第271話 そういえばそんなものもあった

「突っ込みどころがすでに多すぎるんだが……」

頭を抱えているディノッソ。


 多いの? 


「まず、何をどうしたら、そんな数になるんだ? 名前呼ぶのも大変なんじゃねぇの?」

「寄ってくる精霊はほぼ流れ作業だし、思うだけで口に出さなくてもいいことに気づいたら、格段に速くなった」

20201022の1から10までとかそんな感じ。並んでいるのは主たる精霊で、眷属は脇に避けてて、20201022の1の1とか自動連番状態。


「あと、最近はなんか勝手にメモ帳ノートに名前を書いてくのもでてるな」

「意味が分からないのですが……」

困惑している執事。


「俺もよく分からない」

うっかり出しっぱなしにしてたら増えてたんだよ。メモ帳ノートの精霊がやたら育ってるし、どや顔してたから、あれの眷属になってるっぽいんだけど。


 というか、俺のイメージのせいか執事ノートっぽい外観に育ってるんだが、肖像権の侵害で訴えられるだろうか。


「口に出さないでどうやって意思の疎通を……。ああ、お前は精霊言語ができたんだったな? それで契約前で、繋がりがない状態でも、意思の疎通が図れるのか……?」

ディノッソが考え込んでいる。


「何だ?」

「ジーン様、失礼ですが精霊との契約の手順をご存じですか?」

執事が聞いてくる。


「名前を貰いたがっている精霊に名前を付ける。嫌がってる相手は弱らせて名前を付ける」

「もう少し手順を……」

困ったように微笑む執事。


「並んでいる精霊に名前を付ける。黒精霊とか抵抗するのは、むぎゅっと締め上げて名前を付ける?」

「……」

微笑みのまま黙られた。


「……ノートの気が遠くなってるが、俺の気も遠くなった。おかしいと思ったら、そもそも手順を踏んでねぇ」

「え?」

「え、じゃねぇ! 普通は魔法陣とかで喚び出して、安全確保して精霊と意思疎通できる準備をしてから名付けるの! 俺のみてぇに試練っぽいもの超えて名前を付けるってのもあるけど。いや、もう、精霊の方が相手を気に入ってて、うっかり名付けちゃったとかも、ま! れ! に! ある、あるけどよ!」


「……そういえば、ずいぶん前に精霊を喚ぶための魔法陣を描く練習をしたような気もする」

「使って? 練習したなら使おう!?」

「いや、結局正しい魔法陣を描けなくて。普通に喚んだほうが早いし、魔法陣は魔石使用の便利道具系を覚え始めた」

むしろすでに居るかんじだし、あれは意味がなかった。


「諦めないで!?」

ディノッソが半泣きだが、おっさんが泣いても可愛くない。


「黒精霊のむぎゅっ、てのは何なんだ?」

レッツェが聞いてくる。


「黒精霊は逃げるから、まずは捕まえるところからだ」

「……物理的にか。精霊なのに」

「精霊なのに物理的に、なのですね……」

ディノッソとノートが揃ってため息に似た言葉を吐く。


「そこはそのうち勉強する予定だ」

馬から苦情来てたし。


「勉強したらしたで、規模が大きいとか、なにかやらかしそうで不安が……」

「冒険者の活動としては、衣食などはともかく、行動は普通ですのに」

「精霊とか魔法は俺の元いた世界にないから、あるがまま受け入れた結果だ。冒険者活動のお手本はレッツェだし」

移動や野営に関してはキャンプの概念が影響しまくり、剣での戦闘は時代劇の殺陣たて、その他のお手本はだいたいレッツェ。


「感覚や、野生の勘で冒険者をやってるヤツ紹介したらヤバかったなこれ。レッツェ紹介した俺、グッジョブ!」

ディーンがガッツポーズをしている。


「まあ、俺も改めて勉強してるわ」

少しだけ照れ笑いで、頭をがしがしと乱暴に撫でてくるレッツェ。


「あと、攻撃魔法とかその辺はやばい感じがしたんで、大人しく使える人を観察中だ」

「お前がヤバいって判断するって、どんだけだよ」

撫でる手が止まって、半眼になるレッツェ。


「魔法使いの設定は、不味かったのではないか?」

アッシュが心配気味に聞いてくる。


「大丈夫、眼鏡――副ギルド長の真似するから」

傍にいる精霊の種類も揃えたし!


「常識的なライトで頼むよ!」

いい笑顔でクリスが言う。白い歯が光りそうだな。


「坑道のあの全面照らすのは便利だけどダメな?」

「はい、はい」

釘をさしてくるディノッソ。


「そんなに契約してて、本当に魔力は平気なのか?」

そして心配げに確認してくる。


「名付けるときに多く持っていかれるけど、普段は平気だな。逃げ込んでくる精霊はほとんど手乗りサイズの小さいやつだし。がぶがぶするような精霊は近づけてないし」

黒精霊は抵抗するので、大きさの割に名付ける時に結構魔力使うんだけど。


「精霊との契約は神々からの依頼。――黒精霊とは何で契約してるんだ? いや、その前に神々ってのも気にはなるが、そっちは踏み込んじゃいけねぇ領域とかか?」

「いや? でも相手のあることだから、教えていいか後で聞いとく」

「それをお伺いすると、戻れなくなる予感がうっすらするのですが……」

そういえば執事は、カダルに会ったことがあったな。


「こいつ見捨てて、安全な世界に戻る気があんの?」

ディノッソが執事に聞く。


「いえ、常識の世界のことです」


「……」


「おい、一斉に目を逸らすことないだろう!?」

俺は人畜無害に普通に生活してるだけですよ!?

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