第299話 採用窓口が問題

 とりあえず島の問題点とか不便な点とかヒアリング。風呂に入るのが面倒というのは却下。今までの生活と全然違って戸惑うとか、もう水汲み生活にもどれないとか、水路涼しいとか、かゆくないとか。


「風呂、洗濯場、ベッド……どれもすばらしい……」

ファダーはあれだ、藁のベッドは耐えられなかったか、毎日取り替えてたかだな。


 マットレスは、ソレイユを通してマリナで職人を雇ってせっせと作っている。今のところは本館と高級宿に設置してある。すでに引き合いが来てるんだが、やっぱり高くなるので普通では手が届かない。


 なお、本館のマットレス付きのベッドは有料で給料から天引き中。人数分ないので、希望者に貸し出してる形。ソレイユとアウロは購入したって言ってたけど、ファダー も買いそうだな。


 さっさと広げたいところだけど、材料が高いというか、物って高いんだよな。人件費は驚くほど安いけど。ここで働いているやつらも、おやつ払いだとか備品の有料貸し出しだとかで、他よりも高給に設定してたはずなのに気づいたらなんか低賃金。


「今のところ移って来ているのは、都市の人間ですね。親戚を呼びたいのでもっと移住枠を広げてくれという要望がありますが、技能を持つ者を優先しています。耕す者もほしいところですが、こちらは難しいところでしょう」

アウロが説明。


 大抵の領主は農民からは搾り取るだけ搾り取る方向なので、生かさず殺さず逃さないようにしている。勧誘なんてしたら、兵をけしかけられる。本人たちも知識も情報も入らない状態なので、よほどの飢饉でもなければ土地を動くなんて考えもしないだろう。


「最初はちょっと税の一部を賦役でってことで、畑も耕してもらおうか。畑も人が少なくてもいい時と大勢で作業しないといけない時があるから」

他にも月に二回の水路の掃除とか、広場の掃除とか、通路の掃除とか色々賦役を課す方向。清掃員を雇ってもいいんだけど、掃除の習慣をですね……。


 元々の島民以外は、土地家屋は貸し出ししてるだけで永住権は与えず、まだお試し。まあ、土地どころか住んでいる人についても、奴隷ほどじゃないけど微妙に領主のもの扱いになるんだけど、いまいちその考えに慣れない。


「農作業についてはちょっと考える」

俺は初期の頃に交流から逃げ出してディノッソのところに入り浸った前科持ち。あまりにも考え方が違う。


 染色したものの販売状況やら、訪れたナルアディードの権力者の話とか、足りない職人とか。人口比が男の方が多くなったからムサいし、宿屋や飯屋向けに女性従業員を募集したいとか。


 急いだ方がいいものから、どうでもいいことまでわいわいと。基本は島での染色と、島以外でマットレスとかランタンとか作って売る商売――仲介はソレイユの商会――、旅行客からの税収でやっていく方向。


 住人が増えれば税収も上がるけど、城塞都市やナルアディードみたいにぎゅうぎゅうにしたくない。幸い染色したものは、綺麗な冷たい水でいい発色だし、ブランド価値がついたそうで高く売れている。


 とりあえずソレイユには引き続き商売と、『精霊の枝』を管理する人を探すようお願いした。


「商売の方は任せて! 何をどうやっても半年後には黒字よ、黒字!」

ソレイユは交渉とか外交とかいろいろで、実際に人を探すのはアウロが中心になる。


 それで変人が多くなってるのか……。チェンジリングについては向こうから来てるっぽいけど。


 郵便屋というか飛脚というか伝令人、代書人、煙突掃除人、学者までいかなくてもいいから一般教養を教えてくれる人。けっこういろいろな職業が足らなくって募集中か整備中。


 『精霊の枝』の管理人は精霊が集まって、しゃれにならないいたずらを始める前になんとかしないと。


 アウロが探してくるなら、ソレイユの言う一緒に叫んでくれる人が来る確率はとてつもなく低そうだけど。


 菓子缶をいっぱいに、菓子以外希望者にはエビグラタンを詰めたパイを置いて島を後にして、城塞都市の宿屋に帰る。


 ここの家畜を買ってって、豚とか牛とか増やしたいけど島は狭い。とりあえず祭りの時に配る分の肉が確保できてればいい。祭りの時に、肉が配れないと気前が悪い領主と言われてしまうらしい。


 ヤギはお母さんの乳が出ない時に赤ん坊にヤギ乳が必要なんで、もうちょっといてもいいかな。


「難しい顔してんな、また石についてとかしょうもないこと考えてるのか?」

真面目に考えてたらディノッソにからかわれた。碁石については忘れてたよ!


「あれ、レッツェたちは?」

「ディーンとクリスは娼館、レッツェも情報収集」

「二人は帰って来たと思ったらまたか」

レッツェとは別の方向でマメだ。


「今回はお二人も情報収集でございます。ローザ殿たちがおとなしいと思っておりましたが、どうやら偽勇者殿が妖精の道、精霊の道と呼ばれるものを利用するのを待っていたようです。場所の特定をしたというような話をレッツェ様が聞き込んでこられました」


 あ、そうだった。塞ごうと思ってたんだった!

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