第268話 残り一組

 その後も順調に進み、眼鏡の元にパーティーを送り込んだ。無事なのが一組、無事じゃないのが二組。そして二十四層で、また一組捕まえたところ。


 なお、無事な一組は火が消えてしまい、そして新たに点けることに失敗して、半泣きの状態だった。真っ暗じゃ、さすがに帰れないもんな。


「上まで戻るのが時間がかかるし、微妙に面倒だな」

「ここからだと二十五層への道が近いから、余計そう感じる」

ディノッソとレッツェが話しながら、黒精霊に憑かれた人たちを眼鏡から受け取った縄で縛り上げている。


 アッシュが警戒に立って、他全員で縛ってるんだけど、レッツェと執事は亀甲縛りやめてください。以前、荷物を縛って見せたのは俺だけど、人に応用しないでくれ、頼むから。いや、でも江戸時代の罪人の縛り方だし、間違いではない、のか? 俺が不純?


 縛り上げたら、魔法陣が描かれた符をつけて出来上がり。


「お前、変なとこにはってるな」

俺が縄の端を持っているやつを、ディーンが見て言う。


 皆んなは胸の辺りに貼り付けてるんだが、つい額にぺたっと。符はのりじゃなくって、魔法陣の威力で二日間剥がれずくっついてるんだそうだ。


 符を貼られた人たちは、軽く縄を引くと引かれた方向に歩き出す。虚ろでちょっと怖い。


「人の気配が致します」

「ああ」

歩き出したところで、執事とディノッソが言う。


 歩みを止めて、そのまま耳をすましていたら、足音とカシャカシャと装備が揺れる音が聞こえてきた。


「あれ、先客」

「やっぱ、思い切って二十五に行こうぜ? 魔物いねぇし」

「あ、いいなカンテラ。ずいぶん明るい、最新式か?」

能天気な声が響く。


 どうやらここの採掘ポイントに移動してきたようだ。黒精霊の気配はなく、小さな火の精霊が一人に憑いている。


 クリスが事情を話す。


「えー。四十層までこの状態なのか! じゃあ、二十七層の魔水晶取ってくるのも夢じゃないじゃん!」

「いや、いっそ四十層踏破の冒険者として売り出そうぜ!」


 出会った冒険者は、面倒だった。黒精霊がいると言っても、どうも見えないものに対する意識が薄いらしく、魔物のことばかり気にして、聞きゃあしない。


 ちょっと憑いてる火の精霊さん、上に戻ったら俺のとこにこない? 俺が嫌なら、レッツェとかお勧めですよ?


 で、ちょっと話し合いをして連行役を押し付けた。執事の優しい説明で納得してくれたようだ。


 説明の前にディノッソに殺気をぶつけられ、カーンに一人掴み上げられてたけど。


 黒精霊に憑かれた人の状態を照らし出して見せて、怖がらせ、飴として黒精霊に憑かれた人たちを眼鏡の元に連れてったら、褒賞がもらえるっぽいことを匂わせて、連行を押し付けて送り出した。


「権威に弱いって、冒険者としてどうなんだ」

あわよくば、ディノッソとカーンの目を盗んで戻ってくるんじゃないかと思ったが、副ギルド長まで来ていることに驚いて、いきなり戻ることに積極的に。


「城塞都市を拠点にしてる冒険者はあんなもんだろ」

ディーンが何も不思議はないみたいな顔で言う。


「城塞都市は当然ながら、国が主導で作った場所です。階級や役割がはっきりしておりますし、ギルド同士の結びつきも強く、何か意に添わぬことをすれば、素材の買取を拒否するだけでなく、最悪は城塞内の店は何も売ってくれず、宿も追い出されます」

執事が丁寧に説明してくれる。


「元々一時滞在するくらいの冒険者にはなんてことないが、拠点にしてる奴らにゃ、上から睨まれるのはキツイだろ」

「飛び出た儲け口はないけど、カヌムほど冒険者が自由にできるところはないよ!」

ディーンとクリス。


「統率された兵がいる場所では、住人もそちらを頼る。決め事に従って行動せねば、冒険者はゴロツキと同じ扱いだ。逆に兵がひどければ、冒険者が頼られることもある」

アッシュが言う。


 城塞都市は兵が品行方正なのか。あちこち行ったけど、大抵の国の役人は横暴だったんだけど。


 見たものの印象に引っ張られてるかな。冒険者のイメージも、ディーンやレッツェ、ディノッソたちの印象が強い。


「城塞都市も、ごく普通に過ごしてる分にゃ問題ねぇよ」

地図を確認しながらレッツェが言う。


 今日は二十五層の最初の拠点まで進んで、終了することになった。二十五層は魔銀が多いみたいだけど、魔水晶目当てで二十七層にいる可能性も高いって。


 ちなみに魔銀も魔水晶も、魔物が長くいた場所の銀や水晶が影響を受けて変わる。精霊銀とかと一緒。


 『精霊の枝』で浄化してもらわないと、黒精霊の残滓の影響を受ける可能性があるそうだ。


「今夜は石をひっくり返すのは止めろよ?」

拠点に着いたらカーンに釘をさされた。


「石?」

レッツェが聞く。


「夕べ、ダンゴムシ探してた」

「お前……」

答えたら、ディノッソが半眼で少し身を引いてこっちを見た。


「ジーンは無邪気だね!」

「うむ」

クリスとアッシュ。


「知ってるか? ダンゴムシの魔物ってのがいてな、夜迷宮で寝てると耳の中に入ってくんだぞ?」

ニヤリと笑って、ディーンが声音を変えて言う。


「そういえば、そんな噂もあったな。最近聞かねぇけど」

「ああ、ダンゴムシに魔力をやる代わりに止めてるから」

レッツェに答える俺。


「は?」

何人かの声がハモった。

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