第247話 荷物
色々済ますことを済ませて、いよいよ明日は出発日。
そういうわけで、夕食はしばらく食べられないもの。
賀茂茄子とローストした肉を交互に盛って、醤油とみりんと蜂蜜の汁をかけて山葵を少し。茄子は丸のまま窯で焼いたものを切った、丸のまま焼いた方が茄子は絶対美味しい。茄子は旬だから、子茄子の辛子和えも。
トウモロコシを揚げたものと、枝豆を揚げたもの。タコの柔らか煮――八寸もどきに色々なものをちょっとずつ。
あとはお寿司。クロマグロは旬じゃないからミナミマグロ、石鯛と胡椒鯛の食べ比べ。縞鰺と鯵、タコの吸盤、アオリイカ、軍艦は海苔がいい香り。やっぱり真鯛とクロマグロも。
ほどける酢飯がネタに絡んで美味しくできてる。みんな旬に手に入れているし、『食料庫』のものはそもそも一番美味しい時期のもの。鮎なんかは若鮎と落ち鮎と季節を無視して混じって泳いでるけど。
一つ二つ握るのもなんなので、柵分を一度に握って残りは【収納】へ入れてある。いつでも好きなネタで食える!
デザートはほうじ茶アイス。アイスはリシュに協力を願い、キンキンに冷やした金属の器で混ぜて作った。肉球つけるだけで冷やせるリシュは優秀。可愛かったし。
風呂上がりに鞄に必要なものを詰める。
重くて形が変わらないものをまず詰めるんだっけか。今回は色々バレている状態なので、食料もバリエーション豊富。干し魚、干しアワビ、干し貝柱の魚介をはじめ、色々ね!
米も餅も持ったし、いざという時の
燃料が手に入らず、煮炊きが難しい場合があるそうなので、そのまま食える缶詰たくさん。なお、缶が精霊鉄製なので叱られる可能性があるので本当の非常食。軽いからアルミが作れればいいんだけど、あれは電解しないといけないんだっけ?
前回の反省を生かして、作業用エプロンに手袋、着替え。あれ、大荷物になったぞ? でもレッツェも迷宮に行くには荷物が多くなりがちなんで、運搬人を雇うこともあるって言ってたし普通かな? たぶん。
相変わらず早朝は家に帰ってリシュと散歩に行く予定だけど、リシュとたくさん遊ぶ。いつもより早く寝て、サイフォンでコーヒーを淹れる。こぽこぽという音を聴き、コーヒーの香りを嗅ぎながら、水袋に水を入れたり最後の準備と確認をする。
コーヒーで目を覚まして、暗いうちにカヌムへ。朝ごはんはみんなで屋台の予定だ。俺は【収納】してしまえばどうとでもなるけど、他は長期間家を空けるためにダメになるような食料を昨日までに消費しているはず。
待ち合わせはディーンたちの住む借家の共有スペースの居間。
「おはよう」
「おう。って、お前荷物すげぇな」
「前回の倍はあるんではないかな?」
そう言うディーンとクリスも結構大荷物を脇に置いている。
「お前、それ担いでたら狭いところ通れないぞ、ちょっと減らせ」
レッツェの荷物はいつもよりちょっとだけ増えてるけどコンパクト。何故だ。
ディノッソやアッシュたちを待つ間、ディーンたちが住む借家の一階の共有スペースで荷物をチェックされる俺。
カーンも参加だが、荷物は少ない。カーン、食わなくても平気なんで荷物の大半が酒。そして居間の端っこで黙って酒を飲んでいる、デカイから存在感あるけど。
「力任せに全部運ぼうとするのはやめろ」
ズボンを抜かれ、缶詰を没収される。あー、あー、あー! 年間通して同じ服着てる文化だった人にはわからんかもだが、着替え、着替えはいるんです!
パンツとシャツ何枚かは死守した。靴下も。
「お前、また何か変なもの作ったな?」
缶詰をまじまじと眺めるレッツェ。
レッツェ、難しい顔しててもそういうの好きだろ。知ってる。
「ジーン、お前これ精霊鉄だろう!?」
あ、ディーンにバレた。正しくは鋼だけど。
「なんと! 勿体ない!」
クリスが身を乗り出す。
「何か入っているな。中身は――お前のことだから食い物か」
レッツェはまだ観察中。
「それは赤貝の土手煮風、山椒入り。ディーンが今持ってるのは牛肉のバルサミコソース、クリスのは焼き鳥のタレ。あと精霊鉄は繰り返し使える」
中身がわかるように印をつけてある。
「なんだってわざわざ重たくしてるんだ?」
不思議そうに聞いてくるディーン。
「保存食、保存食。一年以上保つぞ」
殺菌とか説明面倒だからしないぞ。
「便利だな。俺なら戦争の兵糧に使う」
目があったカーンがニヤリと笑う。
カーンの言う通り、缶詰があれば兵が食料の調達を気にせず、長距離を移動できるようになってしまう。現地調達の必要がないから進む場所を選ばない。
「……作るの止める」
「それがいい」
便利だけど、この世界にはまだ便利すぎる。
「おう、おは――何やってるんだ?」
「朝飯」
ディノッソとアッシュたちが連れ立って来た。
缶詰は全部開けて、朝飯になってます。
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