第275話 たぶん探し人

「おい、早く突っ込め!」

なんか白いローブに金糸で刺繍したような格好の十六、七の男が、もっと年上の冒険者数人を急かしている。


 ランタンを消して、距離を置いて様子を窺う俺たち。戦っている相手は、さっきディーンたちが倒したヤツと同じ魔物。なんだけど……。


「しょうがないわねぇ、金主の命令じゃ」

そう言いながら、魔物に向かって踏み込み、味方に斬りつける二人目の女。


「ここを出て冒険者に鞍替えしたら、ぜひパーティーを組んでもらいてぇ!」

女に斬りつける三人目の男。


「なにせ回復が使えるやつがいりゃ、攻略が格段に楽だしなぁ」

「その通り、その通り!」

魔物に斬りつける四人目と五人目の男。


 声は弾み、顔もニヤニヤ。戦う四人とも、黒精霊が後ろから首に抱きついたような格好で、腕と足が人の頭と背中に溶け込んでいる。


 味方同士斬り合っていても、気にせず、会話し、行動する。斬りつけられて、笑顔さえ浮かべているのだから、どう見てもおかしい。


「面倒な場所に憑いてるな」

ディノッソが呟く。


「魔物か、お互いと戦っている間にさっさと始末してしまうのがいいでしょう」

執事が言う。


 正対したら首の後ろは攻撃しづらいもんな。そっと見えない組に、対象と憑いている場所を伝える。


「何なんだ、お前ら! 早く魔物を倒せ! 四十層の魔物を持っていけば、最初から僕は英雄だ! おい、お前も突っ込め!」

状況がわかっていないっぽい一人目の男がわめく。


「俺は荷物持ちと案内の契約。しかも四十層は行程に入っていませんので。それに火を消さないのでいっぱいいっぱいですよ」

あ、お守りさん無事だった。


 火の精霊がいない場所では、火がつきにくいし、消えやすい。上からずっと火種を守っていれば、その火から生まれる細かいのがいるのでギリギリ。


 でも細かいのは生まれやすい代わりに、すぐ消えてしまう。周囲に小さな精霊がいないと、霧雨の中で火を保つのと一緒の難易度。派手に燃やしとけば、細かいのも多いから多少楽だけど、迷宮にそこまで燃えるものを持ち込むのは難しい。


「うるさい! 僕が行けと言ったら行け! もうギルドと約束ができてるんだ、お前なんか潰すのは容易だぞ!」

なんか面倒そうなのも無事で、黒精霊が憑いていない。隣でクリーム色の座布団みたいな精霊がおろおろしている。


 たぶん、この座布団のおかげで黒精霊が避けているのだろう。他の奴らに憑いてる黒精霊や、今まで迷宮内で見た黒精霊よりでかいし。


「おいおいおい、約束ができてるなんて公言していいのかよ……」

ディーンが呆れたように呟く。


「考えられるのは、口から出まかせか勘違い、もしくは使える回復魔法の効果がよほど高いか。副ギルド長が出てきてるんだから、ギルドと話ができてるってのは本当かもな。どう話ができてるか、勘違いしてる可能性はあるが」

レッツェが言う。


 ギルドやら国やらという組織にはちっとも期待していないので、どんな話ができてても、驚かないぞ。たとえいい組織であっても、大多数のために個人は切り捨てる決断をするのが組織だろうし。


 城塞都市の冒険者ギルドは、国の都合で手のひら返ししそう。偏見だけど。日本と違って、三権分立なんてもちろんしてないし、権力者が好きなように法律変えられるし、したい放題。俺も島でやってるけどね!


「四人だ、俺は大剣の男をやる」

ディノッソ。

「では私は女性を」

アッシュ。

「うむ、ショートソードの男を」

カーン。

「では私は、両手剣の男を」

執事。

「じゃあ、俺あのローブ」

参加、参加。


「やるな」

なんか四人くらいの声が被った。


「何をするつもりだ? おとなしくしてろ」

レッツェに拘束される俺。


 黒精霊討伐はあっという間、返す刀で魔物討伐。


「な、何だお前たちは!」

突然現れた俺たちに驚いて後ずさる座布団ローブ。


「副ギルド長の依頼で、あんたらを回収しに来たんだよ。行動がおかしいものは、黒い精霊に憑かれてる疑いがある・・・・・から、眠らせた」

あ。ディノッソ、そっと見えるの隠してる。さては座布団ローブを面倒臭い認定。


「おお! イスカル殿か! それにしても強いな、僕の専属にならないか?」

え、それで全部納得してスルーできる、だと!?


「断る。さっさと上に戻るぞ、副ギルド長が迎えに来ている」

座布団憑きローブ男の勧誘を断るディノッソ。


 スルーしてさっさと縛りあげにかかっている執事。亀甲縛り、早くなったな……。カーンまで亀甲縛りするようになってしまったし、なんか居た堪れない。


「よし、四十層で魔物を狩ったことだし戻ってやってもいい。その前に食事だ――ん? お前女か?」

「髪は伸ばしているけど男、リボンは私のポリシーだよ!」

アッシュの前に出て、前髪を払いながらクリスが答える。


 ……そういえばクリスって、ディーンが嫌がるから貴族の相手を引き受けてたんだっけ? いかん、アゴ割れとオーバージェスチャーが格好良く見えてきた。


「見ればわかる、お前じゃない! 後ろのヤツだ!」

「私か」

アッシュが答える。


「そう、お前。胸はないが綺麗な顔を――」

顎に掌底を叩き込む俺。締め落とすとかならともかく、滅多に失神なんかしないけど、うまく当てればここは脳震盪を起こす。


 ついでに執事の攻撃も入ったので、無事気絶した模様。死んでないよね?


「おいっ!」

お守りさんが慌てる。


「行動がおかしいので、黒精霊が憑いている可能性がある」

平坦な声で言ってみるテスト。やっぱり一緒にやっておけばよかった気がする。


「ああ、まあそうだな。黒精霊だな」

「黒精霊が憑いてたんだな」

「黒精霊ってことで、一つ頼むよ!」

ディノッソとディーンはいいとして、クリスのセリフはアウトではないだろうか? 

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