第279話 暗躍
「そいつは毒を纏っている! 安易に近づくな!」
ディノッソの声が飛ぶ。
『地を潜る蛇』がいる崖と、俺たちとの間には距離があり、間に崖で作業をしていた人たちがいる。
その中で、坑夫っぽい人を庇って冒険者が大蛇に向かう。ディノッソの声が届いた時には、すでに走り出していて止まれなかったようで、大蛇にたどり着く前に膝が崩れて倒れこむ。
振り上げられた棘のついた尻尾、吐かれる毒液。
「くっそっ!」
レッツェがいきなり膝をつく。
飛び散った毒液が届いたのかと、慌てて支えようとしたら、蔦がですね……。
「おい、大丈夫か!?」
お守りさんも駆け寄ってきた。
『俺の方から吸っていいぞ』
状況判断すごいな、俺は大蛇に注意がいっててスルーしてたよ、と思いながらレッツェの剣に話しかける。
伸びたツタは崖に消えている。多分、鉄籠支えてるんだろうなこれ。
『あ、面倒なので関係者以外の見える人から吸っちゃって、吸っちゃって。代わりに怪我人の回復と、大蛇と戦ってる人の補助よろしく』
周囲の精霊に頼む俺。主に座布団と白蛇くんにだが。
「何!? 精霊の暴走……っ」
眼鏡が膝をつく代わりに、側に倒れていた大蛇に毒を食らった人の体が淡い光で包まれる。
「おお? なんだこれ?」
「多分、耐毒防御。行ってこい」
ディーンがあげた声に応える俺。
「それは有難いね!」
「行って参る」
ディーンに続き、クリスとアッシュも走り出す。ディノッソとカーンはもう動いている。
フェチ精霊ズも参加してくれてるし、アズもはりきってつつきに行っている。見知らぬ精霊も参戦して、なんだかよくわからんけど、光ってる人は毒が平気になった様子。
その淡い光は、精霊が見えない人にも見えるらしく、倒れた人が起き出して、淡く光る自分の手をみて不思議そうにしている。いいから逃げろ。
執事の精霊も壁の影からこっちを見ている。――参加してもいいんだぞ?
俺が暗躍(?)している間にも、潜る蛇はディノッソと面倒くさそうにのっそりと進み出たカーンにボコにされている。
おっと、眼鏡が失神しそうで、ライトが薄暗く。
「『さっきの眼鏡程度の明かりを、大蛇の周りにお願いします』」
眼鏡の他の魔法も見たかったのだが、どうも機会に恵まれない。って、もしかして今がその機会だったのか!?
「助かった」
レッツェの声に続いて、がっしゃんと音を立てて、鉄籠が転がる。中に二人いたようで、うめき声が少々。どうやら引き上げ成功のようだ。
するすると剣に戻る蔦。完全に戻り切る前に、俺とレッツェに挨拶がわりにまとわりつく。レッツェに至っては、汗で顔に張り付いた前髪を払われてるし、よく懐いているようで、何よりだ。
レッツェの剣がバレるより、いいな。魔法はまた見る機会があるだろう。冒険者ギルドで依頼を出して、見せてもらうとかできるかな?
「よっしゃ! 絶好調!」
「いいね、今日は思う通りの軌跡が描ける」
ディーンとクリスは戦いの最中も騒がしい。
決着は簡単についた。
「本当によく斬れるな。刃こぼれ一つしてねぇ」
剣を光にかざして確かめているディノッソ。
俺の作った剣だが、戦いの最中はドラゴン型の精霊の力が流れ、炎を散らし、さらに格好良くなってた。
「解体は骨が折れそうですな」
「どっちにしてもここで一泊だ。手伝わせるさ」
ディノッソと執事の会話。
「怪我人の手当て――いや、治っているな。ひとところに集めよう」
アッシュが倒れているひとの様子を確認し、動ける人に指示を出している。
お守りさんが、ちょっとレッツェを見、それにレッツェが手を振ると小走りに鉄籠に向かった。
「きつ……」
さらにぺたりと体を投げ出すレッツェ。魔力切れは座っているのも面倒な感じになるよな。
フラフラなレッツェを壁際に運んで、布団を敷いて寝かせる俺。
「地を潜る蛇は確か、血が抜け切る前に心臓を抜け。お前、魔法使い……。あとお姫様抱っこはやめろ……」
人の脇腹をぐりぐりする余裕はある様子。
自分よりでかい男を軽々抱えるのはおかしかったろうか。ほかも忙しそうで、見られてないと思うけど。
さて、俺も気を失ってる面々を並べてこよう。
大きな焚き火に大鍋、こうなったからには全員一度外に戻るだろうから、使う食料に制限はない。
根菜類と塩漬け肉が主なんで、ポトフだポトフ。あんまりいい肉じゃないけど、大鍋で大量に煮ると何故か美味しくなる不思議に期待しよう。
執事の指示で、動ける男どもが野菜を切り、鍋に放り込む。誰だ、玉ねぎの皮剥かなかったの!
命が助かった直後だからか、やたら陽気で盛り上がっている男たち。魔力切れ組は、うんうん唸ってるけど、レッツェは回復。座布団とか白蛇くんたちは、限界ギリギリまで吸ったようだ。
寝る時の位置どりはカーンの影にして、朝の抜け出しに備えたり、気を使ったけど、結構キャンプファイヤーみたいでちょっと楽しかった。
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