第239話 桃の効果
「殻の使い方は分かんねぇな。埋めりゃいいだけなら、その魔物がいる場所が緑に埋もれてても可笑しかねぇだろうし」
「いや、確かリビルの谷は雨が降らん。環境のせいかもしれんぞ」
首をかしげるレッツェにカーンが言う。
「むう。後で調べてみる、ありがとう」
パルに会えればいいけど、図書館に駆け込もう。
「分かったら教えてくれ。お目にかかることは一生ない気もするが、情報だけ入れときたい。いらねぇかと思ったイソギンチャクも役に立ったしな」
笑うレッツェ。
遮熱素材で丈夫な革が手に入ったら、レッツェには作業用の手袋を送ろう。
「あ、これ桃のサワークリームチーズケーキ」
今はないので、とりあえず本日のお礼はこちらで。
机の上を片付けて、ケーキを出す。上に乗っている桃のシロップ漬けは酒を多めにしたもの。
「ほう?」
ひとくち口にして感心したような声を上げるカーン。
「冷たいな?」
「ちょっと冷やしてみた」
「まあ、どうやったかは聞かないでおく。外に出すなよ?」
「はい、はい」
釘を刺すのを忘れないレッツェ。
二人とも美味しそうで何よりです。
「そういえばその桃、美肌と美尻効果つきになったんで、基本的にお外に出せない」
「ぶっ!」
俺の発言に噴き出すレッツェ、固まるカーン。
「なんでそんな……」
「作ってる間中、美を司る精霊がずっと匂い嗅いでた」
「意味がわからん」
嫌そうなレッツェに答えたら、カーンが切り捨ててきた。
「お前、そんな効果あるもんを俺とカーンに食わせて楽しいか? アッシュにやれよ」
「桃のシロップ漬けは全部それになっちゃって、全員に配っても余るんだ」
「持ってきた瓶詰めもかよ!」
あーもー! みたいな感じになってるレッツェ。
「大丈夫だ、男性は男性的美尻で、桃尻じゃない」
笑顔で伝える俺。
「そういうお前は食ってないよな!?」
絶賛視線をそらす俺。
「結果を見てから食うか食わないか決めたいなって。ちなみに桃ジャムは美胸と美髪」
美味しそうなのにちょっと手が出ないんですよ!
「お前は〜!」
「大丈夫、常用しなければ効果は一時的だって……っ!」
ほっぺたを引っ張るのはやめてください。
「本当、つやつや。
「ベイリス」
カーンのほうは褐色幼女といちゃつき始めたぞ!?
いつのまにか姿を現したベイリスが、楽しそうにカーンの首筋から鎖骨、二の腕をさわさわと。カーンも一度名前を呼んだだけで止める気配はない。どんと構えた王様スタイル。
「対抗は諦めろ」
レッツェの方を見たら軽くいなされた。俺に足りないのは貫禄だろうか?
「せめてディーン、現実的なのはクリスだろ」
筋肉! 筋肉と身長の話か! おのれっ!
「美尻の報告お願いします」
「うふふふ。お風呂の時にね」
楽しそうに笑うベイリスと苦虫をかみつぶしたようなカーン。
「お前、精霊の使い方おかしいだろう」
眉間にシワを寄せたまま言うカーン。
「梨と桃を採るのに『王の枝』を使ってる時点で、ずれてることに気づいたほうがいいぞ」
諦めたようなレッツェ。
「大丈夫なのか、こいつ?」
今度はレッツェに聞くカーン。
「危なげしかねぇけど、力技で世の中渡ってる感じだな」
レッツェの評に反論できない何か。
生産で調子に乗って爆発させて、【治癒】発動したり色々してるからな。もうちょっと慎重に実験しないと。
心当たりがありすぎて視線を彷徨わせる。
「ディーンも心配して、ジーンが大雑把に力技で済ませないよう俺に振ったんだよ。自分じゃ、絶対引きずられるからって。――俺もだいぶ引きずられてるがな」
「心配されてたのか……」
ディーンに出会った頃は、かなりの塩対応をしてた気がするのに。
「色々やらかすのにウサギ肉の焼き加減しか見てねぇ新人がいる、ってのが紹介だったぞ?」
おのれ、ディーン!!!
「ウサギ肉……。まるで成長してないではないか!」
「この間焦がしたのはちょっと果物狩りに夢中だったからで、今はちゃんと美味しく焼ける!」
最初に失敗したのも他に気になることがあったからだし!
「ジーン、そっちじゃない」
レッツェがそう言ってゆっくり頭をふる。
「これが俺の主人か……」
カーンがなんか微妙な顔をして俺を見てくる。
「男なら剣で身を立て、一国を興そうという気概はないのか?」
「『快適に、のびのび、自由に』が座右の銘だ」
あと一国はもう興してるけど、やらかし現場なので黙っとく。
後日、ベイリスがらキュッと締まっていい尻だったと要らない報告を受けた。いや、報告頼んだの俺だけど。
桃ジャムは帰ってきたディーンとクリスが面白がって食べて、胸板でシャツを破ってみたり、髪の毛サラサラになってみたり、まつ毛がカールしてみたりしたらしい。
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