第246話 設置
地の民たちは網戸がわりの蜘蛛の巣、巨木の床、精霊灯、窓の格子に大興奮。
【転移】で連れてきたんだけど、細工物が目に入った途端、そっちに全振りみたいな何か。精霊灯そのものには興味津々で絶賛されたが、デザインはダメ出しされた。
【生産の才能】だからな……、やっぱり経験を積んで、ついでにセンスもないとダメなところがどうしても出てくる。
あちこち測って、あーでもないこーでもないと騒がしい。島の寒がり地の民を呼びたい気もするが、この塔から出ないことを条件に連れてきているし、やめておこう。
本人たちがどこだかわからないままなら、何か聞かれても平気だろう。窓から海が見えるし、暑いから南だってのはわかるだろうけど。なんか起こったことをありのまま受け止めて、こまけぇことはいんだよ! みたいな種族だ。
あんまり派手にならないようにと頼んで、北の大地に送り返して終了。騒がしいし、動き回るし、なんかこう祭りに放り込まれてもみくちゃにされた気分。疲れたけど、どこか晴れ晴れとした気分だ。
さて、他にやっとくことはあるかな? あ、枝か。
「エクス棒」
「なんだい、ご主人?」
背中からエクス棒を抜いて呼びかけると、二十センチくらいの棒がにゅっと伸びてエクス棒が顔を出す。
「ちょっと枝くれんか?」
「おうよ!」
返事とともに、エクス棒の下半身(?)を包む細い枝の一本がにゅーんと伸びてパキリと折れる。
俺の手の中に落ちる間も姿を変えて、現れたのは四センチ直径で十センチくらい、真ん中よりちょっと上の左右から二本でている枝、色の濃い節が二つ――なんというかとても埴輪っぽい。踊る人々と言われるあののっぺり、いや、シンプルな埴輪に似ている。
どうしようこれ。飾ったら叱られる気がする。
「ご主人、オレの枝どう? やっぱ飾られちゃったりするの?」
「ああ。なんと言うか個性的だな」
あかん、エクス棒が期待でキラキラしてる。
「カーンからも貰う予定だから、一緒にな」
「おう!」
ちょっと逃げた俺を許せ。
――カーンから貰ったのは、繊細に枝分かれした白銀と黒鉄色の淡く輝く枝。おのれ、デカイくせに繊細な枝を寄越しやがって! もっとぶっとい何かだったら、埴輪が隠れるのに! どうするんだこれ、どう飾っても絶対埴輪が浮く!
せめて馬の埴輪だったら……っ! いやもうそれ枝じゃない、しっかり俺!
『精霊の枝』にそっと忍び込む。よし、人の気配はない。台座はもうできてるのかな? 『精霊の枝』は扉を開けると、回廊に囲まれた庭に出る。素掘り、もしくは石積み護岸の細い水路がいくつも走る。
小川っぽくするのかな? 勢いが強く、飛沫をあげる場所、緩やかに流れて波を立てない場所。チャールズが植えたんだろうと思われる、まだ頼りない苗があちこちに。育てばきっと美しい庭園になる。
で、その庭の奥に建物があって、部屋がいくつか。大きな『精霊の枝』には常駐する神官がいて、憑いたいたずら者の精霊を落としたりする。一応、誰か住んで、管理できるようにはしたようだ。
中央の庭からの壁がない部屋には美しい水盆が置かれ、花が浮かべられている。精霊が増えれば水が売れるようになるわけだが、この島はその辺の水路の水でも一緒のような気が。一番効果がありそうなのは、流れ出してる塔の部屋に溜まってる水だ。
流れてゆくうちに水に混ざった精霊の細かいのは簡単に消え、残っても寄り集まって飛沫の精霊とかになって水に効果がなくなる。だからなるべく、精霊がたくさん水に浸かっている場所から汲むに越したことはない。
この水盆の部屋の突き当たりに大きな扉があって、これには鍵がかかっている。鍵は持っているし、一人では開けないような扉だが、俺は一人でも問題ない。
そっと開いて中に滑り込む。祭りの時とか大きく開いて台座に飾られた枝が見られるデザイン。
レリーフの見事な部屋は、天井から薄布が垂らされ、正面の壁の真ん中には深い青地に紋章の描かれたどっしりとした重たそうな布。そしてその前に問題の台座。
なんでこんなに頑張っちゃったのかな? 飾るつもりだったのは偽物の枝だろうに。やっぱりどう飾っても埴輪が主役になるぞこれ。もう諦めてシンプルに行こう。
埴輪を中央に、左右にカーンから貰った枝を、白と黒を後ろで少し絡めるように飾る。
あれだ、白と黒を従えて最強に――
「うをっ!」
ちょっとこの埴輪、目が光った!? いや、目じゃなくって節だけど!
夜な夜な踊り出したらどうしよう。まあいい、飾った後の管理はソレイユに任せよう。なんだったら配置を変えてもらってもいい。
自分で設置しておきながら、見ない振りをしようとする俺。いつ設置に気づくだろう? 気づく前に精霊呼び寄せの効果を発揮してくれれば、きっと諦めてくれる。
ソレイユは見た目じゃなくって実をとる女性だと信じてる!
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