第236話 吸う。
途中、ウサギ穴を再びつつこうとしてカーンにつまみ上げられたりしながら、カヌムに帰還。そのまま食える
洋梨は樹上では熟してくれず、収穫後10日間ほどは4度くらいで保存、その後20度くらいで追熟。【鑑定】結果にこうあるので、冷やす用の箱を作ったことだし、やってみよう。ジューシーで甘くとろけるような食感に変わるらしいぞ? 楽しみ。
別な種類の、生で食えない感じの洋梨も採ってきた。これは洋梨のお酒を作る。外果皮に天然の酵母くっついてるので、果汁を絞ったら自然にアルコール発酵が始まる。こっちでよくある酒だ。
桃はジャムとシロップ漬け。せっせと二つに割って種をとる。量が量だし、この作業が一番手間がかかる。【収納】利用で後片付けは劇的に楽だし。
シロップ漬けのシロップは水と白ワイン、砂糖、レモン。果肉の色そのままのとピンクを作る。
ピンクにする分はなるべく赤い桃を選んで、皮を付けたままそっと煮る。優しく、慎重に。白っぽいままにするほうは、トマトみたいに湯剥きしてから煮る。味は一緒だけど、後で二色の桃のパイを作るつもりだ。
「よい香りがするな」
「ハラルファ」
急に部屋が一段明るくなったかと思えば、ハラルファがそばに立って覗き込んでいる。
「吸う?」
光と愛と美を司るハラルファは、確か香りを食べ物扱いしてたはず。おっと、猫の腹を吸うハラルファを想像しかけた。
「うむ。ここにいるだけで漂ってくる、何を作っておるのか?」
「桃のシロップ漬け」
「花の香りの方が好みじゃが、たまには良い」
作業している俺を、空中で足を組んで見下ろしているハラルファ相手に雑談。――これも空気椅子っていうんだろうか? あと正面に来られると見えそうなんですが、パンツは履いていますか?
「今、島を大改造中なんだけど、勇者ほいほいになりそうで……」
「おや、勇者とは【縁切】しておったじゃろうに」
「してるけど、勇者が好きそうな場所に仕上がりそうだから、ちょっと不安になる」
「そなた、三人――いや、ナミナを入れて四人としか【縁切】をしておるまい? 勇者はナミナからしか守護を受けておらぬし、それも三人に分散しておる。勇者はナミナを超えられず、ナミナが自身の力を超えられぬ時点で心配はいらぬ」
ナミナと言われてもピンと来ないところがあるのだが、俺をこっちに巻き込み召喚した光の玉のことだ。
俺は最初に飛ばされた島で、精霊たちから守護を得た。守護は元いた世界の寿命の代わりに、能力をもらうことで成立する。
仕組みはよくわからんけど、与えられた能力を使うと守護した精霊が強くなる。俺が能力を使うと、精霊の力を消費して戻るときにちょっと成長するようなイメージ。神々が信仰で強い存在になるとかそんなかんじ?
光の玉の守護――というか力も実はもらっている。直接かかわるのが嫌だったので、同じ光属性のハラルファとミシュトを介して光の玉の力を【縁切】に流れ込ませている。
通常貰った能力は与えた精霊には効かないんだけど、俺の場合は光の玉だけに貰ってるわけじゃないんで、光の玉とは遠慮なく【縁切】させてもらった。
ハラルファが「自身の力を超えられぬ時点で心配はいらぬ」と言ったのは、光の玉が強くなると【縁切】も強くなるという状態のことだろう。
【縁切】した対象が多くなると、関わる人も増えるので、能力が薄まるらしい。対象そのものにも、周囲の人にも意識誘導をかけている状態になるからだ。俺に関することを覚えていられないとか、無意識に別の話題にうつるとか。
俺は勇者と光の玉にしか【縁切】を使っていないし、勇者を守護する光の玉自身が思い込みが激しいせいもあって、よく効いてるって。
光の玉は戦から生まれた精霊で、自身の正義を掲げてつっぱしる系だそうで、姉と相性がよさそう。司ってるのは剣技と攻撃魔法、光属性なのに回復系は苦手だそうだ。
「今のところそなたはおろか、そなたの手によるモノも無意識に避ける状態。人の手を経て、他の者たちの気配や執着がつけば別じゃがな」
何か思い出したのか、くつくつと笑うハラルファ。
販売済みで俺の手元から離れたヤツとか、まねて他の誰かが作ったヤツとか、間に人が入ればいいみたいなかんじかな?
「花が咲いたら、そのうち島にも立ち寄らせて貰おう」
そう言って、できたばかりの桃のシロップ漬けをたいらげて、姿を消すハラルファ。
……吸う以外もできたんだな。そういえば花についた朝露とかも飲むんだったか。
よし、島でいっぱい動かせないものを作りまくろう。それはそれで、勇者以外の何かをほいほいしちゃいそうだけど、それはソレイユに丸投げしよう、そうしよう。
あとこのシロップ漬けと果物どうしようかな? ハラルファ印の品になってる気がするんだけど。
……。まあいいか、配る範囲は決まってるし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます