第269話 ダンゴムシの王

「ジーン様、「魔力をやる代わりに止めてる」という状況は、詳しくはどういうことでございましょう?」

執事がにこやかに聞いてくる。


「遺跡を見て回ってた時に、ダンゴムシの王っぽいのが居て――」

「ダンゴムシの王」

ディーンが鸚鵡返ししてくるが、居たんだからしょうがないだろう。


「つついたらなんか服従してきたから契約した」

「……」

「…………」


 笑顔のまま動きを止めている執事と、座った膝の間に頭を入れ込むように下を向くディノッソ。


「お前……」

目頭を揉んでいるカーン。


「倒さなかったのは何でだ?」

レッツェが聞いてくる。


「丸まるのが面白かったんだろ」

答えたのはディーン。


「いや、魔物とも契約できるのかなって?」

「それはつついて服従させた後だろ」

「気のせいです」

なんかディーンの追求が厳しい。


「ノート?」

ディノッソが下を向いたまま呼びかける。


「範囲外でございます。せめてカヌムの街の中に収めてください」

いい笑顔の執事。


「……レッツェ、コイツの一人旅についてく気ない?」

今度はレッツェに呼びかける。


「無理。目を離した隙に俺が死ぬ」

間髪入れず、答えるレッツェ。


 なんかひどい。


「俺はシヴァたちがいるし――」

「俺は最終的に、コレの望みは邪魔できん」

カーンがディノッソの言葉にかぶせて言う。


「俺の認識では、魔物や黒き精霊との契約は、暗黒魔法と呼ばれて禁忌の部類なのだが、今はどうなっている?」

「戦乱が長きに渡って続いている土地では使われることもありますが、今でも禁忌の部類でございます」

カーンの問いに執事が答える。


「名前からして、悪そうな魔法だな」

「お前だ、お前。ひとごとのような顔をするんじゃない」

レッツェに頭を左右の拳で挟んで、こめかみをぐりぐりする梅干しをくらいました。


 ひどい。


「お前がやらかしてるの! 爪切りされた猫みてぇな顔すんじゃねぇよ」

「え、こっちでも猫の爪って切るのか? ネズミとる時困らないか?」

こっちの猫は働く猫だと思ってた。武器の爪を切っちゃまずくないか?


「貴族の令嬢が飼ってる猫は、引っ掻かないよう切る」

「そういえば、レッツェは一緒に受けた貴族の依頼の時に、猫の世話も押し付けられたことがあったね?」

クリスが言う。


「へぇ」

色々やってるなあ。


「それは今関係ないからな? 普通は魔物と契約してみようなんて思わないからな?」

ぐりぐりが再開された!


「まあまあ、とりあえず話を聞きましょう。ダンゴムシの王とはどのような契約を交わしたのかお伺いしても?」

執事がとりなしてくれる。


「真顔でダンゴムシの王ってフレーズが言えるのすげぇな」

「……」

聞こえてきたディーンの言葉に、執事が一瞬固まる。


「ダンゴムシの方から積極的に人を襲わないようにしただけだな。ただ、お腹が空くらしいんで魔力をやる約束をしたかんじ。燃費がいいらしくって見かけたらでいいって」

つつきまわしたせいか何なのか、あっちから俺に寄ってくることがない。


「見かけたダンゴムシと、契約したダンゴムシの見分けはつくのかね?」

不思議そうにクリスが聞いてくる。


「いや、なんかダンゴムシは全部一緒みたい? グループがあるのかもしれないけど。たぶんアッシュの腕輪にくっつけた緑円と同じで、力をつけると増えるタイプの黒精霊が元なのかな? 火の精霊の時代くらいからいるダンゴムシだから、大陸にだいぶ広がってるっぽい。意志統合してるのが一匹いて、遺跡ではそいつに会った」

その一匹以外、さすがに見分けはつかん。


「大陸を制覇してそうなダンゴムシだな……」

「ダンゴムシなのにな……」

ディノッソのつぶやきに、ディーンが続く。


「魔物との契約は、危ない人と判断されるから控えろ。下手をすると迫害されるぞ」

レッツェが額に手をやりながら言ってくる。


「そうなの?」

「そうなの!」


 使い魔とかファンタジーでは有りだと思ってたけど、無しか。


「時に取り残された俺より認識がおかしい……気がするのだが」

「気がするだけではなくって、事実だね!」

カーンにクリスが答える。


 俺はこっちの世界での生活年数が短いんだからしょうがないと思います。


「魔物との契約は、長きに渡れば精神を病む。人への被害は抑えられるとはいえ、ジーンが犠牲になることはない。破棄はできぬのか?」

アッシュが怖い顔で言う。


 心配してくれてるんだな。最近、時々出る怖い顔が微笑ましく見えてきた。


「ああ、俺には神々からもらった、【精神耐性】がついてるから平気なんだ。ただ、契約している精霊に影響が出るから、黒精霊との契約も普通の精霊より少なくなるように調整してる」


「いや、待て。黒精霊?」

ディノッソが顔を上げて俺を見てくる。


 あ。これ、また怒られるパターン!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る