第280話 一応解決

「ありがとうございました、大変助かりました。それにしても何故精霊が暴走を……」

眼鏡が謝意と疑問を伝えてくる。


「レナード殿が最初に気を失っているようですので、暴走はレナード殿の精霊が原因だと思われますが……」

ここでちらっと確認するようにディノッソを見る。


「道中はおとなしく、ずっと飼い主のそばにいるように見えたが。――肝心な時は、地を潜る蛇に意識がいっていた。暴走に気付いたのは、周囲の精霊全部がおかしな動きを始めてからだ」

ディノッソが答える。座布団はおとなしく魔力を吸ってただけだが。


 眼鏡は自分の精霊が、。いざという時の責任をローブに被せたいんだろう。金ランクのディノッソの言葉は重い。


 ディノッソは、事実を述べることにとどめたので、アテが外れたのだろうけど。


 この眼鏡は、精霊が見えないふりしていたというか、見えると言わなかった悪い眼鏡です。


 結局、最初から気を失っていたローブは別として、「関係者以外の見える人から魔力を吸っちゃって」で、倒れたのはこの眼鏡だけ。


 白蛇にがぶがぶされてることに気づかないところを見ると、光の玉に見えてるパターンかな? 契約精霊はけっこう姿を見せてくれることの方が多いらしいのに……。


 そう思いながら白蛇を見ると、すごくご機嫌で眼鏡の肩に鎮座している。


 懐いてないというより、白蛇がちゃっかりした性格で、はっきり見えないほうが自由に動けるってわかってるな、これは。白蛇くんのほうが一枚上手なようだ。がぶがぶしたからか、なんか心なしか大きくなってるし。


 座布団はもう迷宮から出て、城塞都市にある神殿に帰っているはず。神殿の誰かに憑くつもりはないっぽいけど、付き合いの長い精霊がいるみたいで、挨拶しにいったようだ。


「そばにいた、レッツェさんも気を失ったと聞きましたので、そうかと思ったのですが……」

困ったように笑う眼鏡。


 そういうことにしてやってもいい。外に出てきたツタに気づかずなによりだ。


 ローブはディノッソに絡んで軽くあしらわれ、ちやほやしてくれるお守りさん以外のパーティーメンバーにちやほやされに戻っている。


 ローブに座布団が憑いていないことを知ったせいか、眼鏡も少し距離を置いた模様。もともとかもしれんけど。座布団がいなくなっても、お偉いさんの息子だってことは変わらないので、口調は丁寧だ。


 ローブに座布団が契約で縛られる前も、神殿では身体欠損の治療は行われていたそうで、一安心。ただ、魔法陣を使った儀式に人と触媒と時間がかかったそうだけど。治すのに金が倍以上かかるようになるね!


 ローブも魔力はたくさんあるみたいだから、神殿でのお仕事に従事することになるだろう。ほかの精霊に力を借りることができるならともかく、たぶん魔法陣なしでは何もできないと思う。そして座布団頼りだっただろうローブに、魔法陣を描けるとは思えない。


 眼鏡に聞いたら――聞いたのはレッツェだけど――怪我を治す時、油断すると術者が、治す部位と同じところを持っていかれることが多いのだそうだ。なので、眼鏡が懐に入れてるみたいな魔法陣を使う。


 眼鏡は一応、魔法陣なしでも魔法が使えるけど、ちょっと高度な条件をつけた魔法や、精霊から魔力以外の対価を求められやすい魔法を使う場合には、魔法陣を使うそうだ。


 俺も、それらしい魔法陣を懐に入れてチラ見せしよう。


 地を潜る蛇は、ちゃんと心臓を先に抜き、角と毒牙、皮をディノッソたちがもらって、ほかは残りの全員で分けることになった。骨とまぶたは高めに売れるのだそうだ。


 なお、蛇の瞼は透明な模様。実はずっと目をつぶってる状態らしい。眼鏡に憑いてる白蛇は、瞼があって瞬きするのにな。


 肉の方も、心臓を先に抜いたことで、利用価値が上がったらしい。血が体内にとどまったからとかなんとか。


 今、迷宮ここの魔物の特徴と解体データは六十一層まであるそうで、有料で買える。ランクで閲覧制限があって、レッツェは銀に上がった時に、ここの資料だけでなく、見られるようになったギルド保管の資料は目を通したのだそうだ。勤勉すぎる。


 ちなみに五十七層以降の魔物のデータは、ほぼ王狼ディノッソのパーティーが過去、に持ち帰ったものから研究されたそうだ。でも、本人は研究の結果得られた、最適な解体方法とかは知らないっていう。大雑把すぎる。


 やはり一度全員引き上げることになり、俺たちは先にもどることになった。ほかの人たちはここの片付けがあるからね。ローブのパーティーも早く外に出たいようだが、崖を登るのも嫌らしく、鉄籠が直るのを待つらしい。


 報酬の話もあるので、一週間ほど城塞都市に滞在することになりそう。俺は抜け出すけどね!


 迷宮の魔物倒そう、魔物。せっかく迷宮に来たんだし、スッキリ爽やか魔物討伐がしたい。いや、でも島の様子も見に行かないといけないし、畑も心配だ。


 悩ましい。

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