第270話 契約の種類
まずは腹を満たそうと、野営の用意。
袋から作ってきた餃子の皮を出す。何枚か水を糊にしてくっつけて、ニンニクをすりおろしてぐりぐり塗る。ベーコンをブロックから薄切りにして、チーズを――
「カーン、溶けるタイプのチーズくれ」
「どれだ?」
「そのむき出しの、すこし黄色味を帯びたものかと」
袋から色々なチーズを取り出すカーンに、執事が言う。
むき出しと言っても布には包んできてる。ただ、最初から栗の葉に包まれているものや、イラクサが表面に貼り付けてあるものがあるのだ。
ベーコンの上にチーズを並べ、胡椒をがりがり。端からくるくると丸めたら、ホットサンドメーカーに並べてゆく。
乾燥野菜をスープに突っ込み、ディーンが差し出してくるでかいソーセージを焼く。どんだけ肉が好きなんだ。
「ああ、くそ。また酒が欲しくなるつまみが」
ディノッソが言って、二つ目の餃子の皮巻きをつまみ上げる。
餃子の皮はぱりぱりに焼き、チーズは溶けて糸を引く、ベーコンの塩気が混じっていい感じ。春巻きの皮で作るともっとぱりぱりに。
こっちのベーコンや塩漬け肉は、保存の為か塩気が強いし、味の加減が難しい。俺が作ったヤツも、持ち歩きようにきつめにしてある。
「ディーンの持ち込んだ肉とかソーセージ、なんか美味いな。どこの?」
「城塞都市で買ったやつだけど、農家から仕入れてるってやつだな」
バリっとジューシー。ソーセージの焦げ色は正義。
しばし至福の夕食タイム。
そして食後はお説教タイム。
「よし、腹が落ち着いたところで続きを聞こうか?」
焚き火を挟んで、正面にディノッソと執事。
隣のアッシュがそっと手を握ってくれる。反対隣りのレッツェは逃亡防止なのか、またぐりぐり梅干しするつもりなのか、こっちも距離が近い。
「えーと。何を話せばいい?」
「黒精霊と――いや、限定せずに契約関係だな。今何と契約している?」
ディノッソが聞いてくる。
「精霊と、黒精霊。魔物はダンゴムシだけだな。あと、商売関係は執事に紹介してもらったチェンジリング――」
「性格に問題があろうと、契約で縛りやすい存在ですので。話してはいけないことが、
一斉に視線が向いたところで、涼しい顔で説明する執事。
執事曰く、契約で縛っていても、口には出せないけど、顔に出てしまうとかはありがちらしい。拷問を受けてしゃべりたいのにしゃべれない時とか……。いやまて、ありがちなのか?
「商売の時に顔見せとか交渉が面倒だから、普通の人と代理人契約した。あとその人についてる使用人とか、打ち合わせの時とか俺とよく遭遇しそうな人たちとも交わしている」
面倒だけど、抜かりなく。
「商売って野菜だっけ?」
「主に野菜で、それだけじゃなんだし、雨の日とかは染物をしてもらって売る予定。代理人通して、畑仕事の要員とか働いてくれる人募集してる。ちょっと形になって来たかな? 人を集めたり働かせるのは任せっぱなしだけど」
「お前の料理に、時々出てくる謎の野菜か。うまいよな」
ちょっとホッとした顔をするディノッソ。
「うん。あ、じゃがいも焼けた。売るのはこれとかだ」
ナイフで十字に切れ込みを入れて配る。
「塩と、好みでバターかチーズ、ベーコンと一緒にどうぞ」
「おう」
「これはちょっと寒いところでも育つから、小麦ができないところでどうかと思って。地中にできるから、戦争で上を荒らされても収穫できる確率が高いし」
俺も食いながら説明する。
「あちっ! でもうまいな」
美味しいは正義です。
「飢えが減るのは良いこったが、勇者の方は大丈夫なのか? あと、精霊が憑いてるものを売るのは避けろよ?」
レッツェ。
「ああ、ありがとう。精霊の方は、勇者に呼び出されて消費されないように、先に軽い契約をかわしてるかんじだな。強制的に
「それでジーン様の周りは、精霊が多いのですね」
執事がそう言いながら、お茶を差し出してきたのを受け取る。
多いかな? カヌムやみんなといる時は、近づかないよう言い聞かせてるんだけど。
「今どのくらいと契約してるんだ? 日替わりで二、三匹だと――」
「普通の精霊はたぶん二千四百万くらい?」
他に、契約した精霊の眷属が自動でくっついてきてる時があるし、契約してなくても普通に頼み事はしてるので、この数字に意味があるとは思わないけど。
名前を書きつけていたノートに、いつの間にか精霊が憑いた。いや、生まれた? どちらでも良いのだが、その精霊が新たに名付ける度に書き取りをしてくれるようになった。便利、便利。
なお、最近の名前は年月日・番号だ。家で落ち着いてつける時はそうしている。出かけた先とかだと、場所・番号だが。2回目に訪れた時は、場所・年月日・番号。黒精霊は番号の前にKをつける。
「……」
何か静かになったと思ったら、聞いてきたディノッソが固まり、執事が茶葉を入れ替える途中で止まり、ディーンがソーセージをかじりかけて止まり、クリスが真顔で止まっている。
隣を見れば、アッシュはいつも通り。レッツェは困った顔。
「黒白のシャヒラ、ベイリス、半精霊化していた俺と一度に契約を済ませたのだ。特殊な精霊が多数いるなら別だが、その数でも魔力で支えられよう。驚くには当たらん」
カーンがニヤリと笑って言う。
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