第228話 理想の形

 風呂の脱衣所にも冷え冷えプレート欲しいな。いやだが、風呂で石のプレートなら岩盤浴のほう……?


 塔の内部もだいぶできてきた。リフォームしてくれた石工がつけてくれたらしい、小さな換気口には網戸をつけた。いや、戸じゃないけど。


 最初は枠を作って狐の魔物のヒゲで網を作ったんだけど、太さが違うしイマイチどころかイマサンだったので、蜘蛛の精霊にお願いして網を張ってもらった。


 蜘蛛の放射状に伸びた糸は、蜘蛛自身が歩くためにネバネバしないので、全部それで作ってもらった、虫は入れないけど引っかからない蜘蛛の巣だ。しかもなんか前にテルミストで買ったレース模様を真似たものもある。


 壁や天井にそれぞれ明かりを設置、基本は管理が楽そうな精霊灯だけど、寝室は寝るときは暗くないと困るのでランプ。精霊灯から魔石を抜いて精霊を追い出すことになるのも嫌だし。


 精霊灯は魔石代がかかるけど、俺がカヌムで売るに売れずに溜めてたものがあるので無問題。


 それぞれの部屋にソファとベッドフレームを仮置きして、部屋にピッタリ合うように調整。どっちも壁に沿って円を描く変形仕様。


 高さはこれくらいか? 白墨で壁に印をつける。ベッドは寝転がってドラゴンを見る予定なので、窓枠はほぼ同じ高さ。掛け布団がはみ出ないように心持高くしとこうかな?


 一番下の階に入れたソファは背もたれ無しで、出入り口などの開口部を避けながら塔の壁を半周ほど。窓枠の高さは座面から三十センチくらい。窓枠を机代わりにしてコーヒーが取りやすい高さ。


 壁が分厚いから、出窓――いや出てないけど、ちょっとした棚くらいのスペースにはなる。背もたれはクッションのでかいのを置く予定。海から十メートル以上あるけど、そのまま飛び込めるように窓とお揃いのデザインのガラス扉もつける予定。


 時々高い崖から海や、川の淵に飛び込む映像があるけど、あれだ。特に川の淵に次々飛び込む田舎の子ども達の映像は、夏の暑い時に気持ち良さそうで楽しそう。


 多分、今の俺の身体能力ならいけるはず……っ! でも海の中に岩が多くて怖い……っ! ――ちょっと舟で行って、海中を調べてからにしよう。


 海や川の中は水流が渦巻き、見た目からよりも危険な場所が多い。そんな場所に、なんの気負いもなく飛び込む子どもたちの映像。子ども達の間で代々、「安全な場所」を伝えてきたんだろう。それも含めてちょっと羨ましかった。


 島の周りの海は、三方を陸に囲まれ普段の波は穏やか。だがしかし、この世界には精霊やら魔物がいるわけで、時々凄い嵐が起こり海は渦を巻き、五メートルを超える波が立ったりするらしい。エスの方でそれが起こると、こっちの海面が下がったり。


 帆船で商売してる人たちは大変だろうけど、安全な場所から荒れる海を見るのも一興。静かな風景も、恐ろしいような風景も色んなものが見たい。


 さて、準備はできたので窓を。


 ……昼間いまやったら、目立って叱られるだろうか。それに俺の塔の真下は舟が通らないはずだが、万一石壁が落下して当たったら困る。夜にこそこそ作るとしよう。


 明日はディーンたちと酒盛りの予定だし、ちょっと料理の仕込みをして、夜に留守にする分リシュと遊ぼう。


 そういうわけで夜に出直してきました。


 先ずは寝室から。仮置きしたベッドフレームを退け、『斬全剣』で白墨の印に沿って壁を縦に切る。四センチくらい開けて平行してもう一回、二つを繋げる横の二回。


 押し出して取れる厚みじゃないけど、それは【収納】して解決。四センチくらいの長い隙間、ここに精霊鉄を流し込む・・・・


 金や銀と違って精霊鉄は結構ある。精霊銅も量があるけど、加工がしやすいので精霊灯とかすでに色々作って使っている。なんかどれも足りなくなりそうだったので、新たに普通の鉄と銅のインゴットを購入して作業場に積んだのは俺です。


 精霊に精霊鉄に変えてもらって、十分な量を用意できた。精霊鉄は俺の願いを入れて、四センチの隙間を埋める。同じ四センチの隙間を順番に作って、埋めてゆき、石の支えを作ったところで、今度は上を横にちょっとずつ。


 そうして出来た、窓のフレーム兼壁の支え。壁の縁をぐるっと一周した枠に、八十センチ間隔の格子。まだ消費しきっていない床の精霊鉄に続いている。


 【収納】からヴァンに手伝ってもらって出来た、アホみたいな強化ガラスを取り出して、格子の間にぺたっとね。


「よろしくお願いします」

格子が急に硬さを失くして、ガラスの端が鉄の中に沈む。するすると蔦が伸びるように、精霊鉄が四隅と中央の一部に模様を描く。


 ファンタジーですよ、ファンタジー。石壁くり抜きまくって、これで強度足りてるって言ったら色んな人が泣く気がするけど、ファンタジーだから仕方ないよね!


 これを格子の間分続けて、床の精霊鉄は綺麗になくなった。黒鉄のフレームに収まった美しいはめ殺しの窓。ん? はめ殺し?


「すみません。修正お願いします……」

開け閉めできるように変えてもらいました。


 海を見るソファの部屋の窓と扉、その上の階のガラスなしのフレームだけの部屋。ベッド入れて、ソファ入れて、クッション入れて。


 よし、今夜は徹夜だ! どんどん完成する部屋にテンションをあげて、頑張った結果。


 夜中に顔を出した塔のトカゲに賞賛され、朝一で死にそうな顔のソレイユと対面することとなった。

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