第232話 隠し事は難しい

「迷宮か。行ってみたいけど」

カヌムから行くには流石に離れてて、経由が城塞都市なんだよな。


「前から気になってたんだが、お前城塞都市嫌いだよな?」

レッツェが聞くと言うより確認してくる。なぜばれた!


「え、ジーンが城塞都市に行ったつう話も聞かなねぇけど、なんか嫌なことでもあったのか?」

ディーンが驚いてこちらを見る。


カヌムここより食事も美味しいし、何故だい?」

クリス、俺の基準が飯みたいに言うな!


「娼館とか無理に引っ張ってったりしねぇぞ?」

ディーンが言う。


 娼館については行く気はないけど止める気もない。儲からないと年季があけないだろうし、どんどん待遇の悪い娼館に転売されてくんだろうし。


 奴隷市見ちゃうとそれよりマシだと思ってしまう。俺、ナルアディードの比較的ましな奴隷市でも無理だったし。特に食肉用の奴隷市は魔の森があるおかげでこの辺にはないけど、存在自体がきっつい。


 手出しするつもりはないから、口出しも否定もしないけど。


「食料の補給もあるし、寄らないってのはキツイ。あ、俺参加ね、子どもたち連れてく前に下見してぇし」

ビールを飲み、玉ねぎをひっくり返しながらディノッソが言う。


「おお、やった!」

「ありがとう」

ディノッソの参加表明に、ディーンとクリスが喜色を浮かべる。


「え。強い人ついてっていいの?」

ありなの? 金持ちとか実力ないのにランク上げ放題じゃないか。


「実力のうちに人脈もあっからいいの」

そう言ってまたビールのおかわりをするディーン。


「参加するランクの人数によって、指定される到達目標の階層が変わるんだよ」

「なるほど」

クリスの説明に納得する俺。


「そうは言うけど、結局迷宮内で合流されたら誰が手伝ったかなんてギルドにゃ確認しようがないからゆるいんだよ」

「それでいいのか、冒険者ギルド」

続くディーンの言葉にまた納得できなくなる俺。


「冒険者は依頼を果たして、無事帰りゃいいんだよ」

究極なこと言い始めたぞ!? さては酔っ払いだな?


 ディーンは酔い始めると言動が愉快で軽くなる。すぐ酔うけど潰れるまでは長い。クリスは度数の高い酒をゆっくり飲むタイプで、正気の時間は長いけど、ディーンと潰れるタイミングは大体一緒。


 ディノッソは酒に強くて、陽気になるくらいで滅多に酔いつぶれない。レッツェはディーンとクリスがいると付き合い良く酔いつぶれてることが多いけど、翌日依頼がある時は酒量を制御してる、酔いつぶれるのも時と場所を選んでる感じ。


「違う迷宮にするってのもな。ジーンだけ別行するか?」

「うー。一緒に行く」

確認してきたレッツェに答える俺。


 出発時期を決めて、あとは普通に食事の続き。分厚い肉も焼けて、ディーンが切り分ける。こっちの肉、二センチ以上なのが普通。日本式と混在させてるのだ、薄い肉は霜降りがしつこくならないし、すぐ焼けるところもいい。


 肉が取り出され、空いた場所にデザートがわりにトウモロコシを投入。


「このトウモロコシ、全部に実がついてんだな」

まじまじと観察するレッツェ。


 あからさまにこっちと違うものは、そんなにじっくり見ずに口にするけど似たようで別なものの観察は長い。焼けるの待ってるだけかもしれないけど。


 ちょっと邪魔だったので、シシトウをディーンの皿に移す。肉と炭水化物ばっかり食ってないで野菜食え、野菜。


「迷宮行ったらしばらく食えないかと思うと、野菜もうまい気がする」

そう言って俺が皿に投入したシシトウをかじるディーン。


「アッシュたちとカーンも行くかな?」

カーンは都市の移動とか、旅の仕方とか興味持ちそうだけど。こっち来て初めて馬に乗ったって言ってたし。


 ……駱駝らくだならあるとか言われそうだが。


「頼む予定だけど、カーンの旦那はどうかな?」

首をかしげるディーン。


「迷宮に潜っても問題ないくらいに強いのはわかるけど、魔物との戦闘より街の暮らしに興味がありそうだからね。誘っても断られる気がするよ」

肩を竦めるクリス。


「ああ、千年以上前の男だから街の方が色々珍しいんだろ」

「千年かい?」

「お前が言うと冗談に聞こえねぇ」

本当ですよ?


「まあなんだ、毎回ちょっと前の自分を見る気分になるよな」

「ああ。全くだ」

二人の様子を見て、ディノッソとレッツェが言い合う。


「ちょっと待て、その反応……」

ディーンが聞き咎める、ちょっと嫌そうな顔をする。


「諦めろ」

レッツェが言ってディーンとクリスから目を逸らす。


 カーンが一千年前なのは俺の責任じゃないぞ? 見つけた時はすでに千年以上過ごしてたんだからな?

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