第258話 依頼
「銀ランクのベアでしたか、アノマ所属でしたね? 副ギルド長として改めて命じます。急ぎ上に戻り、二十層以降の封鎖を。そして
眼鏡が話しながら文章を書くという器用なことをして、書きつけた紙をベアと呼ばれたパーティーリーダーに渡す。
依頼よりも強制力の強い命令に変更、一刻も早くってとこかな。
「捕縄は精霊を捉える『精霊の枝』のものですか、取り憑かれた人共々縛り上げて鉄籠で地上に搬出されるのですね?」
執事が確認する
結局今も黒精霊は力ずくで捕まえてます。
「はい。城塞都市まで運び、『精霊の枝』で落してもらいます。ベア、こちらを迷宮の管理の者へ、こちらをギルドに届けていただければ、あとはギルドが対応します」
眼鏡が書き終えた二通の書類を渡す。
「おう、報酬は弾んでくれ。人か荷物どっちか残してくか?」
受け取りながら了承するベア。
「報酬に上乗せしますので荷物を。精霊が見えるか、攻撃手段がないのであれば残るのは危険です」
眼鏡の返事に、パーティーに声をかけて荷物の選別にかかるベア。
数日泊まり込む予定で用意した物資の多くを残していってくれるらしい。軽い方が崖登りも楽だし、残る俺たちに余裕をってことだろうけど。冒険者、判断早いな!
「バルモア殿、依頼を受けてはもらえないでしょうか?」
「……こっちのリーダーはディーンだ」
親指でディーンを指すディノッソ。
俺たちは所属がカヌムで、城塞都市に滞在の届出もしてないので眼鏡も丁寧。一応銀ランクより上には強権発動できるけど、軽々しくするものではない。相手が王狼だから下手に出てるのかもしれないけど。
「依頼の内容は先行した冒険者の救出。ディーン殿、ここにいらしたのは金ランク昇格のためと伺っております。このパーティーのいずれかが、指定の人物を救出した時点において、ディーン・クリス両名の金への昇格を、城塞都市アノマの副ギルド長イスカルが支持いたします」
指定の人物。
誰か重要人物がいるから眼鏡が来たってオチか、なんか萎えた。指定の人物以外を助けて回ろうかな。などと考えてたら眼鏡に目を向けたまま、レッツェが背中を軽く叩いてくる。
ちょっと思考回路読むのやめていただけませんでしょうか?
「――顔が分かり易すうございます」
俺にだけ聞こえるように囁いてくる執事。
俺は無表情と定評のある人生送って来たんだが? 二人は人生経験豊富とか観察が得意とかで分かるんだろうな。
「私もこの条件下で人命に優先順位をつけるのは好かぬ」
アッシュが小声で言う。
って、私
「誰でもいいと来たか。そりゃ気持ち悪いから遠慮しとく」
「私も同じく」
ディーンとクリス、口元が笑ってるけど笑ってない。
「救助はするが、指定の人物を優先するつもりはねぇな。俺たちにとっては全員等しく知らねぇ奴らだし」
うむ、ディーンの言う通り。裏を返せば親しい人が混じってるなら、そっちを優先させる。
その状況になってなお、平等に助ける人もいるんだろうけど。俺は断然ディーンより。
「申し訳ありません、焦っていたようだ。前言を撤回いたします、改めて全員の救出を依頼いたします。ただ、それなりの装備か、魔法の使用が可能な方でないと先に進むのは難しいかと」
頭を下げる眼鏡。お、銀ランクに対してけっこう潔い。
眼鏡の評価が俺の中で乱高下している。
「装備はこれがある」
「――滞在中の勇者殿には漏らさないように頼むよ!」
そっとベアのパーティーに見えないよう、精霊剣を眼鏡にチラ見せする二人。
「おお……」
感嘆の声を漏らす眼鏡。
レッツェとアッシュ、執事は精霊武器のことはなるべく隠す方向だけれど、冒険者として上を目指す二人は別だ。ただ、アメデオが十分離れるまで、お披露目は待つ方針だった。
アメデオは新しもの好きな姉が精霊剣を欲しがった場合のスケープゴード。実際、ちょっと前までアメデオたちがいた城塞都市に偽物くんが来てるので、杞憂と笑えない。
というか、姉は性格的に剣より弓のほうに興味持ってそうだけど。俺の流した剣とパーティーメンバーの持ってる弓の精霊武器、両方を巻き上げる方向で動くんじゃないかな。
アメデオたちが大々的に宣伝というか自慢というかをしてくれたので、こっちはこそこそしやすい。
「見る方は俺とカーンが。黒精霊が現れたら警告を、憑かれてる奴らを見つけたら、どのあたりに憑いているか教えれば対応は可能だろう。補佐してもらうにも組んでるこいつらの方が動きやすい、こっちのパーティーは全員ここに残る方向だな」
なんだかんだ言ってディノッソがまとめる。
俺は?
「そっちのあんたは剣士か魔法使いか? 魔法を使えるなら残ってもらえれば嬉しいが」
「ああ、使える。救出に参加しよう」
カーンから振られて乗りました。
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