第230話 どうして来た?
宣言通り島で好き勝手している俺です、ジーンです。
「無理そうなら領主代理辞めとくか?」
「辞めるわけないでしょう! 私の胃が心配ならあの蜘蛛の巣をちょうだい! 青く染めて染物の販促に使うわ!」
ソレイユがあんまり泣くので領主代理辞退するか聞いたら、なんか要求が来た。
島の住民の現金収入の手段として、青く染色した糸や布の販売を計画している。そしてソレイユはやる気満々。
商売はナルアディードでだし、島は最初出入り禁止方向にしようかと思っていたのだが、観光で島に入りたい奴からは高額をぼったくる方向にした。どうせ水路とかで興味を持たれるだろうしね。
その辺はソレイユは上手くて、なんか敵対する商売人同士がどうしても取引しなくてはならない時の場所の提供などを持ちかけて、上手くバランスを取っているらしい。まだ解放前だけど、根回しは順調とのこと。
腰痛軽減の
絶対ないとは言い切れないし、力に任せた野盗の類――この場所だと海賊――もいるんで油断はできないけど。
防御面でアウロがお任せくださいっていい笑顔だったし、キールも悪い笑いを浮かべてた。どうなってるのか若干不安になる俺の島。
「執務室の窓は覚悟してたけれど、この塔を作った人物を出せと言われるのが目に見えるようだわ」
「流しの石工が作って消えたとか、小人さんが夜なべして作ったとか適当に頼む」
趣味で作っているので仕事にする気は無いぞ。
「流しの石工って何!?」
カッと目を見開くソレイユ。
「執務室の窓はわざわざそのために壁どころか建物の構造をデザインしたもの。ここはおかしすぎる」
キールが言う。
「気のせい気のせい」
「面倒は全て我らにお任せください、我が君」
「ちょっと、勝手に受けないで! 蜘蛛の巣をもらってからよ!」
ソレイユはなかなか根性があると思います。半泣きだけど。
とりあえず作り手に聞いてみるということで手を打った。後で蜘蛛の精霊に頼んでみよう。
そういうわけで、早々に退散してカヌムに戻って海老を焼いている。
「俺、川エビよりでけぇの初めて食う」
「私は故郷で食べたかな」
伊勢海老が焼けるのを見ながらディーンとクリスが言う。
今日はご飯会なのだ。昨日色々仕込んだんだけど、どうしても海老が食べたくなってですね……。
机の上の鉄板は網に変えてホタテと肉も焼いている。伊勢海老くんは場所を取るし、時間もかかるので調理用暖炉。
「さて、食おうか」
メンバーはディーン、クリス、レッツェ、ディノッソ。
アッシュたちとカーンは依頼をこなしている。城塞都市、娼館の話が出そうなんで執事がアッシュを避難させたともいう。リードの話もでそうなのでカーンも遠慮。
「おう、乾杯!」
うきうきしながらジョッキを掲げるディーンに、みんなもジョッキをあげる。
とりあえずビールを一気飲みするのがディーンとディノッソ。クリスとレッツェは半分くらいを飲んで、料理をつまみ出す。
「ぷは〜! やっぱこの酒美味いな。味も好きだが喉を通る時の感覚が最高!」
テレビCMではディーンの言うそれを喉ごしと言っていた。
「俺はこれも好きだが、この間出された透明な奴も好きだな」
「ああ、俺もあれは好きだな」
ディノッソとレッツェが言うのは日本酒のことだ。
日本酒を好いてもらえるのは嬉しい、でも焼肉ならビールとかハイボールとか炭酸系な気がする俺だ。
「ジーン、弟のことありがとう。神殿に行って自分の精霊と向き合った時、姿を現したのは、やはりユニコーンではなかったそうだ」
マッチョな馬頭ですね?
「だいぶショック受けてたみてぇだったけど、ありゃ密かにユニコーンなこと自慢だったんだろうな」
「まあ、正しき騎士らしい姿の精霊だからね。でも馬混じりなら上手くいけば精霊の道を通れるようになるかもしれないって切り替えてたよ」
「ユニコーンだって馬だろ? 精霊の道って?」
精霊の道というのは金銀が通ったあれか?
「精霊の道は時間も距離もこっちとは違う法則だからね、使えるようになれば移動が楽になる。――ユニコーンは乙女の危機に駆けつける時しか道を開いてくれないんだよ」
ブレないな、ユニコーン!
「精霊の道は精霊界とこっちとの境、ギリギリ精霊界みたいな場所だ。精霊の助けがあっても人間が入り込むのはかなり珍しい」
ディノッソが説明してくれる。
「私の弟は、ちょっとでも可能性があればそれを目指すのさ」
ウィンクして笑顔で言うクリス。
馬頭の助けで異界に行くって、それなんてあの世?
「移動といえば、あのことは?」
「ああ」
レッツェが聞き、聞かれたディーンがジョッキを置く。
「何だ?」
「城塞都市に勇者が一人いた」
「え? 誰だ?」
まさかの勇者遭遇! 何しに来たんだ?
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