第293話 町の出来栄え
「神官行ったし、現場確認するか」
見るのが怖いが仕方がない。
二つ目の城門をくぐって町の広場に、『精霊の枝』は町の広場の真ん中。
「ここなら騒音があっても、通りすがりの人がびっくりするだけだな」
人の安眠を妨げないようで一安心。
四、五段の階段を上がって、アウロが扉を開け『精霊の枝』の中に入る。まだ庭園が養生中なので一般の人は入れないようにしているため、施錠中なのだ。
真ん中に水の流れる庭園、それを囲む回廊、回廊には売店と管理人と、精霊落としとかする部屋。部屋がない部分をいくつか作って、そこは小さな庭になっており、広場に向いた石壁の代わりに黒鉄の格子がある。
うちの怪しい庭師チャールズは、格子につるバラを絡ませたようだ。まだ育成中だが、中からも外からも美しい庭園が出来上がるだろう。庭園の主人がハニワなのを除けば、素晴らしい空間だ。
「石壁だし、扉の前にもう一枚壁と扉を設置すれば音漏れもなくなるかな?」
「はい。枝の部屋の前の回廊を閉じてしまえば可能ですので、ご許可いただければ」
「頼む」
「かしこまりました」
枝の部屋の前の回廊で話しながら確認、音漏れするとしたらこの扉だろう。精霊の枝があるので、そのうち石壁の精霊も生まれるだろうから、そうしたら防音を頼もう。
防音は風の精霊でもいけるかな? でも風の精霊がいつくってことはかなり稀で、あちこち好きな場所に行って立ち寄るとかだから、恒常的にお願いするには向かないか。
扉を開けると、一拍遅れて扉に近い方から精霊灯が灯る。これは俺が設置したやつ。天井から下げられた薄布が微かな風に揺れる。いや、そこここで精霊がぶら下がり、しゅっしゅっとパンチし、布で遊んでいる。
これ、淡い光の玉に見えてたら綺麗だったんだろうなあ。神殿とか行く時、俺もあんまり見えないように調整しようかな。
その布々の先の台座に鎮座する黒白の繊細な枝とハニワ。黒白の枝と同格のはずだけど、ハニワのインパクトが強い。まあ、黒白の枝は二本で一つ分って考えたらおかしくはないのか。
黒白の枝はともかく、ハニワは太陽光を欲しがりそうな顔をしている。暗いところに安置してると博物館みたいだしな。
城塞都市の神殿みたいに天井に丸く穴を開ける予定だったんだが、音漏れがしそうだ。ああ、防音ガラスはめればいけるか。
ハニワは動き出しそうではあるが、微動だにしない。動く方がおかしいんだけどね。
「楽器はどういたしますか?」
「普通のサイズと、その12分の1サイズくらいのをいくつか作ってやってくれ。ここに置くのは壁ができてからで。手配を頼む」
ハニワが弾くのか、精霊が弾くのかわからんし、どう弾くのかもわからん。ついでにこっちの楽器、弦楽器がいくつかしか知らぬ。
「かしこまりました」
アウロが胸に手を当てて軽く会釈する。
「ここの管理人を早く決めないとな。天気のいい日は扉を開けるとかしてもらいたいし」
「しばらくは巡回の者に頼みましょう」
巡回は、警備兵が日に二回、城の使用人がやっぱり日に二回回っているのだそうだ。
前者は防犯のため。喧嘩や泥棒の他、積んではいけない場所に荷物を置いたり、勝手に出店したりもチェックする。これは決まったコースを二回。その他、当番の者がウロウロしている。今はまだ住人が少ないので暇だろうけど。
後者は町ができかけなので、不便や不具合、今のうちに改善した方がよさそうなところを探しつつ、人が入っていない建物の確認や、建設の進行状況のチェックをしてもらっている。
アウロに解説してもらいながら、ぐるっと町を見て回る。建築中の劇場、隣接した音楽堂。
市場はいくつか店が入っていて買い物客がいる。まだ、食品とか籠とか、生活に直結したものばかりだけど、そのうち賑やかになるはず。客は定住する職人さんの家族が主かな。
独り身の職人さんには、今のところ兵舎や使用人の宿舎を貸し出している。宿屋は浜辺側の安宿が店を開けている。――今回の神官騒動で、広場のお高い宿のふた部屋を稼働させたみたいだけど。城にも部屋はあるが、まだ中を見せたくないらしい。
町の中はだいぶ整ってきた。桟橋のある港から広めのメインの大通りが広場まで続き、途中に衛兵の詰所が三つ、いざという時は鉄格子を閉めて、上から攻撃できるようになっている場所が数カ所。
普段は格子は開いていて、左右の建物をつなぐ攻撃のためのアーチも旗を垂らし、俺からするとなかなかの風景スポット。
大通りは荷車や馬車が使えるよう、なるべく緩やかな坂道にしてあるが、基本、その他の路地は狭く入り組んでいる。
勾配のきつ目な場所なので、階段や急な坂、水路で分断されたり、路地の先が民家だったりと行き止まりも多い。慣れないと迷う構造ではあるが、町自体がそう広くないので半刻もさまよえば大通りに出る。
所々に公園代わりに十畳ほどの広場を設けてあって、近所の人が集えるようになっている。
ナルアディードの住人、なぜか夕方になると家族単位でウロウロ散歩に出かけて、外で座り込んで会った人と話し込む習慣があったので。ここの住人にその習慣ができるかは謎だけど、子供の遊ぶ空間としても便利なので作ってみた。
全体的にチャールズに監修をお願いしたため、町のあちこちに木々や花々があり、育つのが楽しみな感じ。
慣れないと迷うが、慣れれば抜け道とか、民家の扉と見せかけて隠し通路。扉の先に建物の上の通路に出る場所とか、面白い。
いや、待って。どこに向かってるのこの町。
おかしいな? 一見、水路が巡って花々や木々がある美しい町なんだが、ちょっとおかしくないか? つい浪漫が刺激されて許可出したり、提案しておいてなんだけど。
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