第244話 島の進行具合

 畑の他に水車の稼働状況、糸を染め始めたこと、住人の二次募集――水路に水を流したあとの募集は終了し、審査中ということ。兵を雇ったこと。騎士については、チェンジリングと同じく直接雇用してほしいこと。


「兵の配置を終えたら、二次募集の移住を開始するわ。もし騎士が来たらそちらは直接雇用でお願い」

「え、面倒なんだが」

「騎士は主を選ぶのよ。平和が続くこの周辺では建前だけれど、騎士には建前が大切なの」

兵士はともかく、騎士は仕えるべき主がどうとかこうとかなので、こっちが有名でない限り早々来ることはないらしい。


 中原とか年がら年中争っているところは武功が立てやすいから別だけど、こっちは仕官してもお飾りやただのもめごと処理くらいしかやることがないので、野望――じゃない、正義に燃える騎士からすると微妙なのだそうだ。


 戦争がなければ領地も増えないから、土地が下賜されることは絶対ないし、騎士としての名声のほうも上げる機会がない。大金を積まれて、招かれたって自慢するくらい?


「どこにも仕官できなくって、食い詰めた騎士崩れの冒険者が来る可能性が高いわね。体裁を整えるのに、押し出しがいいのを二人か三人雇ってもいいと思うわ」

「防衛は兵を鍛えるのが基本でよろしいかと」

ソレイユの話をアウロが補足する。


「いいけど、人柄第一で考慮してくれ」

話を聞いてクリスの弟のリードを思い出した、元気にしてるかな? あの進むのが面倒な湿地帯に向かっているんだろうか。


「もう一つ、『精霊の枝』が完成したわ。精霊の枝を設置しようと思うのだけど、台座の聖句は何がいいかしら?」

「なんか快適? 四センチボディ?」

「受け答えの意味がわからん」

ソレイユに答えたら、キールに切り捨てられた。


「……作ってもらう・・・・・・のは金枝がいいかしら銀枝がいいかしら?」

「作ってもらう?」

なんだ? 今度は俺の方が意味がわからない。


「本物の精霊の枝を入手するのは難しいですから。細工師に金か銀で作ってもらい、設置します。験担ぎのようなものですね」

「なるほど、偽物を飾って験担ぎするのか」

一瞬、エクス棒かカーンのことを知っているのかと思った。


「希望があれば神殿で神官に聖別の儀式をお願いするわよ?」

ソレイユが聞いてくる。


「いや、いい。偽物で験担ぎっていうなら、魔物が寄って来てもいいんだな?」

神々を信じるのと宗教を信じること、指導者を信じることは三つとも別のことだと思っている。人の意思が絶対混入するからね。


 それにこっちの世界でだったら、精霊に直で頼んだ方が絶対いい。


「魔物が寄って来ていいって訳じゃないが……。というか、魔物避けどころか何の効果もないだろ」

キールが呆れた感じで言ってくる。


「おう、じゃあ枝は俺が用意する」

魔物避けがいらないなら、エクス棒の枝でも問題ないな。台座に刻む聖句は「なんか快適」で正しいような気がするけど、ちょっと整えて「快適な生活」とかだろうか。――婦人雑誌かなんかのあおり文句みたいだな。


 打ち合わせ後は、またぶつぶつ言い始めたキールを持ち帰ってもらって解散。そんなに俺が菓子を作ってたのが納得いかん感じなんだろうか? もしかして可愛い女の子が作ってるとでも思ってたのか?


 あとチャールズがアウロ化したんだが、あれはどうしたらいいんだろう……。


 畑の野菜は許可なく持ち出した場合はうんと苦くするように、そっと精霊に頼んだ。たぶん塀で囲むより効果があるだろう、盗ってもおいしくないからね。


ついでに、俺の所有する物を許可なく島外に持ち出したら、容赦ないいたずら三昧もお願いした。なんか張り切ってたから持ち出した人は愉快なことになりそうだ。


 許可を出す人間は俺とソレイユとアウロ、野菜に関してはチャールズあたりもだろうか。俺はともかく、精霊に俺以外の見分けがつくように何か考えよう。


 指輪型の印鑑というか印章でいいかな、精霊に分かればいいから小さいやつで。チェーン通して首にかけてもいいし。


 精霊に見分けがつけばいいんだけど、一応大きさと意匠をちょっと変えるか。扉の鍵と連動させようかな?


 印章は結構広まっているというか、識字率が高くないのでこちらでは必須な感じ。サインの代わりに自分のマークを押す感じなのだ。自分の似顔絵を印章にしとる人もいるくらい。そりゃ、紋章官がいるわけだよな。


 それに、街におしゃれな看板が多いんだが、あれは字が読めなくても見れば何屋だかわかるようになってるんだなって。


 許可系統は後でまたソレイユに相談だな。あ、頼まれてた蜘蛛の巣を忘れてた、いくつか作ってもらおう。


 療養所の職員も決まった、風呂屋とパン屋も決まった。他もだいたい決まって、あとは学問所の先生か。子供が少ないから専属は一人でいいんだけど。読み書きと、買い物で騙されない程度の計算、ついでに掃除の習慣がつけば。


 衛生面の教育をしたいんだけど、まず教える先生がいるのかどうか。あとは時々、兵士に交代で剣の稽古をお願いするとかかな。


 島の防衛は天然の岩礁と精霊頼みの他も考えないとダメかな? カーンに兵士をがんがんに鍛えて貰えばいいだろうか……。


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