第294話 制服

 ちょっと島の町に疑問を覚えたが、まあいいかと流す俺。路地探検楽しいし。


 桟橋から一番高い城砦へと長く伸びた大通り、それに沿って造られた町。


 桟橋付近と城砦付近で少し膨らみ、途中水路と石壁のみになったりするけど、まあ長い。


 城砦側の町は南側の路地に入ると勾配がきついというか崖なので、坂も階段も多いけど、狭いところから急に視界がひらけて海が見えるのもいい。


 崖に作られた町の造りは、景色がいいからというのもあるけど、肥沃な「土」にできる土地をなるべく残したかったから。


「んー。俺も町中に家持とうかな」

「よろしいのではありませんか?」


 いやでも、これ以上秘密基地的な場所を増やすのもどうかと思う、我ながら。


 大通りはすぐそこ。でも枝分かれした路地は、「大通りを目指す」と桟橋の方に連れて行かれたり、行き止まりに連れて行かれたり。道を知っていれば簡単だけどね。


 今も建物が道を遮っていて行き止まり、育ちかけた葡萄が蔓を伸ばす短い階段のある壁が目の前に。斜面に建ってるので、大通りに面した一階部分に裏から入ろうとすると階段がいるのだ。


 階段の上には黒に近い焦げ茶の小さなドア。ドアに小さく犬マークの紋章。衛兵の詰所のマークである。


「お疲れ様〜」

声をかけて横切ると、カウンターにいた一人がこちらを見てチェックをかけるが、アウロを見てすぐに直立不動。


 ――衛兵の掌握もアウロがやってるのか? 優男なのにマッチョを従えてるのか……。


 島は暑いので普段は鎧は免除。武器の予備は壁に掛けられ、鎧も有事には装備できるよう用意はされている。


 平時の制服は、騎士服っぽくしようかと思ったけど、これも暑そうだったので趣味でアオザイ風。下っ端は白で階級が上に行くほど青が濃く、模様がつく。


 着替えろお前ら! と言う意味で制服は当然支給。こっちではお仕着せとか、従業員に年に一回服や服を仕立てる布を贈るのは普通の習慣だしな。


 体にぴったりフィットなので、体型維持頑張れよと思いつつ、狭いカウンター前を抜けて正面に抜ける。詰所の正面は大通りに面していて、重厚な扉に大きめな犬マークのついた周囲の建物よりちょっといかつめな建物。石壁の石が一回り大きくって、石同士をつなぐ目地が他より黒っぽいだけだけど。


 なお、犬マークは日本の猛犬注意のあれじゃななくって、浮き彫りになったかっこいいやつである。詰所のカウンターの外は出入り自由で、悪い人には活用できない抜け道の一つだ。


 途中で会った子供達に飴玉を渡して懐柔、最近の町の様子を聞く。漁をしていた最初の住民も無事馴染んでいるようだ。ちょっと乱暴な職人がいるというタレコミもあったので、アウロを見ると軽く頷いたので後で教育的指導が行くだろう。


 会うたびに飴玉とか菓子を渡すせいか、子供の言うことと馬鹿にせず対処するせいか、町であったことを色々覚えていて話してくれる。だれそれさんは三日前に夫婦喧嘩してたとかも混じるけどな!


 見知った大人には会わなかった。仕事中な時間だからしょうがない。


 塔に戻ってコーヒーで一息。ちょっとやって見せたら、アウロが豆挽きからサイフォンをマスター。チェンジリングは真似ることは得意なんだそうだ、ただ気温で調整するとか応用は苦手という自己申告。器用そうだけどな。


 昼飯は柚子大根と、じゃがいもを細切りにしてバターたっぷりでフライパンで焼いたロスティ。あと冷たいトマトのスープ。


 偏ってるけど、アウロと城の広場で合流したチャールズが一緒なので肉類メインにすると味がね……。


 家の牛が出した乳で作った乳製品は味がするっぽいので、島の家畜も早く増やしたいところ。いやでも野菜と一緒で、精霊の影響なんだろうな。うちの家畜って、草と一緒に細かい精霊もぐもぐしてるから。


 ああ、もしかして。


『火トカゲくんカモン』

火かき棒で空気を入れつつ、火の精霊を呼び出せば火がまるで生きているかのように揺れる。


 火トカゲくんはこの塔の主人である青トカゲくんの眷属。属性が違うけど、長年ここの石造りの暖炉に住まっていた精霊だ。消えそうなくらい小さかったけど、俺が塔で火を使うようになってから手のひら大まで回復した。


 ディーンの腋をよく嗅いでいる火属性のトカゲは、よく見るとちょっと赤色の濃いマダラがあるが、この火トカゲくんは炭の焼けるあの綺麗なオレンジ一色だ。なお、臭いを嗅いだりしない模様。


 火トカゲくんがフライパンの底を長い尻尾で撫で、あっという間に熱々に。城塞都市で買ったソーセージを取り出して放り込む。


「はい、はい。実験実験、これ食ってみて。味がしなかったら残していいぞ」

焦げ目のついたソーセージをアウロとチャールズの前に出す。


「はい、我が君」

「我が君、いただきます」 


 やたら素直なんだよなこの二人。ちょっと気持ちが悪いと思うのは内緒だ。


「あーっ!!! 食ってやがる!!!」

キールがノックと同時に扉を開けて入ってくる。ノックの意味がない!!


 こっちはこっちでなんか俺の扱いがぞんざいなんだよな。ほかでは隙のない用人っぷりを発揮してるのに。

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