第284話 範囲内

「お前、目立ちたいならともかく、精霊を憑けられることと、精霊を剥がせること、他人の精霊を動かせることは、絶対悟られるなよ?」

ディノッソがため息をつきたそうな顔をして言う。


「国がらみのものはともかく、基本、精霊との契約が壊されるのは、術者が未熟ということになります。ですが、あまりお手軽ですと、どう考えても目をつけられますからな」

執事はもう平常運転で、微笑を浮かべている。執事は枝関連以外は復活早いな。


「うむ。確実に国か貴族同士の取り合いになる、あるいは神殿か。それに、ほかの手に落ちるなら、いっそ、というところも出る。国での栄達を望まぬなら、絶対に隠し通すべきだ」

隣でアッシュも難しい顔で口にする。


「とめないんだ? 特に契約精霊勝手に解除とか」

「まあ、な。長く冒険者をやってると、絡め取られてやばい実験に使われる精霊とか見ちゃってるわけよ」

手をひらひらさせるディノッソ。


 そう言えば伝説の金ランク冒険者だった。俺より遥かに人の嫌な面を見ている気配。


「ジーンの安全を考えると、やれとは言えねぇ、でもやめろとも言えねぇ。ただ、絶対バレるな」

少し真面目な口調で、最後はむしろ脅すように睨まれる。


「分かった」

神妙に頷く俺。


「精霊を暴走させた方法は、見ていた私にもわかりませんでしたので、多用しなければまずはバレないかと。そちらの方法はあえて聞きませんが、ライトの魔法の調整方法をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

バレない執事のお墨付きを貰った。


 ……きこえますか…いま…あなたの心に直接呼びかけています――精霊に心の中で話しかけただけだしな、特定の精霊に注視することもしてなかったはずだし、それでバレてたら怖い。


「ライトは眼鏡――じゃない、副ギルド長の使ったやつと同じくらいにしてもらった」

「相変わらず人の名前を覚える気ねぇな。ノートが言ってるのは、同じくらいに指定するために、何を使ったか? だろ」

ディノッソに人の名前を覚えていないことがバレた!


 だが、この流れは、光の強さや大きさを指定するのに何か手順がいる気配! 


「……」

ちょっと黙る俺。


「そう言えば何か唱えてたな? あれが指定の呪文か? 部外秘みてぇ――いや、お前、さてはまた適当だな?」

レッツェは毎回図星を指してくるのはやめてください。


「さっきの眼鏡程度の明かりを、大蛇の周りにお願いします、って頼んだだけだな」

ちゃんと指定はしている。


「……ノート?」

「ジーン様、よろしければ魔法使いを紹介いたしますか? 普通を知らずにそれを装うことは困難でございましょう」

笑顔の執事。範囲内だった!


「お願いします」

ぜひ! チラ見せ魔法陣が、どんなものがいいかも知りたいし。


「振っといてなんだけど、誰を紹介するつもりだ?」

「ハウロン殿を」

「それ、普通じゃねぇ!!!」

ディノッソが、執事があげた名前を聞いて叫ぶ。


「ハウロンって、もしかして王狼バルモアのパーティーにいた魔法使いかな」

レッツェ、なんかディノッソとバルモアを切り離して認識してない? 気のせい?


 でも王狼のパーティーってことは――


「伝説?」

「そう、伝説。ただ、えらい偏屈だって聞いたな。まだ生きてたのか……」

レッツェが考え込む。多分これ、ハウロンとやらの情報を整理してるんだな。


「偏屈ゆえに、ジーン様が多少おかしくとも、誰かに言うことはございますまい。人との交流はお嫌いですので」

執事がにこやかに言うのだが、その人嫌いっぽい人のところに俺が放り込まれるの?


 そんなこんなで本日は終了。ここのベッドは天蓋はついてないけど、ベッドフレームから伸びた、布をつけるための丈夫そうなはあるので、そこにハンモックを吊って、二段ベッド風にした。


 うっかり落ちても平気なように下はディノッソ。カーンは暖炉側から動かざること山の如く。仕方ないので、俺の封筒型の寝袋を開いて貸し出した。寝ないのかもしれないけど、酒もつけたので手酌でやるだろう。


 明日は神殿をはじめとした城塞都市の観光予定、冒険者ギルドに昼過ぎに顔を出してみて、その後の予定を立てる方向だ。


 野ブタとか野鶏を狩りに行くチャンスはあるかな?

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