第248話 暇だとろくなことがない

 屋台での買い食いを取りやめて、缶詰消費な朝食に変更。ディノッソは家で食べて来たはずなのに食ってた。


 綺麗に洗って精霊鉄を【収納】する。


「しまえるのにちゃんと荷物運ぶとこは律儀だよな」

「隠すところが時々間違ってる気がするが、まあ努力は買おうか」

なんかディーンとディノッソが言ってる。


 そうか【収納】を隠すことにつながるのか。一緒に行くなら同じ条件で、と思っただけだけど。リシュの散歩は必須なので、預けるわけにもいかないし家に帰るのは大目に見てほしい。


「ジーンは付き合いがいい」

アッシュが言う。なんか感心してるっぽいが、俺がみんなに混ざりたいだけだ。


「ルタ、よろしく。今日はちょっと重いぞ」

左右のどちらかに重さが偏らないように振り分け、荷物が揺れてルタに当たって痛くないように積む。


 身体能力のお陰で、俺にとってはかさばるだけで重くないんだけど、ルタにとってはそうじゃない。缶詰食べちゃってよかった。


「カーンより軽くね?」

ディーンから突っ込みが入る。


 カーンは輓馬ばんばみたいな馬に跨っていて迫力がこう、ね? 優美な馬もいいけど、どっしりがっしりな馬も格好いい。


 などと思っていたらルタが首を擦り付けてくる。ルタが馬の中では一番だから安心してくれ。


 アッシュとの遠乗り以外では久しぶりのお出かけ。遠乗りと違って道中に魔物が出るかもしれない。無事な道中よろしくお願いします。


 カヌムの貸し馬屋には城塞都市に付き合いのある店があって、お互い預けたり預けられたり、人を乗せて返したりしている。親戚なんだって。


 ルタとカーンの乗ってる馬は預かってもらうことになっている。ついでにレッツェが貸し馬屋に金を渡して、城塞都市と連絡を取り、すでに宿を人数分押さえている。


 魔の森で稼ぐもよし、坑道に行くのもよし、迷宮に行くもよし、そんな城塞都市の宿は、選り好みしないならともかく、まあまあ清潔で手頃なのはすぐ埋まるんだって。


 準備完了して、城塞都市を目指して出発。この道は慣れてるやつが約二名いるのでお任せ。商人が使う街道ではなく、ある程度腕に自信のある冒険者が通る森に近い道を行く。


 魔物が出やすい場所は早駆けで、休憩ポイントも押さえているので道中問題なく。

 

 進む順番はそういうわけでディーンとクリスが先頭、次に俺とアッシュ、執事、最後がディノッソとレッツェ、カーン。ルタが先陣きろうとするんだけど、アッシュと並んだら落ち着いた。


 ルタさんや、なんで「しょうがねぇなあ」みたいな鼻息つくの? 


「はははは! ルタは利口だね!」

「飼い主が頼りないとこうなるのか」

クリスとディーン。


「む、気を使わせてしまったか」

ルタにまじめにお礼を言い始めるアッシュ。


「もう少しなんとか……」

もう少しなんだ? 執事?


「俺の時代は子はとにかく増やすだったからな。これで手を出さんのは理解できん」

カーンの守備範囲と貞操観念が現代とずれていた件。守備範囲については本人に聞いたわけでなく、俺の観察による結論だけど。


「今の時代でも、農村では割とおおらかだぞ。働き手を得るために増やす方向だな。都市は反対に貞操が尊ばれる。商家や貴族は家同士の政略婚だから、誰の子かってのが大問題だ」

カーンにレッツェが両極端な現状を説明する。


 結婚する年齢も農村は早いし、都市部は貴族じゃなくても、徒弟制である程度出世しないと結婚できないから遅い。徒弟制はだいたい住み込みで師匠の雑用もこなしながら学ぶから、独立するか通いを許されるかしないと無理なのだ。


 ある程度出世しないと養う金もないからね! 農村は耕した分、食い物が確保できるから強い。


 労働力って考えるか跡取りって考えるか――どっちにしても出産は命がけなんで女性は大変だ。なんでか知らないが、出産から六十六日の間、精霊の力を寄せ付けないので、精霊の水を使ってできた回復薬が効かないのだ。


 赤ん坊に精霊に乗っ取られない最低限の自我が目覚めるまで、母子共に精霊からの影響を体に受けなくなるとか仮説があったけど真偽は知らん。まあ、少なくとも六十六日は危険だから本人も周りも大事にしなさいってことだ。


 回復薬が効いたとしても、大多数の人が買えない値段だ。農村では下手すると金貨なんか一生見ないで終わる。出産はある意味平等だ、金持ちも貧しい者も命の危険がある。まあ、環境を整えられる金持ちは断然安全なんだろうけど。


 ついでに産婆さんは、風や火よりさらに昔に栄えた太母神たいぼしんに仕える巫女によって独占されて来た産術の継承者なんだそうだ。太母神は地母神とも言われ、女性の姿をした大地の精霊だったらしい。


 古い古い遺跡には、豊かな肢体の女神が描かれていることが多く、かなり広範囲まで力を振るった女神だったようだ。


「こいつらどうせ同じ部屋に一晩入れといても何もないぞ。うちの奥さん曰く、アッシュは過激なことを言う割に自分のことだっていう自覚がねぇって。ジーンに至ってはこないだ手を繋いだって嬉しそうにしてたレベルで、うちのエンより進んでねぇ」

おい、ディノッソ!!!!


「あんまり周りが言うと逃げるぞ。じれったいのはわかるけどよ」

そうです、レッツェの言う通り! 居た堪れなくなるから!


 道中何もないと周りが暇になっていけない! 

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