第290話 リシュもだけど。

「ギルドへは、大体の役割と行動結果は報告した。今回、全員一定の金額から下がることはねぇが、上がることはある。個別の交渉とアピールは二日後の支払い日までに済ましとけ。――ジーンの行動は、明かりの魔法と一人の拘束、行動補助、当たり障りのないことしか言ってねぇ」

ギルドでの話をディノッソから聞いている。面倒なので俺はそのまま出た金額を受け取る予定。


 一通りの説明を聞いて、また外へ繰り出す。まず、鍛冶屋や繕い物をする職人を訪ねて、迷宮で傷んだ装備を修理に預ける。精霊剣とか任せられないのもあるけど、綺麗に手入れをしてもらえる。


 靴の手入れは、預けずその場で待つ。靴を脱いだディーンの足に精霊が張り付いているのはみないふり。


 昼は肉自慢の店に入って食事。一人では食べきれないようなスペアリブがどーんと、まな板に乗ってやってきた。下には焼いた玉ねぎ、上には肉切り用のナイフが突き刺さっていて、なかなか豪快。


 プリッツェルみたいに外側がてらてらとして固いパンもついてきた。あとは個別にビール、これは濃い茶色をしている。


「ここは魔物の牛の中でもでかい品種のヤツを扱ってる。どれを頼んでもでかいし美味いぞ」

そう嬉しそうに言う、肉好きディーンのお勧めの店だ。


 そういわれてよく見ると、肋骨のはずの骨もだいぶ太い。なんというか、美味しいけど、肉を食ってる!! って感じが先行する。


 アッシュやクリスはナイフとフォークを使うようだが、俺は骨を持って豪快にかぶりつくディーンの真似。この店で食うならディーンが正解だと思う。なかなか切れずにびょーんと伸びる筋もご愛嬌。


 カーンの食べてる姿もなかなか豪快。酒が主で、実はあんまり食べてないのだが、たくさん食べているように見える。


「もうすぐ冬だけど、城塞都市ではいつでも新鮮な肉が手に入るからねぇ。でもやっぱり、私のお勧めはこの時期は野豚だよ、どんぐりをたくさん食べてるからね」

器用にナイフで骨から肉をはがすクリス。


 普通の町や村では、餌になるものが不足するので、冬になると養いきれない分の家畜は、潰して塩漬けにしてしまう。


 城塞都市では、豚やら牛やら鶏を森に放ってわざと魔物化させて飼って、いや狩っている。もちろん、魔物にそのまま食われてしまう家畜もいる。中原の戦乱の様子を見ながらけっこう難しい調整をしているらしい。


 黒精霊も利用する人間は、たくましいというかなんというか。魔物化した家畜たちに殺される人間も毎年少なくないそうだ。それでも食料の安定した供給の方を、多くの人が選ぶ。


 魔物達に近い土地は豊かだ。多くの人間を養い、代わりに多くの命を奪う。


 午後は城塞都市の観光。ディーンとクリスにお勧めの場所に案内してもらい、装備を回収して、宿屋に戻る。古い都市なので、俺には街全体が観光地だったけど。


 狭い路地に入って行こうとして、何度か止められたのは内緒だ。


「おう、お帰り」

「ただいまー」

レッツェが宿に戻っていて、鞄にブラシをかけながら迎えてくれた。寝袋とかも周囲に畳まれてあるので、お手入れ中のようだ。マメ……っ!


 夕食はみんな揃って、部屋で食べた。野菜、野菜を食え!


 で。


「一日離れてただけで、ミシュトとハラルファか……」

寝室で、夕食時に聞いた話を蒸し返して頭を抱えるレッツェ。


「で。分かってるだけで、お前は神クラスの精霊を五人も従えてるわけだ」

寝る前の寝室、俺とディノッソとレッツェの三人。ベッドの端に腰掛けて、腕組みをしているディノッソ。


 もう寝て、明日は一日島に行く予定なのだが、みんなの前では言えなかった会話の気配を感じる。


 ん? 五人? 姿を現したのって、ミシュトとハラルファ、カダル――あと誰だ? ヴァンが出て来たのは島でだし、パルとイシュ、ルゥーディルは来てないよな? エクス棒とカーン?


「待って。指折り数えて折り返すのやめて!」

七人目を数えたところで、ディノッソに止められる俺。


「誰?」

「そこからなの!?」


「問い質そうとすると、ディノッソの心労が倍になるのは何故だ。――今回のミシュトとハラルファ。カダル、リシュ、ベイリス」

レッツェがちょっと投げやりに名を告げてくる。


「王の枝はノーカンか。ん?? カーンのベイリスって小さいだろ?」

レッツェに見えてなかったはず。いやでも、姿をわざと消してただけ? 一緒の借家にいるうちに姿を見せた? ん?


「お前と契約した時点では、でかかったんだろうが。カーンから聞いた。ついでに、お前が自覚なさそうなのも聞いた!」

そう言えば人型で、でかかったなベイリス。


 砂漠に行けば、またぼんきゅっぼんの美女に戻るんだろうし。カーンのロリコンの印象の方が強かったんで、なんか別物の気がしてた!


「砂漠の女神だそうだな。守護ならともかく、同意があったからとは言え、契約して支配するって聞いたことがねぇ。危ねぇからせめて自覚しろ」


 あ。レッツェによって、またほっぺたの人権問題が発生!

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