第257話 ライト

『さて、ここで問題です』

『なんだ?』

『魔法使いのフリするのと、剣士のフリするのとどっちがいいと思う?』

『フリ……?』


 カーンに聞いたら困惑された。


『魔法が使えるのなら、魔法使いのほうがいいのではないか? ――体型的に。今まで精霊が周囲にいない状態だったろう』

『……体型』

なんで俺、姿を決めるときヴァンの体型リクエストしなかったんだろう……っ。


 平均的に見えるレッツェ、そのレッツェでさえ俺より背丈と筋肉があるという現実。背丈と筋肉というか、俺の見た目年齢が二年分くらい幼い疑惑。髪や爪が伸びるんで、たぶん成長はしてるんだと思うんだけど、育っている気がしない。


 毎日牛乳は飲んでるんですよ……っ!


 ああだが、カーンの言う通り、精霊を散らすことに神経使って、精霊つけとくの忘れてた。腕力が見た目以上にあることの説明に、精霊憑きですよ〜の説明が使えない。いや、今まで認識されてなかったからワンチャンある。


 そっと眼鏡の視線が他に向いたときに、体の影に風の精霊と光の精霊を一匹ずつ呼び寄せる。二匹ってことで、ディーンやクリスに憑いてる精霊や、アズより小さくした。


 眼鏡に憑いてる白蛇くんの属性とお揃い。剣は城塞都市で買った魔鉄混じりの鋼だし、とりあえず剣士でいって、必要ならば眼鏡の魔法を真似る所存。


 俺の魔法は日本でやってたゲームのイメージを反映しまくってるからな。練習の時は精霊に左右されまくりだったし、最近は夜の読書や作業のための明かりの魔法しかまともに使ったことないし。たぶん使ったら怒られるやつ。


 いざとなったら通りすがりのルフのフリをすることになってるんだけど、なるべく穏便に。あとディノッソたちに、普通に振る舞う練習だと思えって。言われた時は、いつでも俺は普通だと思ってたんだが、けっこうやらかしていることに気づいた現在。


 で、探索の方は予想通り、ちょっとひらけた場所の床に溶けたような大穴を見つけた。狭い通路で魔法を放ったのか、両方の壁が削られている場所、ヒビの入った天井、礫に変わった床――俺でもわかる痕跡があちこちにですね……。


 眼鏡がライトの魔法を使って詳細に調べている。って、使えるなら最初から使って欲しい。


「イスカル殿、使えるのは何時間ほどですかな?」

「他の魔法を使わずに済むのであれば、一日二時間ほどでしょうか。ここは光の精霊がいる場所ではありませんし、精霊が回復するための光源も多くはございませんので」

執事の質問に答えるイスカル。正直に答えているか、余裕を持たせて答えているのかはわからないけど、短い!! 精霊にがんがん魔力渡せばいけるんじゃないのか……。


 そして、二十層にいるべき魔物がおらず、拠点にあっちゃ困る装備が残されてた。


 壁際に他よりも一メートルほど高くなった場所があるのだが、そこが二十層の拠点で夜をあかすポイント。そこに身につけているだろう装備以外の荷物が丸っと残されている。重い物を残して狩りに行くこともあるけれど、これはちょっとまずい。


「焚き火の跡が冷えていますね……」

眼鏡が灰に手を触れて言う。


 放り出された肌身離さず持っているはずの水筒。カップ、広げられたままの荷物。通常、何かあったらすぐ移動できるように、迷宮内では荷物は使ったらすぐにまとめておく。それがそのままにされてるどころか、カップが転がり、食いかけの干し肉が落ち、ちょっと荒れたかんじ。


 そして長時間戻って来た気配がない。


「イスカル、質問だ。ギルドが冒険者の情報を流すのは不本意だろうが、非常時だ。二十層以降に今潜っている中に精霊が見える者はいるのか?」

いつもより硬い声のディノッソ。


「知っている限りおりません。城塞都市の冒険者にも二人いたのですが、一人はアメデオのパーティーに引き抜かれて北へ移動、一人は引き抜きが面倒で雲隠れ中です。どちらかに内密に依頼ができていればよかったのですが……」

問いに答える眼鏡。


「そうか……」

短く答えて黙るディノッソ。


 見えなかったのなら、取り憑かれ放題かな。自我があるモノには取り憑き難いはずだけど、何らかの方法で弱らせたとか? 勇者もローザ一味も迷惑すぎる。


「九人……二パーティー、いや、三パーティーか。一つは男女のペアだな。四人パーティーの方に魔法使いか呪術師がいる」

荷物をざっと確認したレッツェが言う。短時間によくわかるな。


 なお、眼鏡の話では二十層以降に先行しているパーティーは十組三十一人。そのうち二十五層以降の申請が出てるのが一組だそうだ。


「ここまで狩りに来るペアなら、ジャスミンの夫婦でしょう。慎重で二人で補い合う良い冒険者です」

荷物を見つめながら眼鏡が言う。


「魔法使いなら、ビックスってのが他所から来たパーティーの依頼を受けて、案内がてらの狩りに来てるはずだ。――なんかまずいことがあったんだな?」

名も知らぬパーティーのリーダーさんが、ディノッソと眼鏡を交互に見ながら聞いてくる。


「おそらく、勇者が必要がないほど高度な魔法を使い、黒い精霊が大量に生まれました。数が多いか、普通ではあり得ない大きな精霊が黒く染まっている可能性があります。そして、取り憑くべき動物もなく、喰らい合うか同化を試みる魔物も倒されてしまった状態。――本来なら意思ある者には憑き辛いのですが……」

言葉を濁す眼鏡。


 唾を飲み込み、ドン引きしている冒険者たち。弱らせる方向じゃなくって、物量で取り憑いてくることもあるんですか?


 思わず山の家で初めて見た、窓ガラスいっぱいにぎゅうぎゅうにくっつく大量の精霊を思い出した。潰される……っ!


 迷宮の魔物や動物はどこからくるのか? 普通に棲みかとして移動してくる魔物もいるけど、図書館で学習した限り、なんか細かい精霊の流れが地中やなんかにあって、それに飲み込まれたり落ちたモノが迷宮に吐き出されるのだそうだ。


 で、どんぶらこっこされてた間に細かい精霊を取り込みまくって、体内に魔石ができてるとかなんとか。


 でもこれ、剣士だ魔法使いだ言ってられなくなったな。早めにひっぺがさないとヤバイ。せっかくパーティーに入ったのに、通りすがりのルフのフリしてソロのフラグが……っ!!!! いや、通りすがりのルフの顔してパーティーに入ればいいのか。よし、よし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る