第238話 【鑑定】さん
「これはリビルの谷の魔物か?」
見ていたカーンが聞いてくる。
貸家の一階には、レッツェとカーン。ディーンとクリスはお仕事中、城塞都市で散財したから、涼むのも兼ねて泊まりがけで森の奥の方で魔物を狩っているらしい。しばらくは三日留守にして、戻って二日のんびりという生活をするらしい。
「場所の名前は知らないけど、エスより西」
「リビルだな。黒い岩の地だろう?」
「そう」
「お前、別の大陸かよ。俺が知るわけないだろうが」
レッツェが言う。なんでも知ってると思ったのに知らないこともあるようだ。
「俺の国があった頃からさらに昔、噴火でできた土地だな。大昔は海底だったと伝わっている。そいつは海の魔物の名残、そいつらがいるさらに奥に棲む陸珊瑚の魔物の魔石は王家の婚礼に使われる」
「へぇ」
どうやらカーンの方の守備範囲だった模様。
「で、これの解体は?」
珊瑚の方は見た目から、珊瑚として扱っていいかな〜って。謎なのはイソギンチャク!
「知らん。毒が暗殺によく使われるくらいだな」
王様、知識が偏ってる。
「この殻は見たことねぇが、イソギンチャクの亜種か? だったら毒と
分厚い皮の手袋をして、出したものをひっくり返したり観察していたレッツェが言う。
「やっぱり毒利用?」
「毒としても使えるが、薬と金属の染色の触媒になる――イソギンチャクと同じだったらだが。刺糸はイボやできものの治療に重宝される」
おおお!
「解体は? どうやるんだ?」
「空き瓶二つあるか?」
レッツェに聞かれて差し出す。
レッツェが片方の瓶を塩水で満たし、もう片方に油を五ミリほど注ぐ。
イソギンチャクの触手の中にある楕円形の刺胞を取り出して、刺胞の中からちょろっと出てきた透明な、五センチほどの刺糸をそっとつまみ、塩水の中へ落とす。
刺糸は名前の通り針を先につけた糸みたいなやつなんだけど、塩水につけたらまっすぐになった。ちょっと面白い。
今度は刺糸を取り出した穴から、毒液を油の入った瓶へ落とす。毒は油に沈み、しばらくすると綺麗に層を作った。
「ん。本に書いてあったイソギンチャクと一緒だったな、ちゃんと真っ直ぐに伸びた」
刺糸の入った瓶を目の高さに持ち上げて眺めながら言うレッツェ。
本物のイソギンチャクは小さいし、さらに刺糸は目に見えないほど。こんなにでかいのは魔物だからだ。
「おお」
「喜んでるとこ悪いが、解体方法は一緒でも、効能まで一緒とは限らねぇからな?」
レッツェに釘を刺される。
「検証を薬師ギルドに依頼だな。効能が違ったら、何かに利用できるかさらに実験することになる」
「なるほど。薬師に依頼するのか」
自分で回復薬つくるようになってから、寄り付いてなかった。
「毒や薬の利用は慎重に見定めてもらわねぇと困るしな」
確かに。
「今の時代は【鑑定】持ちはおらんのか?」
カーンが聞いてくる。いますよ、ここに。
「一度知識を入れたものの鑑定ならできるやつがいるな。あとは火属性のもん特化とか。俺が聞いた限り、条件なしで全部鑑定できたってのは、風の時代の勇者の一人が最後だ」
「この時代は精霊の加護がずいぶん弱くなったようだな」
「今は精霊同士が眷属で固まって、縄張りにしてる場所や人以外に、力をあまり貸さねぇんだと。逆に一つの属性についちゃ、突出してるのもいるよ」
「なるほど、【鑑定】は一つの属性でなく総合か」
「そりゃ、色んなものを――静かだと思ったら、すげぇ顔してるな」
レッツェの言葉にサッと視線を逸らす俺。
「……【鑑定】持ってんのか? 野良勇者」
ジト目で俺を見てくるレッツェ。
「持っていれば人に聞く必要はなかろう?」
杯を口に運びながら、カーンがレッツェに言う。
「……」
カーンに言われても、無言で俺を見てるレッツェ。
「森の毒キノコが分かって便利だな、って」
レッツェのジト目に負けて答える俺。
「食うもの以外に使うの忘れてたんだな?」
「はい」
ちょっとイソギンチャクに使ってみたら、食材ほどじゃないにしても鑑定結果が出る。
そういえばキンカ草も何に効くかは出たんだよな、作り方は出なかったけど。薬師ギルドで薬の調合を覚えたあとは、鑑定結果もその分詳細になった。
「魔物の鑑定を優先せんのか? 命に関わるだろうに」
カーンが呆れた顔をする。
【鑑定】が欲しいと思った時は、食材の見分けが命に関わってたんだからしょうがない。あの時、キノコの見分けが付いてれば、もう少し栄養がとれたし、他にも食えるものがあったかもしれない。切実だったんですよ!
「ほれ、答え合わせ」
気を取り直したレッツェがつついてくる。
「毒の方は、毒とその解毒薬、金属を黒く染めて
【鑑定】をかけて頭に浮かぶ結果を口にする。
――殻は土を富ませる?
「……」
あれ?
「なんか腑に落ちねぇ顔してるが、海のイソギンチャクと一緒だな。触媒は鍛冶屋や彫金屋で使うんだろうけど、毒のまんまじゃ売れねえ。販売先は薬師ギルドだな。毒を扱うなら、ついでに解毒薬の作り方を教えてもらっとけ」
「はい」
素直に頷く俺。
毒を扱ってて自分でうっかり触っちゃったり口に入ったら、普通は解毒薬がないと困る。俺は【治癒】があるけど、一回学習したら鑑定結果に上がってくるようになるっぽいし、やっておこう。
俺が持っている能力は、【魔法の才能】【武芸の才能】【生産の才能】【治癒】【全料理】【収納】【転移】【探索】【鑑定】【精神耐性】【言語】【解放】【縁切】【勇者殺し】。
【勇者殺し】は使ったことがないけど、能力丸っと守護してくれた神々全員と、周囲の精霊の助力がある。それぞれ得意不得意があるものの、全員だ。
以前存在した神々の眷属も普通に手を貸してくれてる。なので眷属間で縄張りがあると聞いて妙な感じ。眷属関係なく契約してるしな。
もしかしたら【解放】が効いてるんだろうか?
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