第272話 寝る前に

「いや、まあ。話を戻すが、黒精霊とはなんで契約してるんだ?」

「不自然な笑顔!」

明らかに作り笑顔のディノッソに突っ込む俺。


「あー。話が進まないから」

レッツェになだめられる。


「契約すると黒精霊の痛みが治まるっぽいから?」

「何故そこで疑問?」

そういえば、馬はともかく黒精霊は誰かに頼まれたわけではないな。おおむね勢いで契約しているって言ったらダメな気配がする。


「勇者たちに、魔法で使い潰される精霊を減らすことも目的だけど、姉が【支配】の能力を持っていて、精霊も黒精霊も姉の命令を強制的にきかされるのを、先に契約して防ぐためだな」

よし、ちゃんとした理由!


「名前からして不穏な能力だな。その【支配】の能力は、契約だけで打ち消せるのか?」

「俺には【解放】の能力があるから」


「【解放】でございますか……」

執事が、自分の手袋をした右手を眺めて呟く。


「私が家名の重圧を感じなくなったのは、ジーンが傍にいたせいか?」

アッシュが言う。


「能力ってか、能天気でマイペースなのを見てたら、窮屈なことに汲々きゅうきゅうとしてんのが馬鹿らしくなったんじゃねぇ?」

ディーンが言う。誰が能天気だ、誰が!


「対のような能力だな」

「姉が選んだのは、【全魔法】と【支配】って聞いたから、対抗したんだよ。俺は巻き込まれて、気づかれずに山の中にしばらく放置されてたから、後から選べた」

レッツェに答える。


「ジーンは、放って置かれたのか」

アッシュが怖い顔になっているが、過ぎたことだ。放置は困るが、姉と一緒の場所に出なくて本当に良かった。


「なるほど、偽人形以外も魔法を――精霊を使うわけか」

「剣で大技使う時にも、精霊から力を貰うらしいぞ? もう一人の男勇者は確か【全剣術】持ちだ」


「嫌な能力ばっかり持ってやがるな」

「さすが勇者といったところだね!」

顔をしかめるディノッソと、声音だけは明るいクリス。


「その【支配】というのは、影響は精霊にだけでしょうか?」

「いや? 人間にもだろ。でも召喚した国の奴らは、持ちつ持たれつ自業自得みたいだし、俺が何かする気は無いし、近づく気もないから」

執事の問いに答える俺。


「まあ、ずいぶん前に聞いたとき、放置しておけば自滅するってことだったしな。俺も国レベルの話に首突っ込む気はねぇよ」

ディノッソ。


「で、ようやくダンゴムシに戻るが、魔物との契約はダンゴムシだけなんだな?」

「うん」

ディノッソの確認に頷く。


「厄介じゃないのか?」

「ほぼ放置だから。厄介なのは、人に一度憑いた黒精霊だな。一匹だけ契約したけど、精霊は良くも悪くも純粋なはずなのに、妙に卑屈でずる賢いし、やたら関わろうとしてくる。多分、憑いた人から影響を受けたんだと思うんだけど」

シャヒラはカーンに憑いていたんだろうか? まあ、ノーカンで。


「ああ。魔物も憑いた精霊と器になった動物、両方の性質が混ざるからな。面倒なら契約はやめとけ」

「他にいっぱいいるし、しない」


 他の精霊と違って、契約の揚げ足とりみたいなことをしでかしそうで怖い。寄ってくるのはどうにかして俺から魔力を奪いたいからだろうし。思わず、接近禁止命令をだしちゃったよ。


 ディノッソから、危ない契約はやめること、黒精霊と魔物との契約は人にばらさないこと、二点釘を刺されてお説教は終わった。


「まだ寝るまで間がある。ダンゴムシを探すのを手伝おう。魔力を与えるのだろう?」

「いや、魔力は気付いた時でいいって言われてるから。それに自衛は止めてないから、俺以外に見つかると攻撃してくるぞ」

アッシュの申し出を断る俺。


「む……」

「掴めばいいんじゃねぇの?」

ディーンが横から言う。


「手のひらから肉に潜り込むのも得意だそうだ」

「嫌な魔物だなおい」

顔をしかめてディーンが言う。


「気づかれなければ耳から最短で、石をひっくり返された時とかは、間髪入れず潜り込んで、進みやすい皮と肉の間を通って脳とか心臓に行くんだって。洞窟とかこの迷宮みたいな、暗くて湿ってるとこで、不用意に石をひっくり返さないほうがいいぞ」


「怖えよ! うっかり蹴り飛ばした石の裏にいたらどうすんだよ!」

ディーンが嫌そうに言う。


「気づけば両断いたしますが……。なにぶん、小さな魔物ですので気配も小さい。戦闘中などは難しいですな」

執事が言う。


「うん。だからダンゴムシがいたら、攻撃しないようにみんなの匂いを覚えてもらおうかと思って探してた」

だからダンゴムシを見ても攻撃しないで欲しいと言い添えて。


「よし、ダンゴムシがいそうな石を探そうか!」

やけくそのような、力強い声を上げるディノッソ。


「少なくとも寝る場所の周りにいないか、確認しとうございますな」

同意する執事。


 寝る前に全員でダンゴムシ探しです。


「ジーン、この石の下なんかどうかね?」

クリスが早速俺を呼ぶ。


「ハズレ、いない」

ひっくり返して、ダンゴムシが留守なのを確認。


「この石なんかいいんじゃないか?」

今度はレッツェに呼ばれて行く。


「なんかこう、子どもにダンゴムシの場所を教えてる気になるな……。魔物じゃなくて普通の」

「深刻にならねばならん事態で、何故こうゆるい?」

「俺に聞かないでくれ」


 ディノッソとカーンが何か話している。

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