第273話 合図

 無事ダンゴムシを発見し、みんなを覚えてもらうことに成功。手に乗せたら、みんな何か嫌そうだったけど。


 ダンゴムシはあんまり目がよくなくって、空気中に漂う物質から触覚で臭いを感知するっぽいんだから、しっかり覚えてもらうには仕方ないと思います。


「あとはシヴァだけかな?」

「子どもらも頼む」

ディノッソが言う。


「ティナたちとは、もう一緒に探した」

「ちょっ! いつの間に!?」

「キノコ採りとか、野草取りとか一緒に森に遊びに行くから、その時」

浅い、明るい森にはいないけけれど、奥にはいる場所がある。


「もしかして、大分前……っ!」

愕然とするディノッソ。


「子どもは虫好きだからな。手のひらで転がして遊んでたけど、女の子のティナはもう少ししたら嫌がるようになるんだろうな。シヴァ大丈夫かな……」

成人女性は総じて虫が嫌いなイメージがあって、ちょっと心配。


「うわぁ。親が知らないところで、ダンゴムシをつつく危険な遊び」

ディーンがどんびきした顔をしている。


「ジーンがいれば、危険ではないだろう」

執事に手のひらを拭かれているアッシュ。


「増えるタイプの魔物は、一番古く頭のいい個体を倒せば、群れがまた知恵をつけるまで数十年、数百年かかり、無力化できるとか――」

執事が言う。


「いることさえ分かっていれば、焼き払うことも可能だからね!」

クリスが怖いことを言う。


「いざとなったら避難させよう」

ダンゴムシは弱いから保護しないと。


「お前、ダンゴムシ飼ってることは絶対バラすなよ?」

レッツェが念をおしてくる。


 そんなこんなでダンゴムシ談義が終わり、翌日は最後のパーティー探し。魔水晶目当てで二十七層にいる疑いが濃厚だけれど、すれ違ってしまっても困るので、可能性のある場所を地道に潰してゆく予定だったのだが。


「あー。お守り付きか」

二十五層の最初の拠点を調べて、レッツェが言う。


「お守り?」

「荷物持ちとか雑用に特化したような冒険者の中で、口が固いベテランのことだな」

「さては、強いけどアホな一行についてく人のことだな?」

「お前、身も蓋もねぇな」

そう言って苦笑するレッツェ。


 しゃがみこんでる隣に同じようにしゃがみ込んで、レッツェが見ていた地面に目をやる。白い小さな石がいくつか。


「その人の合図?」

「そう。この形からすると、四……ここは二十五層だし、三十四層か四十層か。まあ、三十四層にめぼしいものがある話は聞かねぇし、勇者がどこまで潜ったか知っていたとしたら、四十層だろうな」


「そんな合図、聞いたことがねぇんだが」

ディーンが顔をしかめている。


「このメンツだから言うが、契約外の予定変更するヤツラは貴族だけじゃねぇからな」

「あ、冒険者にもいるんだ?」

それは大々的に知られたら、合図は壊されて終わりだし、難癖つけられそうだ。


「そそ。だからこれを知ってるのは、一握りだけだ。これを見つけたら、それとなくギルドに情報を流すことになってる。俺みたいな弱いやつの保険だからな、ディーンは知らなくて当然だ」

レッツェの話を聞きながら、車座で小石の合図を覗き込む面々。


 ランタンの灯りに下から照らされてるもんだから、顔の影にちょっと笑いそう。


「気が変わって、予定のルートを行ったってことは? もしくは昔のものが残ってるとか」

ディノッソが聞く。


「ここから離れた後、また心変わりして戻したなら分かんねぇけど、昔のではねぇな。合図が置いてある周囲が均されたのが最近だ」


 ここの迷宮は湿り気味の石に、その石が崩れたっぽい少しの土が窪みや端の方に溜まっている。小石は、その少しの土に半分隠すように置かれている。


 確かに他の場所の土より水を吸って黒っぽい? のかな? 難しいですレッツェ先生!


 合図を受け取った人は、自分が依頼を果たした後、戻る時にこの合図を壊してギルドに行くのだそうだ。


 依頼の行き先が被ってれば、ちょっと気をつけるくらいだそうだ。積極的には行かない。あくまでついでで、とても淡い助け合い精神。


「冒険者タグを持ち帰るようなもんだな」

レッツェが淡々と言う。


 探索の途中で、冒険者の遺体を見つけた時は、タグを一枚持ち帰り、見つけた場所と共にギルドに届ける。


「今回は救出班にレッツェがいて、この冒険者の運が多少良かったってことだな」

ディノッソが言う。


「後で合図の読み方を教えて欲しい」

アッシュがレッツェに願う。俺も俺も。


「ああ、明るいとこでな」

ランタンを持ってレッツェが立ち上がる。


 追いかけているパーティーの一員が残したメッセージから、二十七層の魔水晶のポイントを確認した後は、まっすぐ四十層を目指すことで方針決定。


 冒険者稼業は、真面目にやると覚えることがたくさんある!

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