第237話 黒い岩の地

 さて、本日はパルに教えてもらった黒い岩棚探し。場所は俺の家から南東というとてもざっくりした説明。


 でも俺の家から南東って、この半島の中か、海の先の一部しかない。多分、パルの言う範囲は俺の貰った地図の中、エスに行く前の範囲だと思うから。


 多分、取りまくっても大丈夫なところ。ということでエスの西側にやってきた。砂漠で人が住んでないからな!


 で、その辺にいる精霊に黒い岩がないか聞き込み開始。本日は暑いので、フード付きのコートの裏地に冷える魔法陣装備。快適だけど、魔石の消費が激しい……石に囲まれた塔の中を冷やすより、革一枚の中を冷やすのはとても大変なんですね、わかります。

 

 断熱効果に優れた皮も探さないと。冬場の暖炉のダンちゃんも大変そうだったし。


 精霊に聞き込みをしながらちょっとずつ【転移】を繰りかえして到着。


 薄い黄土色の砂から顔をだす黒い石。最初はちょっとだけ、だんだん大きな丘のように。そのうち固まった黒い石の方が多くなり、砂は吹き込んできたらしいものが足元にあるだけになった。あれだ、でかい火山がありそうな気配。


 軽石化してるのかなんなのか、穴がいっぱい。この岩を砕いてけばいいのかな? 


「うをうっ!」

イソギンチャク!


 違う、魔物! 岩だと思ってたら、岩に張り付いた擬態した魔物だった。たくさんある穴からイソギンチャクみたいなニョロニョロが出てきて、真ん中には牙の生えた丸い口。


 慌ててファイアボール。だが少し怯んだだけ。あ、こいつニョロニョロ短い。


 エクス棒で口を目掛けてゴスっとね。擬態してて、壁に登って来たトカゲとか捕まえるのかな? 思考能力はなさそうな魔物だ。


 注意して見れば、たくさんへばりついている。そしてどうやら火や熱に強い。岩のような硬い外皮があって、風にも強い。頑張れば火でも倒せそうだけど、他も溶かしそう。


 人がいないとはいえ、地形を変えるのは最小限にしたいところ。


 そういうわけで、エクス棒でちょいちょいとやって、口を開けさせたらニョロニョロを避けてゴスっとやるプレイ。


 ニョロニョロは触手でいいのかな? イソギンチャクみたいにつつくと引っ込むんじゃなくて絡み付こうとしてくるけど、短いのでエクス棒の前では無力だ。


 イソギンチャクはだいたい毒持ち。観察するとコイツも透明に近い細い針を触手から出している。


 刺胞動物の魔物か? いや、ツノが見当たらないから普通の生物? どちらにせよ、刺胞動物特有の刺胞には毒液がつまっていて、刺激が与えられると中の刺糸がパッと飛び出し、その先端から毒液が出る。


 やっぱりコイツも毒があるんだろうな。【探索】を切って、観察し、気配を探る。修行ですよ、修行。でも怖いから【探索】をかけ直して答え合わせ。


 ツノが見当たらないと思ってたら、口の牙の一部がツノだった。折りまくっちゃったよ!


 トコブシみたいな貝をとるように、倒した後に岩と魔物の隙間にナイフを入れて、一気にぐりっとやると簡単に取れる。


 でもどの部位を持って帰るべきかさっぱりなので、解体はせずに【収納】に放り込む。後でレッツェに聞いてみよう。


 こうして少しずつ進む。どんどん左右の黒い岩壁は高くなってゆく。侵食され風化したのか、もともとこうなのか、複雑に歪んだ谷。


 進んだ先は色とりどりの珊瑚っぽいやつと、さらにデカいイソギンチャクの群れ。綺麗だけど触手全開って臨戦態勢ってことか?


 とか思ったとたん、珊瑚っぽいのがピンク色の丸いものを飛ばして来た。避けると岩に当たって弾け、中の液体が飛び散って、岩から白煙が上がる。


 酸?


 確認する間もなく、大量に降り注いでくる。あれです、学習しました。


「風の盾」

俺の周囲を薄い風の膜が覆う。ドーム状のそれは、凄まじい速さで吹く風、守るだけでなく触れるものを弾き飛ばし、或いは切り刻む。


 堅固さでは地の盾より劣るらしいけど、便利便利。でもこれ、素材をダメにするから怒られるヤツ。


 地面にもビッシリなので、さらに魔力を込め、精霊に助力を願う。


 俺が進む少し先の魔物と、ついでに岩が崩れて、つるんとした道ができる。


 あれだ、草刈機? いや、アイスクリームをスプーンでえぐったみたいだ。ここにいる魔物はその場を動かないみたいで、俺の進んだ後に道ができた。


 左右の状態が良さそうな魔物を、ひっぺがして【収納】。あ、ひっぺがさなくても倒した後なら【収納】できた。


 ところで岩棚って、どの辺の持ってけばいいのかな? とりあえずここは魔物とはいえ綺麗なんで避けようか。


 そういうわけで、後半は戦闘をサボり、でも行手を塞ぐ魔物は倒し、良さげな岩棚を探す。


 何ヶ所かあたりをつけて、魔法で砕いては【収納】。全体的に成分は変わらないんだろうけど、気分です。


 丘の二つ三つ分くらいは手に入れて、帰還。桃のシロップ漬けを届けがてら、さっそくレッツェに解体方法と使える部位を聞く。


「いや、お前、どこ行って来たんだ? 見たことねぇよ!」

「ええっ!?」

一階の机にシートを敷いて出したら、見たことないと言われた。

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