第245話 家具の依頼

 北の大地に来ている。とても涼しい気候に暑苦しいドワーフ――いや、地の民。


「よく来たな! 歓迎しようぞ、兄弟!」

おい、勝手に兄弟にされたぞ? 暑っ苦しく背中を叩かれる。たぶん、背丈が同じくらいだったら肩を抱かれていたんだろうけど、地の民は頭二つ分背が低い。重心が安定してるがっしり体型。


 黒鉄の竪穴のガムリさんちにお邪魔してます。迷宮にゆく前に、家具の依頼をしに来たのだ。


 黒鉄の竪穴の地の民はみんな黒髪黒髭、女性も容赦なく黒髭。最初見分けがつかなかったよ……っ!


「島のソレイユは髭は生やさないのか?」

「町の人間は髭の良さがわからんのだ」

がはがは笑いながら会話をするガムリと仲間の髭。俺が答える前に笑いながらあちこちから大声が掛かる。


 生えないんだよ! 伸ばす気はないけど、じょりじょりしてみたいんだよ! カダルが混じってたら髭が生えたんだろうか。変なところで作られた体なんだなーと。


 頑張って会話に混ざらないと、予想外のことをやらされる。腕相撲は勝ちました。


 黒鉄の竪穴はその名の通り、良質な鉄が取れる。坑道と天然の洞窟を通路でつなぎ、そのまま住居にしている。石壁は錆びた鉄が含まれるのか、オレンジ色。暖炉や蝋燭の炎に照らされ、暖かな穴蔵の雰囲気を作っている。


 通路は狭く、天井も低い。だが、小さな穴蔵のような部屋が続いたかと思うと、いきなり天井が目視できないほど高く、広い部屋に出たりする。


 洞窟を気ままにつないで掘って利用しているので部屋の決まった形がないようだ。家具は木製だったり、石でできていたり。


 ダンっと木のジョッキを叩きつけるように机に置く。がさつな行動のせいか、どっしりした家具なくせに、手先の器用さを発揮して厚さや幅に少しのズレもない。手慰みに彫ったのか、繊細な模様が付いていることも。


 模様や紋章は、本当に適当に気まぐれに彫っているっぽくって、壁や床にもある。


「じゃあ、この図面の部屋に合うように、ベッドフレームと椅子、ダイニングテーブル、サイドボード、ティーテーブル――まあ一式頼む。あ、この部屋は、ここからここまで壁をぐるっと椅子で」


 塔の各階の図面を渡し、要望を伝える。ほぼ丸投げなんだけどね。


「おお? 図面じゃ、ここは窓らしいがこんなにデカイ開口部をつけられたのか?」

ジョッキを傾けながら、図面をチェックするガムリ。よくこの適当図面でわかるな。


「ああ。そこは精霊鉄製の支えがあってな」

「む、精霊鉄か。町の人間には珍しいのではなかったか?」

左手にジョッキ、右手に羽をむしった羽ペンを持って、器用に飲みながら図面に書き入れてゆく。


 北の大地の中でも、地の民が住む場所には、地の精霊や鉄の精霊、石の精霊など多くの精霊が住まう。当然多くはないが精霊鉄がとれる。


「そうらしいけどな。あ、この階の床はここの巨木の輪切りを磨いて敷いてある」

「何と、あの緑の女神の巨木を……っ!」

周囲がざわつく。


 俺と打ち合わせをしているのはガムリだが、依頼の家具を作るのは他の集落の人たちも含め、腕のいい職人を集めてくれている。黒鉄の竪穴の連中は木工より金属加工が得意なんだってさ。


 ただ、道具を作るために色んな集落の職人が来ては滞在してゆく場所にもなっているみたい。質のいい鉄を自分で採掘し、工房に籠って自分で作る。あるいは黒鉄の竪穴の職人に依頼する。自然と集落同士での話し合いもだいたいここで行われる。


「扉も作っちゃダメか?」

「いいけど?」


「おう! 鉄飾り作るぞ!」

「鍵の細工は任せろ!」

「蝶番!」


 いいと答えたら、周囲から声が上がって騒がしくなる。木工以外の職人も参加したかったようです。


 緑の女神の巨木を一つ材料として進呈することにしたら、木を扱う職人はやる気満々。盛り上がっている木を扱う職人の面々に、金属を扱う職人が羨ましそうに、祝辞を送っている。


 地の民の職人にとって、一級の素材を扱うことは喜び。それが緑の女神の巨木とくれば金を払ってでも……っ! となるらしい。


 ちょっぴり寂しそうな金属を扱う職人に精霊銀と精霊金を提供する俺。


 建具職人がどうしても現場を見たいというので、代表者を何人かご案内。別人のように無口になって、テキパキとあちこち測り出す。


 いきなりの訪問に驚いたのか、塔に住むトカゲの精霊がそっと覗きに来た。俺は放って置かれてたので、トカゲに話し相手になってもらって作業を眺める。


 家具は精霊鉄の窓枠に合うデザインにしてくれるようだ。台所の流しの上に皿を納める棚や、鍋を吊るす所なんかも作ってくれるみたい。作り付けの家具がどうやら増える。


 金は作っている間の食い物や、燃料の代金くらいでいいと言われたが、ちゃんと支払う。地の民の仕事の値段はあってないみたいなもの、気に入らない仕事は受けないし、気に入った仕事なら是が非でもになるらしい。


 ただ、自分たちで何でも作ってしまうので、金を使う機会が素材を買うか、食料――特に酒――を買うくらいしかないらしい。なのでウイスキーを樽で置いてきた。


 地の民はビールが好きなようなんだが、飲んでいるのは日本のビールとは違ってアルコール度数が40近いヤツ。生憎、日本の酒の度数は法律で決められててですね……。ビールも作るかな。


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