第287話 魔法陣見学
「凄いですね……っ」
にっこり笑って感嘆のセリフを口にする俺。
微妙に引いた顔で、俺を見るディノッソとレッツェ。
「ええ。これだけの魔法陣はもう描けますまい」
俺の賞賛に、気を良くしたらしい神官さん。
魔法陣の部屋は、基本依頼者しか入れなくて、自分に憑いている精霊を見るとかならともかく、欠損まで治すという魔法陣は怪我がなくてですね……。
そういうわけで、そこそこ偉そうな神官さんをとっ捕まえて、お布施と個人的なちょっとした心づけをして、神殿内の見学をさせてもらっている。
もっと簡単に処理できる、軽いものは魔法陣なしの部屋に案内されるか、普通に神像のある広間で祈って――魔法を使っておしまいのようだ。
今は大トリ、欠損を治す魔法陣を見せてもらっている。円形の魔法陣の周りに、ギリシアの遺跡みたいな円柱が建ててあり、円柱同士にやっぱりドレープをたっぷりとったカーテンが下がっている。
そして天井に円形窓、ガラスなし。この神殿、円形窓好きだな……。でも確かに、暗い中で上から特別なものに降り注ぐ光って、演出的にはいい。島の精霊の枝の部屋にも穴開けようかな。
ダメか。想像の中でピンスポ浴びて埴輪がアフロかぶって踊り始めた。
造形に見入るフリをしながら、書いてあることを覚える俺。ふんふんなるほどなるほど。よし、覚えられないから後で図書館に行こう!
「こちらは大変美しいですね。でも雨に降られたりはしないのですか?」
この辺りの降雨量は少ないけれど、やっぱり気になる。天井に穴が空いてるのに、どうするんだろう?
「雨の気配を知らせる精霊がおりまして、そのような時は神官たちが屋根をかけるのですよ」
人力開閉装置がついてた!
「管理も大変なのですね。神官様たちの日々の努力に感服いたします」
「そう言っていただけると報われます」
ぼったくりお布施の元だもんなあ。
あと、円柱に明かりがついてるけど、あれはもしかしてカーンのところにあって、俺が島で塔の中にくっつけた精霊灯――の、壊れたやつにろうそくがぶっ刺してありますか?
カーンの方をチラッと見てみるが、気づいた様子はない。
いかん、最初のインパクトが薄れてきたら粗が目立ってきたぞ? 島の造形は手を抜かないようにしよう……。
見学を終えて神殿を出る。精霊たちがそこかしこから顔を覗かせていたが、気にしない。気にしたら負けだ。
「久しぶりに顔が疲れた」
「お前、愛想笑いで対応なんてできたのか……」
「面倒なんでしないけど、一応できるぞ」
ディノッソが疲れた顔をしている。
「それよりも、後方が……」
前を見たまま執事が言う。
「何かまずいのか?」
レッツェが眉をひそめる。
「うむ。神殿にいた精霊が、何匹かついて来てる」
「おい……」
アッシュの言葉に困惑した顔を見せるレッツェ。
見える組――レッツェを除いて、全員不自然な感じにまっすぐ前を向いて歩いている。
「俺は何もしてないぞ?」
俺じゃない誰かについてきてる可能性だってある。
「ジーンの人徳だろう」
アッシュ、それ今はフォローにならない。
「なんとかしとけ」
「無茶振り!」
『えー。後ろをついて来てる精霊のみなさん。目立つし、バレると後で怒られるヤツなんで、バレないように個別行動でお願いします』
ディノッソの無茶振りになんとか応えようとしてみる俺。
いや、俺の後をついて来てるんじゃなくって、精霊たちにこの時間にどこかに行く習慣があるとかね?
「……散れたな」
カーンの言葉で、その可能性がなくなったわけだが。大丈夫、まだ俺じゃなくって、王の枝たるカーンについて来た可能性が残ってる!
「街中ではあんまりやらかすなよ?」
「無実です」
ディノッソに釘を刺されるが、何もしてない!
「俺はこれからギルドだ。ディーンとクリスも顔を出すはずだが、なるべく早く話をまとめてカヌムに帰れるようにする」
ディノッソとレッツェ、カーンとはここで別れる。
カーンはお偉方との顔つなぎ、レッツェは神殿の見える人を観察だって。
「帰れるのは嬉しいけど、無理に譲歩とかしなくていいぞ」
俺とアッシュたちは、ディノッソたちとギルドの話し合い次第で決まるだろう、ギルド指定の日に行く。
「俺も金には困ってねぇけど、安く見られるのは王狼の名に関わるって、ディーンが泣くんじゃねぇか?」
金には困っていない、さすが堅実な男レッツェ。ディーンは俺に金を返すと、すっからかんになりそうだけど。
「俺が奥さん不足なの!」
ディノッソが強く言う。家族持ち……っ!
あと、宿屋に着いたら座布団がいました。俺のせいじゃないと思います。
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