第227話 塔の上の風呂
自分の塔に帰って一息ついている。
給与の一部を菓子で希望の従業員が増えた。チェンジリングじゃない普通の人の中にまで菓子払い希望が出る始末。希望がなかった面子にも、ナルアディードで購入した菓子をおやつに出してるはずなんだが……。
ほとんどが俺より年上なのに、直接配ると児童館とか子供会のお祭りのようなことになるのが微妙な気分だ。
水を引く前からの移住希望者第一陣を受け入れ。大きな島じゃないので、街に住むチェンジリング含めて十四家族。
移住希望は基本、ナルアディードで募ったそうだ。農民が移住しちゃうと、生かさず殺さずな納税者を奪うことになる。その点、商業都市で交易都市なあの島は都合がいい。もともと一旗上げるためにあちこちから出てきてるし、逆に商売で失敗して外に出ざるを得なくなった人がいたり。
どんなに遣り手だろうが、海運は船が沈んだら一発没落ってこともあるしね。ソレイユと金銀の審査を通った方々です。犯罪者崩れの
宿屋とか塩屋とか――主要な商売は第一陣の人にお願いする方向らしい。ソレイユは交渉とか色々な手続きとかは沈着冷静に進めるのに、仕事が終わりファラミアや金銀以外の人目がなくなった途端、「無理ぃ〜〜〜っ」と叫んで崩れ落ちるらしい。
あれだ、カーンに時々領主やってもらおうか。たまに姿を見せれば、あとはいるように見せかけて――王様だったしきっと適任。この島みたいに城があって独立してるのは城主領って言うのかな? 城主領とか城がなくって領土だけの小領主とか。城主領とか小領主を自分の下に置いてるのが王様のはず。王領とか直轄領もあるはずだし! よし、適任、適任。
――俺が領主だって、元の住人にも従業員にもバレてるし、俺の塔も出来上がったら目立つだろうし、あんまり意味ないか。
考え事をしながら階段を上がり、最上階に出る。ちょっと首を伸ばして下の水路を覗くと、俺の塔に向かって伸びた水路が壁に当たってじゃばじゃばと溢れ出している。
「よっと」
汲み上げるための魔法陣の描かれた管に魔石をセット。
すぐに管から水が流れ、細い水路を満たす。水路には管のそばに直ぐ穴があって、それは台所に続いている。
残りは風呂桶に向かっているのだが、風呂桶に流れ込む前に二つに別れ、片方は水のまま、片方はヴァンからもらったガラスの欠片の上を通り、熱湯に。熱湯の方は流れがゆっくりになるよう、ちょっと水路の幅を広げたりしている。
掛け流しですよ、掛け流し。風呂に流れ込む冷たい水の方を調節して温度を決める。風呂に流さない余った水は素焼きの水路を通って、風呂から溢れたお湯と合流して排水溝に。お湯のまま海に落とすのは少々気が咎めたし、ちょうどいい。
まあ、風呂が溢れるまでちょっとかかるし、素焼きの水路から滲み出る水を必要とする植物はこれから植えるんだけど。
そういえばこっちの世界、普通に青いバラがある。元の世界だとバイオテクノロジーで作ったんだっけ? 花言葉が「不可能」から「夢かなう」に変わったはず。
花には精霊がよく訪れるせいか、精霊の色を宿して色とりどり。ただ、野生種に近いというか、花が小さかったり一重だったり形は地味なんだけど。
そういうわけで『食料庫』から引っ張り出して、庭に植えていたバラを株分けして持ってきた。元が食用バラなので花びらの色が綺麗で香りのいい種と、こっちの小さいけどたくさん花をつける種、バラ以外の花も。
塔というと、壁を伝う蔦のイメージ。藤でも植えようかな。せっせと植えて、一仕事したあとは風呂。青い空の下、海を見ながらのんびり。ナルアディードを目指す帆船が時々通る。
あ。望遠鏡があるのか、それは困る。
光と大気の精霊に階段から風呂周辺は、距離があると歪んで見えるようお願いする。これで安心。開放感のある風呂だけど、そこまで大開放する気はない。
ドラゴンが海の上を飛ぶ季節はエス川の氾濫が終わった後だって聞いた。まだ姿を見せるのを期待するにはちょっと早い季節だ。でも海と雲と帆船を眺めるだけで、だいぶ癒される。
のんびり風呂に浸かったあとは塔の中の改装作業。その前に冷えたライム入りの炭酸水を飲んでキュウリをかじる、マヨネーズ味噌でほんのり塩気。
水分と塩気を摂って、作業開始。
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