第241話 島の整備
さて、パルに確認したところで島に土を入れることにする。迷宮に行く前にある程度植物を植えておきたいところ。
迷宮に出発するのは、薬師ギルドからの毎年恒例になってるというレッツェの採取依頼が終わってから。ディノッソも明日くらいまでなんか依頼中だったかな?
人目につかない夕闇の中、ふんふんしながら畑と森の予定地と言う名の荒地に行って、粉砕した元黒い岩を撒く。水をかけて粉にした殻少々を時々混入。
土留めの石垣が新たに必要になりそうなところもあるな。ここではあんまり雨降らないけど、精霊が荒れ狂う嵐が偶にあるみたいなので念のため作ってもらおう。
黒い岩を出しては魔法で粉砕し、チェックしつつあちこち歩き回る。島には、海風、熱風、涼風、日差し、水路の飛沫、小さな精霊たちがちらちら姿を見せている。
やはり水を通すと結構集まってくるようだ。花と木々が島に溢れれば、もっと増えるだろう。俺の契約した精霊は、俺がいれば結構寄ってくるんだけど、普段は気ままに散れている。居心地がよければ、その精霊達も島にとどまるんじゃないかな。
さて、終了。あとはうちの庭師さんがなんとかしてくれるはず……!
いかん、ホコリだらけだ。風呂に入ろう――せっかくだから、塔の風呂に入ってくか。
塔のホールに【転移】して、階段を上がる。ホールは【転移】のために部屋も作らず、階段のみだ。
あえて明かりはつけず、暗い中服を脱いで風呂に浸かる。視界の先は海と星。聞こえる音は自分の立てる音のほか、風と波の音、水路を流れる水の音。崖に張り付いた植物の茂みに虫がいるのか、波の合間に時々小さな虫の声。
日本にいるときは、オリオン座、北斗七星とカシオペアくらいしか知らなかったけど、こっちの星座はちょっと勉強している。ロマンチックな理由ではなく、なんとか座の手がなんとか山にかかる季節、とかそういう表現があるので必要に迫られた。
こちらにも北極星的ものが存在する。ぴったり地軸の延長上とはいかず、一日で小さく円を描く、白くひときわ明るい星だ。小さな青い添え星を持つ。
覚えてしまえば晴れた夜に見失った方向を探すのは簡単だ。まあ、山や木々で隠れてというパターンもあるけど。
だいぶ開放的な気分に浸ったところで、家に帰って夕食。精霊への名付けを少々と、リシュとたくさん遊ぶ。
遊びが終わった後は、暑くなって床に腹をつけてぺたんとしたリシュにブラッシング。最近ブラシに冷え冷え魔法陣をつけたら、だいぶ気持ちがいいらしくご機嫌。毛並みも当初とは比べ物にならないくらいツヤツヤだ。
夜にブラッシングをしていると、部屋の暗がりに時々ルゥーディルが湧いてて、全力で見ないふりをしている今日この頃。白皙の面と艶やかな黒髪の美貌の無駄遣い。最初はちょっと怖かったんだが、慣れた。
翌日、畑は早々に切り上げて島へ。とりあえず塔の台所で菓子作り。長持ちするものを大量に作りたいので、ペクチンゼリーを作ることにする。
フルーツのピューレをペクチンで固めたゼリー。つるんとしたゼリーではなく、グミみたいな硬さのあれだ。
とりあえずラズベリーのペーストに水あめを加えて火にかける。沸騰したらペクチンとグラニュー糖を合わせた物を少しずつかき混ぜながら加え、溶かす。ラズベリーのいい匂い。
途中、鍋はだに付いたものが焦げないように気をつけつつ、何度かに分けてグラニュー糖を入れ、酸味を足して固める。あっと言うまに固まってしまうので、浅くて平らな器に急いで流し込む。
鍋いっぱいにくつくつと煮ては流し込むこと四度。味は家の山で採れたラズベリーとカシス、果樹園のオレンジ、ついでに始末に困った桃を混入。
固まったゼリーを適当な賽の目に切って、グラニュー糖をまぶして出来上がり。せっせと瓶詰めにして作業終了。ゼリー系は大量に作りやすくていいね!
しょっぱいものは夏らしくトウモロコシを用意してポップコーン。本当は揚げ餅を作りたいところだけど――山の畑でせっせと収穫して、材料確保しないとな。そのうち揚げ餅用に餅をついて、カラカラに乾燥させたやつ作っとこう。
菓子の瓶と袋が入った箱を抱えて本館へ。途中どこからともなくアウロが現れて、荷物を持ってくれた。
休憩室に設置にゆく間に従業員がぞろぞろついてくる事態だったのだが、アウロが仕事に戻れと笑顔で伝えると、それぞれの職場に戻っていった。大丈夫なのか、うちの従業員? ちょっと不安。
無事設置を終えると、アウロが鍵束を取り出す。選び出されたのは、どうやら菓子をしまった戸棚の鍵。
「鍵なんかかけるのか?」
「気をつけねば貪り尽くし、休憩時間を超えますので」
いつの間にか、菓子の戸棚が開くのは決められた時間のみとなったらしい。開けるのはアウロ、ファラミアの役目でそれぞれ鍵を持っているという。
キールもアウロと同じ役職にいるはずなんだけど、鍵を持たされていない理由は残念ながら容易に想像できる。
顔はいいんだけどな、うちの従業員。仕事もできるし。精霊混じりってかくも業が深いのか。――格好よく言ってみたけど、単に食い意地張ってるだけだな。
次に向かうのは勤勉に働いているソレイユの執務室。アウロがノックして扉を開けると、目の前には大きなガラス窓を背に重厚な執務机に向かうソレイユ。そのソレイユに書類を渡しているキール。
「お前……っ! 今日は何を持ってきた!? すぐ食わないと味が落ちるだろう! そうだろう!?」
目があった途端、キールが必死。
ソレイユと、部屋の端に控えているファラミアが呆れた視線をキールに向ける。
うん。鍵は持たせられないな。
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