持って使ったからには、古いのではありませんか?」

執事がレッツェの言葉に疑問を投げかける。


「古い?」

首をかしげる俺。

「昔からあって、安定している妖精の道のことだな」

ディノッソが教えてくれる。


 精霊剣を目的に城塞都市に来たってことは、目的の場所に出られる道だってわかってて利用したってことだから、出来たり消えたりする気まぐれな道じゃないだろうってことか。


「偽勇者が帰る時に精霊を少し食ったらしい。その後しばらくして入り口が閉じたっつう話だが、たぶんジーンが精霊をごっそりカヌムに向かわせたからだな」

「え、俺?」

そこまでごっそりじゃない気がする。神殿でついてきたヤツだけだぞ?


「力の強い精霊の移動に、眷属の精霊がついてゆくことはままあることだ」

カーンがぼそりと言う。俺か、俺のせいか!?


「神殿の関係者や、ディノッソの旦那のツテの話を聞いた推測だけどな。――シュルムの勇者のところにいる神は、ここの神殿と同じなんだろう?」

「ああ。あの玉と同じ名前で同じ属性だな」

「玉……」

執事が俺の言葉を繰り返してつぶやく。あれは玉で十分だと思います。


「妖精の道は、同じ眷属が多く集まる場所同士、他の精霊があんまり混じらない場所が繋がるんだそうだ。で、偽勇者がちょっとのつもりで食らって、その後お前が神殿のそこそこ強い精霊を移動させたんで入り口が消えたっぽいぞ」


「出入り口、神殿にあったのか?」

あんな目立つところで出入りしたのか偽勇者。


「いいや。まだ特定までいってねぇけど神殿近くの路地。神殿は人の出入りもそれに憑いた精霊の出入りも多いから、にはできねぇけど、にできることはあるらしい。だが、ここは光の精霊だから地下は無理だ。まあ、ここの神官たちの一部は場所を知ってたらしいが」


「昔から噂はございましたが、短時間でよくお集めに」

感心する執事。


「偽勇者が使ったせいで道があることは確定したし、出入り口が消えたせいで、知ってた奴らの口が軽くなってるんだろうな。俺は、偽勇者が道を使ったこと、ジーンが精霊を移動させたことを情報集めする前から知ってたし」

簡単だったと言って肩を竦めるレッツェ。


「あとは、精霊剣のことでローザたちが領主経由で偽勇者から圧力をかけられたらしいってことくらいかな」

「そりゃいい。俺にしつこかった分、せいぜい悩まされて欲しい」

ディノッソがちょっと嫌そうに笑う。精霊剣は割とすぐに高額で流したはずだから、よっぽど勧誘が面倒だったんだろう。


「関係ないことですまんが、一ついいだろうか?」

アッシュが聞いてくる。


「何だ?」

「ジーンは何故、女神ナミナが光の玉に見えるのだ?」

「――弱ってるから?」

「アズよりも弱い存在に落ちているのか?」


 あれ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る