第259話 リーダー
「さて、そうと決まれば行動を開始しようか。まだ勇者がここを荒らしてから間がない。黒精霊の性質にもよるが、急ぎゃ間に合う。体内に潜っちまったら潜っちまったで見えないディーンたちでも対応ができるが、生け捕りにして連れてくるのは難易度高いからな」
ディノッソが手を一つたたいて言う。
動物と違って意思のある人間を乗っ取るのは難しい。最終的には体内に完全に潜り込んで一体化してしまうが、たぶんまだ一部だけ潜り込んで――いや、ここに戻ってないってことは意識は怪しいのかな? 半分以上潜り込んだ状態かもしれない。魔物化までしてないといいけど。
黒精霊単体なら精霊武器や魔法で倒して終了、半分以上潜り込んでたら一部消滅させて弱体してるところを簀巻きか。物理では気絶させられないので、厄介。体部分には攻撃が効くけど、殺しちゃったらまずい。
あと、驚いたり嘆いたり、一つの感情に捕らわれるとその隙に一時的に入り込まれることもあるので注意が必要だ。黒精霊が向かってきたら感情は切り替えられるので平気――見えていればだが。
ということで危ないのはディーンとクリス、そしてレッツェ。ディノッソの言葉で、眼鏡にとって追加で見えないことになってるのはアッシュと執事。俺はディノッソも知らないことになってるので謎のままか。
危ないと言っても、精霊に好かれてたら入り込みづらいそうなんで、ディーンとクリスは平気かも。入り込み辛いというか、精霊と黒精霊で戦いになる。危ないのはレッツェか。
精霊剣持ってるから平気かな? 他と違ってツタちゃんは自分の意思で動けるし。どうやらみんな大丈夫そうでホッとする。
レッツェから目を横にずらしたらアッシュが怖い顔。庇われたせいで居心地が悪いのかな? 微笑ましくそう思ってたら、眼鏡がアッシュを見てビクッとして視線を逸らした。
『そういえば傍に黒精霊が見えなかったら片っ端から脱がせるのか?』
俺が精霊にローブや袖口に隠れてもらったように、服に入り込まれると一般的には見えない。
『俺とベイリスには見える。精霊は物質界を透過して見ることができる、それぞれ自分の精霊に合図をもらえばいいだろう。捕まえた後なら、俺が斬ればいいだけだ』
……あれ? もしかして俺が見えることがおかしい? そうだな精霊はともかく、普通は服の下は見えない。俺も見えるのは精霊であって裸じゃない、裸の方も服と一体で透過気味だ。もしかして精霊を見るこの能力って「人間の見える人」というより精霊に近いのか?
見えなくしたり、大きいのだけにしたり、精霊を見ることができる範囲を深く考えずに調整してたけど、これ物理界と精霊界を調整して見てる疑惑。
俺の体、そういえば精霊に作られたものですね。――けっこう精霊って自分の属性外のことには不器用というか関心がないのによく人間なんかつくれたな。付加された他の能力もだけど。
自分の存在について考えると、深みに
「じゃあ、あんたはここに残って取り憑かれたやつを上に運び出す準備を。ここまで枝道はなかったし、魔物が一、二匹わくかもしれねぇがそのくらいは平気だろ?」
ディノッソが確認するように言う。
冒険者ギルドのギルド長と副ギルド長は冒険者上がりが多い。時々魔法陣は描けるけど実践はダメです、って人もいるっぽいけど、どっちかは必ず強い。なぜなら強くないと従わないタイプが冒険者には多いから。
「ええ、二十層でしたら問題ありません。魔物を動けなくする魔法陣を描いておきます。回復も少々使えますので、怪我をされた時はお戻りください」
あ、やっぱり回復魔法使えた。
なお、眼鏡も含めてここにいる全員が、先行者全て取り憑かれてる方向で会話している。
「――戦闘中のライトの魔法はそちらの方が使えますか?」
眼鏡は俺が憑けてる光の精霊を見て言ったのだろう、頷いておく俺。声は出しませんよ!
「時間が惜しい、もう行く」
「全員の救出をと申しましたが、ご無理なさらずに。ご武運を」
頭を下げて見送る眼鏡。
都市まで移送がとても面倒だけど、眼鏡は頑張る方向らしいので俺もちょっと頑張ろう。俺の中の眼鏡の評価が落ち着かないなあ。
そして気づいてしまった。ローザ一味って、憑かれた男を始末する気満々だったんだな。本当にたまたま見てなかった可能性もあるけど、もともと最初に憑かれてた男の様子が変だったのは気づいてたはず。
状況が悪化する前にサクッと解決方向か。確かに討伐場所から都市まで運んでるうちに魔物化してしまいそうではある。
って、ディーン! リーダー!! 結局ディノッソが仕切ってるじゃないか! そう思ってディーンを見たら、うきうきしてディノッソの後についてってる。ファンはこれだから……っ!
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