第298話 ソレイユの願い

「なんかへ……個性豊かだな」

精霊の影響強いのかな。


「理由があるか、変わり者でなければ飽きて肉体にくを捨てて姿を消しますから」

アウロが書類を揃えながらさらりと言う。


 チェンジリングの中でも変わり者が集まってきてる疑惑発生。いや、でもこの場合の変わり者って、人間的ってことか? 


「こちらは本の形に綴っておきます」

「頼む」

神々が出てきてしまったパターンはあまり契約書に意味がなくなってるけど、正しく本の形にしておけば精霊のいたずらの心配がない。


「さて、ソレイユは落ち着いたかな?」

半泣きだったのを置いてきたからな。


 会議室に戻ると、チェンジリングが勢ぞろい。


 いやまて。島の中枢に普通の人間がソレイユとパン屋の奥さんしかいない! ソレイユがトップではあるけれど、比率がやばい。


「二つの神殿から派遣された神官たちは、慌てて帰途に着いたようだわ。新しく王の枝を手に入れた国がある可能性を上に報告するのでしょう。どの国から手に入れたのか、また探りに来る可能性はあるけれど『王の枝の国から非公開とされています』でそちらは済ませられるわ」

ソレイユの説明に、もう聞かれてるのかと思う俺。急に精霊の枝があったらそりゃ聞くわな。


 他にも根掘り葉掘りされたんだろうことは想像に難くない。お疲れ様です、ありがとうございます。


 国力がないまま王の枝を持つことを公開すると、枝くれや、大国に絡まれたりするので、それを避けるため秘匿している国もあると噂されている。枝を貰った立場からしたら、許可なく王の枝を持つ国の名を出すことはできないと思うので、うまい言い分けだ。


 でも、王の枝を持つことが国としては一番のステータス。シュルムは支配している国が複数あるので帝国だけど、本国のことは王国・・と呼ぶ。というか枝を持っていると公開している国は王国ってついてる模様。逆に持っていない国は王が治める国でも王国を名乗る国は少ない。最近知った。


「枝の呼ぶ精霊の系統が、奉じる神と違えば神殿の誘致が不可能なことは承知しているはず。――どの系統の精霊を呼び込むかは今後の島の発展に影響があることだし、教えて欲しいわ」

仕事の方に精神を持っていった様子のソレイユ。


 この会話は他の人たちへの周知の意味で改めて聞いているのだろう。でも、精霊の枝をどの国から手に入れたか教えるのを誤魔化されたと思ってる気配もする。説明面倒だからそれで納得してるならいいけど。


「来るもの拒まず。黒精霊や魔物も制限がない。代わりに守るべき理想の縛りもきつくない。まあ、精霊が増えれば黒精霊は居づらくなるだろうから、精霊が好みそうな環境を作ってやれば黒精霊は押し出されるだろうけど」


 もともと枝のあるナルアディードに近いせいで、精霊が周りに多い。力をつけた魔物が来たら、枝の効果範囲から外れた精霊を食い荒らす方向に傾くだろう。だけど、空の縄張りにうるさいドラゴンが飛ぶ魔物は叩き落とすんで、デカイのめったにこないんだな。


「とりあえず、枝にかこつけて住人には移住の条件の清潔習慣守らせる話はしたよな?」

したはず。


「湯屋の話でしたね、我が君。カイン、図面を」

アウロがカインを呼ぶと、カインとそれを手伝うアベルによって会議室の机に図面が広げられる。


「テオフ、ここに湯を沸かすために火の魔石を使うとして、どのくらいの維持費がかかりますか?」

アウロが質問する。


「半日湯を保つとしても、薪のほうが安いでしょう。――むろん魔法陣があれば別です」

テオフは眼鏡でストレートの白髪を後ろにまとめた魔石師。


 大抵の火の魔石はよく燃えるけれど、そのままでは瞬間的に高温を発してすぐ終わる。魔法陣のくだりは、俺が塔で水をあふれさせたことを知っているからこその発言だろう。


「魔法陣は作っとく」

俺の返事に、さっき契約した新顔がちょっとざわつく。そしてファラミアとマールゥがコーヒーとクッキーを配ってさらにざわつく。


「味……。本当にする……」

「これがクッキー……っ! 今なら金細工で最高のクッキーを造形できる……っ!」

食えないクッキーつくってどうするんだ。


「俺は別か、気遣い感謝する」

強面の花の妖精さんにはちゃんと塩味のチーズクッキーが配られている。


「バターの味というのはこれか!」

「ダーリン! よかった……っ!」

パン屋二人組はいちゃつき始めるの禁止で頼む。


 あとキールは誰も取らないから殺気を放つのやめ――ああ、マールゥと取り合うのか。せめて自分の分を食ってからにしたらいいのに、なぜお互いのものを狙うのか。


「……頼みがあるわ」

ちょっと疲れて弱々しい感じのソレイユ。


「なんだ?」

「普通の人間も雇ってちょうだい!」

気持ちはわかる、わかるが。


「俺がこいつらを集めたわけじゃないぞ。というかソレイユも雇ってるだろ?」

「ここに混ざってこられるような人を見つけるのは難しいのよ。ファラミアには人の目を気にせずのびのびしていてもらいたいし」

確かに普通に真面目に働いている人の方が断然多い。鍛冶屋の北の民も黙々と色々作ってるし。そしてキール、ソレイユの好意がファラミアに負けてるぞ!


「町には裏表のない潔白な指導者も必要だわ」

あー、ソレイユもアウロがチェンジリングに振っている裏の仕事を知っているのか。


「あと私と一緒に声を大にしておかしいと叫んでくれる常識人が……っ!」


 そっちが本題か!

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